今回は、高級腕時計に興味を持ち始めたユーザーに向けて、実力派かつ人気のあるブランドを5つピックアップし、そこから筆者オススメのモデルを解説してゆく。この特集を足掛かりに、時計店やブティックに訪問いただき、さまざまなモデルを手に取って、検討してみてほしい。

Text by Shin-ichi Sato
[2025年10月25日公開記事]
ライター佐藤しんいちがオススメするブランドと注目モデルを紹介
初めて高級腕時計に興味を持ち始めた方にとって、時計市場は選択肢が膨大で、注目すべき点が分からずに困ってしまったりしていないだろうか。そこで今回は、実力派かつ人気のあるブランドを5つピックアップし、そこから筆者オススメのモデルを解説してゆく。
筆者の願いは、これら5つのブランドおよびモデルに絞って検討するのではなく、筆者の視点を参考に、紹介ブランドの他のモデルや、あるいは、同ジャンルを得意とする他ブランドにも視野を広げ、それぞれにピッタリの1本を選んでいただきたいということだ。この特集を足掛かりに、時計店やブティックに訪問いただき、さまざまなモデルを手に取って、検討してみてほしい。
セイコー「キングセイコー」Ref.SDKA005

自動巻き(Cal.6L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径38.6mm、厚さ10.7mm)。5気圧防水。41万8000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012
最初に取り上げるのは、人気があり、かつ技術面の評価も高いセイコーが手掛ける腕時計だ。その中でも、「キングセイコー」Ref.SDKA005を選定した。本作の選定理由は、幅広いシーンやスタイリングにマッチするため活躍の機会も多くなり、満足度が高まりやすいことと、今後新たな腕時計を購入した場合にも一緒に楽しめる、普遍的な魅力を持つことである。
本作は、1960年代にセイコーの高級ラインとして展開された「キングセイコー」を現代に蘇らせたラインナップだ。このような背景を踏まえながら本作を見ると、クラシカルさもありながらモダンなデザインと感じるのではなかろうか。
本作のベースとなったのは、1965年の「KSK」と呼ばれるモデルだ。KSKは、後のセイコーやグランドセイコーのデザインに影響を与えたとも言われるモデルであり、本作からはセイコーらしさと現代的なテイストが強く感じられる。一方、単なるオリジナルの焼き直しに留まらず、エッジの効いたケースとマッチする多列のブレスレットが組み合わされ、現代のニーズに応えた仕上がりだ。
搭載されるムーブメントは、高精度かつ薄型の仕立ての自動巻きムーブメントCal.6L35であり、時計の仕上がり厚さも10.7mmに抑えられている。ケース径は38.6mmで、ややコンパクトなサイズ感であり、幅広く受け入れられることだろう。
色あせることのないデザインと現代のニーズに合わせた構成、バランスの良いシルエットから、おすすめできる1本である。
シチズン「ザ・シチズン」Ref.AQ4100-57E

光発電エコ・ドライブ(Cal.A060)。フル充電時約1.5年駆動(パワーセーブ時)。Tiケース(直径38.3mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。41万8000円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
キングセイコーが機械式時計であったので、次はクォーツ式だ。光発電のクォーツ技術に長けたシチズンに注目し、「ザ・シチズン」Ref.AQ4100-57Eを紹介しよう。本作は、光発電エコ・ドライブを備えたクォーツモデルであり、併せて永久カレンダーも備えている点が魅力である。
この永久カレンダーとは、日付のみの表示でありながら内部で“月”と、うるう年を考慮するための“4年周期”を管理しており、1カ月が31日よりも短い“小の月”でも、2月から3月へ切り替わる時も、自動で正しい日付が表示される機能である。一度調整してしまえば、本作はフル充電かつパワーセーブ作動時には約1.5年間稼働するため、時計が止まってしまう心配も低い。さらに本作は、デュラテクトプラチナを施したスーパーチタニウム製であり、軽量かつ耐傷性も高められている。以上から、本作の実用性や完成度は非常に高く、幅広いシーンで活躍してくれることだろう。
ザ・シチズンの光発電エコ・ドライブモデルの魅力は文字盤にもあり、本作では、イーグルの優雅な羽ばたきをメタリックな塗装で表現している。光発電はソーラーセルに光を透過させる必要があるため、文字盤自体の素材や塗装方法に制限があるが、シチズンは発電効率を維持しつつ、さまざまなアプローチで魅力的な文字盤を製作している。本作のようなポリカーボネートへの塗装のほか、和紙を用いた文字盤がザ・シチズンにおける代表例だ。和紙特有の柔らかな質感や、日本の美意識を反映したデザインが盛り込まれ、人気を集めている。
この他のデザイン面で注目すべき点は、6時位置のイーグルのエンブレムである。これは、1960年代(すなわちキングセイコーKSKとほぼ同時期)にシチズンの高級ラインとして展開された「クロノマスター」を思わせるデザインとなっている。ケースシェイプや文字盤デザインにも、その面影が見られる点が面白い。このことから、本作は、長きにわたって受け継がれてきたシチズンの伝統を味わうことができるモデルと言えるだろう。
チューダー「ブラックベイ 58」Ref.M79030N-0001

自動巻き(Cal.MT5402)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径39mm、厚さ11.9mm)。200m防水。61万500円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570
先の2モデルは、ビジネスや改まったシーンを想定した選出であったが、もう少しスポーティーな、例えばダイバーズウォッチを選びたい場合にはチューダーに注目してはどうだろうか。多くの魅力的なモデルの中から、今回は「ブラックベイ 58」を紹介する。
ブラックベイ 58は、1958年発表で“ビッグクラウン”の愛称を持つ「Ref.7924」にオマージュを捧げるモデルだ。直径39mmという、現代のメンズモデルの標準よりもわずかにコンパクトなケースや、リュウズガードのないシルエット、ゴールドカラーによる各種スケールの印字、リベットタイプブレスレットの再現などが、当時のモデルを想起させる。
さて、筆者の私見を述べさせていただくと、ミドルクラスから腕時計を選ぶ際に、細部まで完成度が高く、満足度が高いチューダーは候補に入れておくべきだ。ケースや文字盤の良好な仕上がりだけでなく、優れたベゼルの操作感、クラスプを含むブレスレットの完成度は高いレベルにある。さらに、搭載ムーブメントのCal.MT5402は、パワーリザーブ約70時間、COSC(スイス公認クロノメーター検定協会)認定のクロノメーターであり、どこを取っても隙がない。
特筆すべきは、本作だけが優れているのではなく、直径43mmの「ブラックベイ 68」、41mmの「ブラックベイ」、39mmの本作、37mmの「ブラックベイ 54」、ハイスペックな「ペラゴス」やGMT機能搭載の「ブラックベイ GMT」など、チューダーの製品はいずれも完成度が高いことだ。サイズも機能もさまざまで、きっと自分に合った1本が見つかることだろう。
ロンジン「ロンジン スピリット Zulu Time(ズールータイム)」Ref.L3.802.4.63.6

自動巻き(Cal.L844.4)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ13.5mm)。10気圧防水。50万2700円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350
クラシカルなテイストがお好みなら、ロンジンも候補に入れるのが良いだろう。紹介するのは「ロンジン スピリット Zulu Time(ズールータイム)」である。本作は、かつての名作にまつわるストーリーやディティールを取り入れつつ、新たに企画されたモデルだ。近年ではひとつのジャンルになりつつある、ネオ・ヴィンテージテイストと言えるだろう。
本作の機能とモデル名は、1925年に製造されたロンジン初の第2時間帯表示機能付き腕時計に由来し、本作にも同表示が採用されている。24時間表記を備えたセラミックス製のベゼルインサートは艶があり、現代的な魅力が加えられている。
さて、第2時間帯表示は、タイムゾーンを超えて活動する航空業界では基準時刻とするためのもので、協定世界時間UTCに合わせて使用される。そしてUTCは、経度0度での時刻に等しく、そのタイムゾーンは“Z”で表されている。Zを意味するフォネティックコード(伝達ミスを避けるためにアルファベットに対応する単語が定義されたルール。「アルファ、ブラボー」という定番のあれである。)が“ズールー”であることから、この基準時間は“ズールー時間”と呼ばれ、 本作のモデル名に取り入れられているのだ。
アンスラサイトグレーの文字盤は、ブラックよりも印象が穏やかで、ゴールドカラーのアラビア数字インデックスや緻密なスケール、彩度を落としたグリーンのベゼルインサートが相まって、ヴィンテージテイストのあるシックな仕上がりとなっている。また、インデックスは立体的で高級感があり、ミリタリーやツールウォッチテイストに寄り過ぎていない点はロンジンの“うまさ”が垣間見える。ケース径は39mmであり、現代的で程よい存在感のあるサイズである点も魅力だ。
ハミルトン「カーキ アビエーション パイロット パイオニア メカニカル クロノ」Ref.H76409540

手巻き(Cal.H-51-Si)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm、厚さ14.35mm)。10気圧防水。32万8900円(税込み)。(問)ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン Tel.03-6254-7371
高級時計に興味を持ち始めると、機械式のクロノグラフモデルが候補に入ってくるユーザーもいるだろう。魅力的なクロノグラフをラインナップするブランドのひとつがハミルトンである。その中でも、ミリタリーテイストが魅力な「カーキ アビエーション パイロット パイオニア メカニカル クロノ」を紹介する。
ハミルトンは各国の軍隊への納入実績を持つブランドである。その中でもカーキ アビエーション パイロット パイオニア メカニカル クロノは、1970年代にイギリス空軍(Royal Air Force)へ納入していたモデルをベースとしたクロノグラフモデルである。3時位置の30分積算計と、9時位置のスモールセコンドという“ふたつ目”タイプの文字盤デザインと、リュウズガードによって左右非対称となったケースがアイコンで、クラシカルなテイストを色濃く残したデザインとなっている。
このほかの注目点は搭載ムーブメントのCal.H-51-Siである。このムーブメントは、オリジナルモデルにならった手巻き式となっており、日々、手で巻き上げるヴィンテージライクな時計との付き合い方を楽しむことができる。“ヴィンテージライク”と言っても、パワーリザーブは約60時間となっており、“毎日巻き上げないと止まる”というほど神経質になる必要はなさそうだ。また、シリコン製ヒゲゼンマイを採用しており、耐磁性能を備える点は現代的で、実用面でも安心感がある。
紹介するのはネイビー文字盤モデルである。筆者なら断然、オリジナルに近いブラック文字盤モデルを選ぶが、それではミリタリーテイストが強すぎるかもしれない。ネイビー文字盤の本作は、クラシカルなデザインにモダンテイストがうまく取り入れられており、スポーティーなクロノグラフモデルとして、いろいろなファッションに取り入れることができるだろう。



