セイコーの機械式時計のベーシックラインを支える「セイコー 5スポーツ」は、所有する満足度が高く、コアな時計ファンにも支持されるコレクションである。そのラインナップは、レトロなデザインのインフォーマルウォッチや、スポーティーなデザイン、GMT機能搭載モデルなど多彩であり、その魅力もさまざまだ。そこで今回は、コレクションの歴史を振り返りつつ、代表的な3モデルを紹介する。
Text by Shin-ichi Sato
[2025年10月16日公開記事]
セイコー「5スポーツ」とは?
セイコー「5スポーツ」は、現在のセイコーにおいて機械式時計のベーシックラインを支えるブランドである。そして、ベーシックラインでありながら高い信頼性と実用性を備え、初めての機械式時計とし満足感の高いモデルであるだけでなく、コアな時計ファンにも支持されている。
現在のラインナップの祖にあたるモデルが、1968年発表の「セイコー 5スポーツ」である。当時のスポーツブームに応えるモデルとして企画され、防水性能の向上、夜光塗料による視認性の確保や強化ガラスが採用されていた。また、前衛的なビビッドカラーをアクセントに取り入れたことで、デザイン面でも人気を集めることとなった。このカジュアルかつスポーティーなデザインは、1969年以降の自動巻きクロノグラフモデル「スピードタイマー」につながっているように見受けられ、デザイン面でもセイコーのラインナップに大きな影響を与えたと言えるだろう。
現在の5スポーツは、2019年に(それまでやや煩雑だった)ラインナップを整理しつつ刷新されたものである。伝統である高い信頼性と実用性を受け継ぎながら、常識にとらわれない自分自身のスタイルを表現する「Show Your Style」をコンセプトに、ブランド展開されている。
セイコー「5スポーツ」の現行コレクション
そんな歴史を持つ5スポーツには、現在、どのようなコレクションが展開されているのだろうか?
「SNXS」シリーズ
最初に取り上げるのは、インフォーマルウォッチとしてのデザインを有する「SNXS」シリーズである。このシリーズは、かつてリファレンスにSNXSと付けられたモデルをベースとしつつ、EDC(Everyday Carry)=「日々持ち歩く相棒」をコンセプトに開発された。シンプルなデザイン、経年による焼け色を思わせる文字盤の落ち着いた色調、コンパクトで軽快な着用感から、カジュアルだけでなくビジネスシーンにも手に取りたくなる、まさに“EDC”な存在である。
直径37.4mmのコンパクトなケースは、かつて同コレクションの開発陣によって“へびたま”という愛称が付けられていた、中央が膨らんだ流れのあるシェイプを描く。また、4時位置にはケースシェイプと一体化したリュウズが配置される。3時位置にデイデイトを備え、太い時分針とインデックス、そこに配された蓄光塗料によって視認性が高い。筆者私見で恐縮であるが、これらのデザインは往年の“5スポーツらしさ”にあふれており、ファンも納得の仕上がりであろう。

自動巻き(Cal.4R36)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径37.4mm、厚さ12.5mm)。10気圧防水。5万3900円(税込み)。
多彩なデザインが並ぶセイコー 5スポーツの中で、本作は筆者一押しモデルである。シンプルかつ落ち着いた色調のデザインは幅広いスタイルに取り入れやすく、レザーストラップへの換装も楽しめそうだ。
「SKX」シリーズ
「SKX」シリーズは、かつて同社が製造していたダイバーズウォッチのスタイリングをベースにしたシリーズだ。元となったダイバーズウォッチは、多彩な文字盤カラーやデザインが人気を集め、ストリートファッションに取り入れられた歴史がある。現在のSKXシリーズも同様に多彩なデザインがあり、クラシカルなツールウォッチテイストから、アーティスティックなモデルまでが並んでいる。

自動巻き(Cal.4R36)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径38.0mm、厚さ12.1mm)。10気圧防水。4万2900円(税込み)。
今回取り上げるRef.SBSA299は、モダンな深いブルーをテーマカラーとしたモデルだ。ダイバーズウォッチ譲りの逆回転防止ベゼルや、視認性の高い時分針、リュウズカードを備えたアシンメトリーなケースシェイプがアイコンである。ケース径は38mmであり、スポーティーかつスタイリッシュなスタイリングへのニーズにぴったりであろう。袖への収まりの良いサイズ感であることや、シンプルなデザイン、ブレスレット仕様であることから、ビジネスシーンにもマッチする。
このほかにもSKXシリーズには、アイコニックなオレンジ文字盤モデルのRef.SSK005KCや、回転ベゼルを排してインフォーマルウォッチテイストに仕立てたRef.SBSA045などが並び、多彩なラインナップから自分らしい1本を選ぶことができる。
「Field」シリーズ
「Field」シリーズには、かつてのラインナップでも人気が高かったフィールドウォッチがラインナップされる。その中で取り上げるRef.SBSC009は、セイコー 5スポーツとしては珍しい、ホワイト文字盤にデイトのみのカレンダー用小窓とGMT表示機能を備えるモデルだ。
デザインはホワイトをベースに、Fieldシリーズ定番のペンシル型の時分針が選ばれている。ここに、5角形の装飾を持つオレンジのGMT針がアクセントとして加わり、固定式のベゼル上にはGMT針に対応した24時間表示が刻まれている。また、12までのアラビア数字インデックスの内側には、13時から24時に対応する表示が与えられている。これはミリタリーウォッチを起源とするフィールドウォッチに多く見られるディティールだ。

自動巻き(Cal.4R34)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約41時間。SSケース(直径39.4mm、厚さ13.6mm)。10気圧防水。6万1600円(税込み)。
ケース径は39.4mmと程良い存在感があり、5列デザインのブレスレットが組み合わされている。本作のデザインをベースにブラック文字盤のRef.SBSC011、ケースまでブラックに仕上げられたRef.SBSC013がラインナップされるため、スタイリングやユースシーンに合わせて選ぶのが良いだろう。
“セイコー5”と銘打たれたモデルでは、伝統的に時分秒表示とデイデイト表示を持つモデルが標準であった。この観点から見れば、本作をはじめとしたGMT表示機能モデルは、そのような枠を飛び出すモデルであり、「Show Your Style」のコンセプトを反映したものと言える。
Fieldシリーズにはこのほかにも、時分秒表示とデイデイト表示の伝統的なセイコー 5スポーツのフォーマットを、ベーシックなフィールドウォッチのデザインに落とし込んだRef.SBSA201などがラインナップされている。