2025年6月、オメガから直径30mmケースを持った、小ぶりな「シーマスター アクアテラ」がリリースされた。しかも、マスター クロノメーター認定の新開発自動巻きムーブメントが載せられて、だ。今年はブルガリからも小型の自動巻きムーブメントが登場しており、女性をターゲットにした同機構の腕時計というジャンルが深化しているのを感じる。この新しいシーマスター アクアテラの実力や、いかに? 時計専門誌『クロノス日本版』およびwebChronosで、唯一の女性編集者である鶴岡智恵子が、1週間にわたって実機を着用のうえ、レビューする。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2025年10月14日公開記事]
小ぶりな自動巻きの「シーマスター アクアテラ」
2025年6月、オメガから直径30mmケースの「シーマスター アクアテラ」が12型発表された。これまでのシーマスター アクアテラには、小ぶりなケースだと28mm径と34mm径が用意されていた。前者はクォーツで、後者は40mm径前後の「シーマスター」や「コンステレーション」と共通するムーブメントを備えた自動巻きモデルである。

今回着用したモデル。12型ある中で、最もベーシックな1本である。自動巻き(Cal.8750)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径30mm、厚さ10.55mm)。150m防水。100万1000円(税込み)。
そんな中、今回新たに追加された本作は、小ぶりなモデルのために開発された新型ムーブメント、Cal.8750(18KゴールドモデルはCal.8751)を搭載していることが大きなトピックだ。なお、冒頭でも記したように、ブルガリも今年、直径19mm、厚さわずか3.9mmという小型の自動巻きムーブメント、「Cal.BVS100 レディソロテンポ」をリリースしている。女性のための自動巻き腕時計というジャンルが花開き、そして発展へと向かう現在をリードするような新作モデルたちだと言える。
もちろんレディース向けの自動巻き腕時計は、従来から存在する。とはいえメンズ向けのものと比べると大きくスペックダウンしてしまったり、自動巻きよりもクォーツムーブメントが採用されたりすることが多かった。しかし各社が小型ムーブメントの開発に成功し、ケースサイズも小径化がトレンドとなった昨今、女性のための自動巻き腕時計も深化しつつある。オメガが新たに打ち出したCal.8750は、性能、美観ともに従来品と遜色ないままに大幅なサイズダウンを実現した、この時代の最前線にあるムーブメントなのだ。
もっとも装飾品はムーブメントではなく、デザインを重視するという女性は、自分自身も含めて少なくない。また、本作の100万1000円(税込み)という販売価格を鑑みれば、高級感や所有への満足感は必ず欲しい。本作は、中身でも外見でも、我々を充足させてくれるのか? 約1週間にわたって、着用してみた。
良好な精度と優れた実用性

着用をスタートする時、リュウズを使って主ゼンマイの巻き上げと時刻合わせを行った。エレガントなケースに合わせてリュウズも小さくなっており、他のシーマスター アクアテラにも言えることだが、ややつまみにくく、慣れるまで時間がかかった。ねじ込み式ではないため、ネイルをしている自分にとっては、リュウズの引き出しに難儀した。しかしながら着用した期間、リュウズ操作の機会はまったくなかった。主ゼンマイがよく巻き上がり、また、3日経っても時間のズレは+2秒にも満たない程度で(ミニッツサークルがないため、正確なところは分からないが)、時刻を操作しなくても良かったのだ。
なお、本作を借りている期間、毎日着用していた。もししばらく手首から外していたならば、針が止まり、リュウズを使って時刻合わせをする必要があるだろう。もっともパワーリザーブは約55時間なので、土日に外していたとしても月曜日の朝にはまだ動いている。パワーリザーブは小径化すると短くなってしまうことが少なくないが、本作はメンズ向けのものと同等(前述したCal.8800も約55時間)で、この点で「女性のための自動巻き腕時計」というジャンルにおいても、オメガが先進的な存在であることをうかがわせる。
また、マスター クロノメーターの認定を受けていることも、特筆すべき点だ。マスター クロノメーターとはスイス連邦計量・認定局(METAS)が制定する認定制度で、現在オメガとチューダーがこの認定機を製品化している。マスター クロノメーターを取得するにはまずCOSC(スイスクロノメーター検定協会)の認定を受け、その後、METASが定めた8種類に及ぶテストを突破する必要がある。テストには防水性やパワーリザーブなど、時計に求められる精度および性能を厳しく検査する項目が設けられるが、とりわけ耐磁性能の追求においては業界トップクラスだ。マスター クロノメーターに認定された時計は、1万5000ガウス以上の耐磁性能を有することになるのだ。時計の不具合において、その要因となることの多い磁気帯び。マグネットの付いたハンドバッグを持つことの多い女性にとっては、高い耐磁性能はありがたいだろう。

直径30mm、厚さ10.55mmのケースサイズは着用感も良好。ケースもブレスレットもステンレススティール製ながら小さいゆえに軽量で(正確な重量は測り忘れました……)、着用中に疲れはほとんど感じなかった。レディースウォッチとしては決して薄いケースではないものの、コロンとしたフォルムは愛らしく、ブラウスの袖口からわずかにのぞいて、着用感を損ねることなく存在感を放っていた。

今回の着用にあたって、私の手首回り14.7cmに合わせてブレスレットのコマを外したのだが、太ったせいか、少しキツかった。しかしバックル部分にコマを詰めることなく微調整できるコンフォートセッティング機能が付いているので、この部分を使って緩めることができた(バックルで緩めても、酒を飲んでむくむとまたキツくなったのはここだけの話)。微調整機構を搭載させたバックルは厚みを持ちやすいが、オメガのコンフォートセッティング機能は従来品とほとんどボリュームを変えずに搭載されており(実測して従来品と比較したわけではないが)、デスクワークの最中に邪魔に感じることはなかった。


シンプルながらきらびやかな外装
「この新しいシーマスター アクアテラの実力や、いかに?」などと前述した。しかし、未熟ながらも時計専門誌の編集者としてこれまで何十本とオメガウォッチを見て、過去2回のインプレッションを経験したので、外装品質が極めて良いことは実機を見なくても分かる。そして実際に見てみて、やはり作り込まれた細部に感心させられた。

今回12型リリースされた本コレクションのうち、最もベーシックな1本を借りたため、地味かもしれないなと考えていた。ところがどっこい、まずポリッシュされたブラックのラッカー文字盤の艶やかさに目を引かれる。インデックスや針、6時位置の日付窓、ケースサイドやブレスレットのセンターリンクなど、随所に与えられたポリッシュ仕上げが輝きを持ち、ジュエリーのような派手さではないものの、きらびやかさが腕時計を見る度に目にとまった。もちろんこれらの鏡面はダレや歪みなどは見受けられず、余談だがTOP画像を撮影してもらったフォトグラファーの岡村昌宏氏と、「これだけ寄りで撮っても、細部まで綺麗なのは、さすがオメガだよねー」という話で盛り上がった。
ちなみにリリースされた本コレクションの中には、18Kゴールドを外装に使ったラグジュアリーなモデルも用意されている。バリエーションが多く、好みに合った意匠の選択肢が豊富という点も、オメガの大きな美点である。
12型発表された30mm径の本コレクションには、18KゴールドとSSのコンビや金無垢モデルなども用意されている。自動巻き(Cal.8750/8751)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS×18Kムーンシャイン™ゴールド/18Kムーンシャイン™ゴールドケース(直径30mm、厚さ10.55mm/10.65mm)。150m防水。(左から)167万2000円、600万6000円(税込み)。
見た目良し、中身良しな新しい自動巻き腕時計
オメガが2025年6月に発表した、女性のための自動巻き腕時計と言える「シーマスター アクアテラ」を着用レビューした。
工作機械をはじめ、製造における技術面が進化を続ける現在、“高級”と冠される腕時計の外装がイマイチといった例はそう多くはない。しかしその中身であるムーブメントをターゲットに向けて開発し、ターゲットのライフスタイルに最適化できるブランドもまた、多くはない。オメガはそんな稀有なブランドのひとつであり、こと「女性のための自動巻き腕時計」というジャンルでもその姿勢を崩さないということを本作が証明したと、1週間のインプレッションを通して強く感じた。
見た目も良し、中身ももちろん文句なしのこのモデルを、腕時計選びに迷っている女性陣は、一度手首に載せてみてはいかがだろうか?