1世紀以上に及ぶアーカイブと高度な修復技術を持つヴァシュロン・コンスタンタンのアトリエでオリジナルに忠実に復元された「レ・コレクショナー」は、時計業界の失われた技法を現代に伝えるコレクションだ。
Text by Naoto Watanabe
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
旗艦ブティックのみで販売される「レ・コレクショナー」

(中)3時側と9時側が平行な天面のラグとサンレイ仕上げのエナメル象嵌文字盤を持つ1958年製造の手巻きモデルRef.6271。Cal.9'''-1001。パワーリザーブ約40時間。18KPGケース(直径31mm)。
(右)ラグが背面に隠されたドレッシーな薄型ケースを持つ1953年製造の手巻きモデルRef.4642。Cal.9'''-P458/3B。パワーリザーブ約40時間。18KYGケース(直径35mm)。いずれも要価格問い合わせ。
ブランドのノウハウを活用することで、あらゆるルートから収集したヴィンテージ時計をアトリエで修復し、真正鑑定書と2年間の保証を付け、旗艦ブティックのみで販売されるヴァシュロン・コンスタンタンの「レ・コレクショナー」。同メゾンが保管する膨大な補修部品から採取された修復対象と同年代のパーツが組み込まれ、在庫のないパーツは当時の手法で再製造するなど、可能な限りオリジナルの状態を目指して修復されているのが本コレクションの強みだ。そのため、現行の時計では見ることのないヴィンテージならではの特徴を備えた時計も数多くラインアップされている。エナメル象嵌文字盤を搭載したRef.6271(写真中央)もそのひとつだ。
一見、通常のサンレイ文字盤にも見える本作だが、注目すべきはロゴや目盛りなどの印字類。現代の一般的な時計は、印字デザインを彫り込んだ金属板にインクを載せ、それをシリコンなどの半球状パッドに転写し、ヘアライン仕上げやラッカー塗装の済んだ文字盤に押し付けてプリントを施す。対して1960年代までのエナメル象嵌文字盤では、まずシルバー製の地金に印字類を手彫りし、その微細な溝にエナメルを入れ約900℃で焼き上げる。その際、表面に浮いた不純物を削ぎ落とし、筋目仕上げや研磨を施した上でラッカーにて覆うという、非常に手の込んだ製造工程を経ているのだ。
結果、地金に沈み込んだ印字部分のみラッカーが盛り上がった独特な表情の文字盤となるが、現代まで完全な状態を維持した個体はごくわずか。エナメル象嵌文字盤を製造時に近いコンディションで楽しめるレ・コレクショナーは、ヴィンテージ愛好家にとって極めて貴重なコレクションなのだ。