クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー 現代に形作られた、高精度に懸けた先人の叡智

2025.10.20

ヴィンテージの工作機械と現代の時計職人の邂逅。伝統的な時計製造技術を後世に遺すというクロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーの志は、篝火となって時計業界の未来を照らす。

Photographs by Yu Mitamura
Text by Tsubasa Nojima
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]


伝統技術を後世に遺す、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーの志

クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー「ネソンス ドゥンヌ モントル 3」

クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー「ネソンス ドゥンヌ モントル 3」Ref.FB 4BTC.1
ブランド誕生10周年を記念する1本。18KWG製オフセットダイアルの下に広がるのは、フュゼチェーンやバイメタル切りテンプ、ラチェット機構を備えた香箱など、高精度を追求して開発された伝統的機構を搭載する魅惑のムーブメントだ。ケースバックから見える受けには、フェルディナント・ベルトゥーの弟子であり甥のルイ・ベルトゥーが遺した、「時という偉大な教師に捧ぐ」という意味の格言が刻まれる。手巻き(Cal.FB-BTC.FC)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWGケース(直径44.3mm、厚さ13mm)。30m防水。世界限定11本。要価格問い合わせ。

 18世紀のパリで活躍したスイス人時計師の名を冠する、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー。同社は技術革新が進んだ現代でもなお、伝統的な時計製作を継続する稀有な存在だ。その新作「ネソンス ドゥンヌ モントル 3」は、ブランドの垣根を越えて2009年に始動した「時計誕生プロジェクト」の第3作にあたる。着想元となったのは、時計師フェルディナント・ベルトゥーが手掛けた天文懐中時計「No.3」だ。

 伝統的な工具や工作機械を集めた工房を設立し、完全なる手作業で生み出された今作には、長く伸びた秒針が象徴するような高精度機らしいふたつの機構が搭載されている。そのひとつが、6時側に見えるフュゼチェーン機構だ。これは、主ゼンマイの巻き上げ状態によって変動するトルクを一定に保つコンスタントフォース機構の一種であり、香箱と対になった円錐形のパーツに巻き付けた極小のチェーンが徐々にほどけることで、トルクの変動を相殺している。

クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー「ネソンス ドゥンヌ モントル 3」

 もうひとつの機構が、優雅なアーチ状のブリッジに支えられたギョーム式温度補正バイメタル切りテンプ。金属は温度変化によって膨張または収縮し、特にヒゲゼンマイやテンワでは、この性質が時計の精度に大きな影響を与える。これを軽減すべく、本作では膨張係数の高い真鍮と低いインバーを組み合わせたテンワを採用し、ヒゲゼンマイが収縮する低温時にはテンワが開き、また高温時には逆に作用することで、テンプ全体の振動を一定に保つのである。

 機構だけでなく、手作業による仕上げも必見。さらに、本作の製作過程は全て資料化されている。この時計は、失われつつある伝統的な時計製造技術を後世に語り継ぐという大役も担っているのだ。



Contact info:ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922


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