オリスの新作ビッグクラウンポインターデイトは日常使いの「これ1本」。歴史、そしてデザインの秘密に迫る

FEATUREWatchTime
2025.11.13

ビッグクラウンポインターデイトの2025年新作の写真を見て「おや?」と思った人は少なくないだろう。そう、この腕時計のデザインは、日常使いのモデルとして極めて洗練された印象を与えるのだ。『ウォッチタイム』アメリカ版編集者のゼン・ラブが、ビッグクラウンポインターデイトの歴史、そして「この新しい」デザインはどのようにして成立したのかを解きほぐす。

『WatchTime』ドイツ版2025年9月10月号
Text by Zen Love
[2025年11月13日掲載記事]

「ビッグクラウンポインターデイト」というオリスの看板モデル

 1938年以来、「ビッグクラウンポインターデイト」はオリスのカタログにおける定番である。これは1930年代末のパイロットウォッチがどのような姿をしていたかを、ほぼそのまま示していると言えるだろう。

 現代のビッグクラウンポインターデイトは、遠い過去と比較的近い過去の複数の時代を融合させているのだ。このコレクションはオリスのアイデンティティの中心に位置しながらも、その一方で常に変化してきたモデルだ。数十年にわたって進化を重ね2025年のバリエーションは現代的なデザインを示しつつも、ブランド史の中において、あまり知られていない「一章」を思い起こさせてしまうのだ。

特徴的だったベゼルのコインエッジを廃し、その他にも現代的に改められたビッグクラウンポインターデイト。今日的な日常使いの腕時計としてかなり洗練された印象を受ける。

 2021年以降のリニューアルデザイン、自社製ムーブメント、新しいダイアルカラーを備え、2025年に発表されたビッグクラウンポインターデイトキャリバー403は、決してレトロなだけの腕時計ではない。オリスを象徴するこのシリーズの頂点に立つモデルは、ブランドの歴史、高品質な操作感、そして優れた価格対性能比を示している。われわれはこの腕時計を実際にテストする機会を得た。

パイロット向け腕時計

 ビッグクラウンポインターデイトは、少なくとも現代の基準で見れば、典型的なパイロットウォッチという印象を受けはしない。飛行機の発明から間もなく、さまざまな形状のパイロット専用の腕時計が登場した。今日「クラシック」とされる特徴の多くは、第二次世界大戦と、その軍事的要請を背景に発展したものである。ビッグクラウンはその時代、つまり1938年に誕生した。ただし、それが軍用目的で設計されたと証明する確かな資料は残念ながら存在しない。

1938年に発表された「ポインターカレンダー」。前のモデルの特徴だったコインエッジがなくなった新作ビッグクラウンポインターデイトは、先祖返りしたと言えるかもしれない。

 20世紀初頭、懐中時計や置時計の優雅な雰囲気が腕時計へと引き継がれ、しばしばアール・デコの装飾が施された。それらは今日の目で見ても古典的でエレガントに映る。しかし、当時「ポインターカレンダー」と呼ばれていた初代ビッグクラウンポインターデイトは、このクラシックな外観に興味深い要素を組み合わせていた。パイロットが手袋をしたままでも操作できる大型のリュウズ、これは今日の航空時計にも広く見られる特徴が採用されていたのだ。

 オリスはすでに1917年に類似のパイロットウォッチを製造しており、それは2017年に限定版として再登場。もちろん「ビッグクラウン」という伝説的な名を冠していた。大きく、視認性の高いアラビア数字もまた必須の要素だった。機能性と特徴的なデザインの組み合わせにより、1938年のビッグクラウンはパイロットだけでなく幅広い層から好評を博した。

 蓄光塗料を施した針、外周に配された日付スケール、力強いインデックスがキャラクターと実用性をもたらし、この組み合わせはいまもなお説得力を持つ。その後数十年の間にデザインは進化を遂げ、ビッグクラウンポインターデイトには複数世代のモデルが生まれた。初登場以来、この腕時計は一貫して生産され続けている。

ポインターデイトの原理

 今日一般的で、時に議論を呼ぶ「窓型の日付表示」は、1945年ごろに登場した。それ以前のカレンダー機構を備えた時計は、しばしば針によって日付を示していたのだった。多くの腕時計にはそもそも日付表示はなかったのである。しかしロレックスのデイトジャストがダイアル下に日付ディスクを覗かせる小窓を採用して以来、この方式が圧倒的に主流となったのだ。

 オリスはポインターデイトの発明者ではないが、自社の個性として確立し、このニッチ分野を今もリードしている。この表示を備えたシンプルな3針時計は、現在でも珍しい存在だ。

 コレクターや批評的な愛好家の多くは、しばしば議論の的となる「日付窓」よりも、この方式のもたらすダイアルの対称性を高く評価する向きもある。

 窓表示と針表示の技術的な違いは何か? どちらも24時間ごとに針やディスクを動かす点では似ているが、主な違いはそれが文字盤の上で行われるか、下で行われるかにある。ただし、内部構造は大きく異なる。

 クラシックな日付窓の場合、文字盤の下ではムーブメント外周の24時間歯車が日付ディスクを駆動する。この歯車は時針と連動しており、歯車上の小さなピンが24時間ごとにディスクを一段進める仕組みだ。

 一方、中央に取り付けられた日付針を動かすには、より特別な構造が必要になる。これは、エントリーモデルのビッグクラウン・ポインターデイトに搭載されたセリタ製Cal.SW200-1とCal.SW221-1の主な違いだ。自社製Cal.403は、Cal.400をさらに発展させたムーブメントである。なお、詳細は後述しよう。

80年代への回帰

 ビッグクラウンポインターデイトという名前を聞けば、多くの腕時計ファンはある特定の姿を思い浮かべるだろう。コインエッジベゼル、カテドラル型針、月をかたどった日付針、そしておそらくはスティールとゴールドのバイカラーのモデルだ。 この象徴的デザインが生まれたのは、時計業界全体が危機に直面していた1980年代のことだった。安価な電池式クォーツ時計による変化が伝統的な機械式腕時計製造を脅かしていた。

オリス「ビッグクラウンオリジナルポインターデイト」Ref.01 754 7696 4361-07 5 20 52
1984年発売当初と同じく、コインエッジのベゼルを備えた意匠が特徴的だ。自動巻き(Cal.754。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径40mm)。5気圧防水。

 当時オリスはスウォッチグループの前身ASUAGの一員だったが、1982年にマネジメント・バイアウトを行い、独立を果たす。その際、方向性を大胆に転換した。クォーツ式ムーブメントから離れ、純粋な機械式時計へと回帰したのである。 今日われわれが親しむビッグクラウンポインターデイトの新世代は1984年に誕生したのだ。

 特大のリュウズ、ポインターデイト機構、そして過去のデザイン要素を引用しながらも単なる復刻にとどまらない造形を備えたモデルである。たとえばカテドラル型針は、1917年のオリス製パイロットウォッチを想起させるものだった。


現代的にモディファイされた新作モデル

 1984年のデザインは現在もコレクションの核にあり、数多くのバリエーションが存在する。しかし本稿で取り上げるCal.403搭載モデルは、従来型とは細部のデザインが大きく異なる。カテドラル針も、コインエッジベゼルも、月形針も採用されていないのだ!

 代わりに、すっきりとしたライン、磨き上げられた滑らかなベゼル、そして日付表示のためのモダンな矢型針を備える。全体として整理された、明確で現代的な印象を与える一方で、従来の象徴的なデザイン性はやや薄い。

新作ビッグクラウンポインターデイトをケース側面から撮影。オリスのロゴが入ったリュウズは確かに大きい。

 このデザインは2021年にまず38mmケースで発表され、2025年には新色の40mmモデルが追加された。現在では手巻きムーブメントCal.473を搭載した38mmモデルも登場している。

 同様のデザイン思想は2025年に登場したセリタ製ムーブメント搭載の標準モデルにも適用されている。自社製ムーブメント搭載モデルは6時位置にスモールセコンドを備えるのが特徴であり、セリタ製ムーブメントでは秒針が中央に配置され、赤いローターが外部供給品であることを示している。

Cal.403の価値は自社製のみにあらず

 ビッグクラウンポインターデイトキャリバー403の価値を判断するには、「自社製ムーブメントを搭載している」という1点だけを見ていては不十分である。 重要なのは、このムーブメントが何を実現しているかだ。ふたつの香箱が約120時間(約5日間)のパワーリザーブを供給する。また、これだけ長いとトルクがより安定するため、より均一な歩度が得られるのだ。

裏蓋側から撮影。ささやかながらも、しっかりとした仕上げのムーブメントは、日常使いの腕時計としての満足度はきっと高いはずだ。

 その他にも堅実な特性を備える。耐磁性能は60ガウスまで対応し、日常生活での高い精度安定性を保証。また注目すべきは、10年保証と10年ごとのメンテナンス推奨が掲げられている点にあるだろう。これは他社の多くの腕時計よりも明らかに長く、ムーブメントの品質への自信を示したものと理解できる。

 これらはすべてCal.400ファミリーに共通する特徴であり、この価格帯におけるオリスの競争力を高める要因となっている。 ムーブメントはサファイアクリスタルのシースルーバックから観察でき、工業的ながらも決して荒削りではない美観を持つ。簡潔でありながら、しっかりとした仕上げだ。


実際に手に取ってみると

 直接比較すると、ビッグクラウンポインターデイトキャリバー403の装着感は、セリタ製ムーブメントを搭載した40mmモデルとほぼ同じである。筆者自身、コインエッジベゼル、カテドラル針、月形日付針、そしてバイカラー仕上げの古いモデルを所有しており、その個人的な思い入れも、このレビューを書く動機のひとつであった。

 しかし新型をテストしてみてすぐに分かった。両者を比較するのは不公平だ。古いデザインへのノスタルジーはあるものの、新作は多くの点で優れた製品である。堅牢で、多用途かつ高品質。長期的に投資できる腕時計であり、場合によってはコレクションの中で唯一の1本としても成立するだろう。

 旧モデルの方が個性は強いが、毎日着ける時計としてはやや扱いづらい面もある。直径40mmのサイズは現代的な装着感をもたらし、今日の基準では控えめというより存在感のある印象を与える。より小型でクラシックなものを好むなら、38mmのバリエーションが適している。

 現行デザインはきわめてモダンでありながら、滑らかなベゼルや矢型の日付針などのディテールは1950年代のモデル、ひいては1938年のオリジナル、を思い起こさせる。こうしたヴィンテージの精神のもと、ケースとベゼルはポリッシュ仕上げで鏡のように輝き、ラグのみが控えめなサテン仕上げだ。

 筆者が当時ビッグクラウンポインターデイトを購入した際、この腕時計が航空史と関係を持つことなど知らなかった。ただ、エレガントでありながら堅牢で、どこか特別な存在感を放っていることに引かれたからだ。

オリス「ビッグクラウンポインターデイトキャリバー403」Ref. 01 403 7799 4067-07 6 20 09FC
自動巻き(Cal.Oris 403)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.3mm)。50m防水。61万6000円(税込み)。

 新しいモデルはまさにその延長線上にあり、より簡潔で洗練され、進化を遂げている。ブランドの歴史を知る者なら、なおさらこの腕時計を深く評価するに違いない。


Contact info:オリスジャパン Tel.03-6260-6876


個人的に理想の腕時計に近い1本。シーンを問わず活躍するオリスの旅向けウォッチ

FEATURES

2025年 オリスの新作時計を一挙紹介!

FEATURES

オリスがブランド刷新を発表。新パーパス「メイク ピープル スマイル」とともに歩む新章

NEWS