自動巻きクロノグラフムーブメントの名機、「エル・プリメロ」を搭載した現行モデルを5本紹介する。1969年に誕生し、当時から高い完成度を誇ったエル・プリメロ。シャルル・ベルモの機転によって再び表舞台に立ったこのムーブメントが、現在も愛好家を虜にするのはなぜだろうか?

Text by Tsubasa Nojima
[2025年11月4日公開記事]
最初期の自動巻きクロノグラフであり、今なお進化を続けるロングセラームーブメント
クロノグラフムーブメントには、名機と呼ばれるものがいくつかあるが、その中でも圧倒的な知名度と人気を誇っているのが、ゼニスの開発した自動巻きクロノグラフ「エル・プリメロ」だ。その誕生は、1969年。エル・プリメロは、セイコーのCal.6139やホイヤー・レオニダス、ブライトリング、ハミルトン-ビューレン、デュボア・デプラの共同開発によるCal.11と同じ、最初期の自動巻きクロノグラフムーブメントのひとつなのである。
その中でもエル・プリメロは、毎秒10振動というハイビートによって精密な計測を可能としたほか、モジュール式ではない一体型のクロノグラフムーブメントであったことや、クロノグラフの制御にコラムホイールを使用したことなど、当初から完成度の高いムーブメントであった。
その後、クォーツ式ムーブメントの普及に伴い、ゼニスは当時の親会社から機械式ムーブメントに関する資料や設備の破棄を命じられることとなる。しかし、エル・プリメロの開発にも携わった工房の責任者、シャルル・ベルモがこれらを屋根裏部屋へ隠した。これによってエル・プリメロは、再び機械式時計が評価される時を待つこととなった。
シャルル・ベルモに先見の明があったことは、現代の時計市場を見ても明らかであろう。エル・プリメロは、さまざまな付加機能を備えた派生ムーブメントを生み出し、今なおゼニスの主力機として世界中で親しまれている。
今回は、エル・プリメロを搭載した現行モデルから、5本をピックアップして紹介する。毎秒10振動のハイビートを武器に進化を遂げた、エル・プリメロの現在地を知ることができるはずだ。
「クロノマスター オリジナル 1969」Ref.03.3200.3600/21.M3200

精密な計測が可能なCal.エル・プリメロ3600を搭載。1969年の「A386」の特徴を受け継ぐデザインも魅力だ。自動巻き(Cal.エル・プリメロ3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径38mm、厚さ12.6mm)。5気圧防水。134万6400円(税込み)。
直径38mmのコンパクトなケースを採用した「クロノマスター」。1969年に誕生した「A386」のデザインを踏襲している。ブラックのダイアルに、わずかに重なり合うホワイトのインダイアルを組み合わせ、外側の100分割の目盛りにはシルバー、そのさらに外側をブラックとした、モノトーンながら表情豊かなカラーリングが特徴だ。インデックスと時分針にはヴィンテージカラーの蓄光塗料が塗布され、クラシカルなデザインを一層引き立てている。
A386の特徴を受け継ぐすっきりとしたラグやポンプ型プッシャーなど、エレガントなケースラインも魅力だ。スポーツウォッチでありながらもドレッシーな雰囲気をまとっており、オンオフ問わず幅広いシーンで活躍することだろう。ステンレススティールブレスレットは、中央をポリッシュ、両サイドをヘアライン仕上げとしている。
シースルーバックからは、Cal.エル・プリメロ3600を鑑賞することができる。このムーブメントには、1/10秒を正確に計測することのできるクロノグラフ機構が搭載されており、センターのクロノグラフ針は10秒で1周する。
「クロノマスター リバイバル エル・プリメロ A385」Ref.03.A384.400/385.C855

1969年の「A385」の復刻モデル。大胆なトノー型ケースに、ブラウングラデーションダイアルを組み合わせている。自動巻き(Cal.エル・プリメロ400)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径37mm)。5気圧防水。121万2200円(税込み)。
1969年に誕生した、トノー型ケースが特徴の「A385」を復刻したモデル。ダイアルにはブラウンのグラデーションが施され、インデックスと時分針に塗布されたクリームカラーの蓄光塗料とともに、ヴィンテージ感を高めている。3時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計、9時位置にスモールセコンドを配し、インダイアルをホワイトとすることでコントラストを生み出している。センターの赤い針はクロノグラフ秒針として機能し、4時半位置には日常使いに便利なデイト表示の小窓が配されている。
ステンレススティール製のケースは、A385らしいシャープなデザインが特徴だ。ミドルケースが力強さを強調しつつ、ポンプ型のプッシャーが繊細さを感じさせる。ダイアルに調和したライトブラウンのカーフレザーストラップが装着されている。
ムーブメントは、エル・プリメロ400。毎秒10振動のハイビート自動巻きクロノグラフとして、初代エル・プリメロの伝統を受け継ぐ傑作ムーブメントである。
「クロノマスター スポーツ」Ref.03.3100.3600/69.M3100

ブラックのセラミックベゼルを備えた「クロノマスター スポーツ」。トリコロールカラーのインダイアルなど、複数の色を使いながらも派手さを感じさせないデザインにまとめられている。自動巻き(Cal.エル・プリメロ3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm)。10気圧防水。159万2800円(税込み)。
現代的なスポーツウォッチらしいデザインが特徴の「クロノマスター スポーツ」。爽やかなホワイトダイアルに、ブルー、ダークグレー、ライトグレーのトリコロールカラーのインダイアルを組み合わせている。クロノグラフ用の60秒計と60分積算計の針、センターに配された10秒で1周するクロノグラフ秒針の先端は赤く着色され、時刻表示用の針と混同しないよう配慮されている。
ブラックのベゼルは、耐傷性に優れたセラミックス製。艶やかな質感が上品な印象を与える。ホワイトの目盛りは、センターのクロノグラフ秒針の動きを1/10秒まで正確にとらえることが可能だ。
ステンレススティール製のケースは、クロノマスターらしいシャープなラグとポンプ型のプッシャーを備えた精悍なデザイン。10気圧防水のため、悪天候時も安心して着用することができる。
ケースバックからは、Cal.エル・プリメロ3600を鑑賞することが可能。星をかたどったオープンワークのローターやコラムホイールなど、隅々まで楽しむことができる。
「デファイ エクストリーム ダイバー」Ref.95.9601.3620/51.I301

600m防水を誇るダイバーズウォッチ。チタンブレスレットのほか、ラバーストラップとファブリックストラップが付属する。自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3620 SC)。27石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径42.5mm、厚さ15.5mm)。600m防水。159万2800円(税込み)。
2024年に発表された「デファイ エクストリーム ダイバー」は、1969年に誕生した「デファイ A3648」の特徴を受け継ぐダイバーズウォッチである。オリジナル同様に600m防水を備え、ヘリウムエスケープバルブによって飽和潜水にも対応する。サンバースト仕上げのブルーダイアルには、ブランドを象徴する無数の星があしらわれ、角度によって変化する表情を楽しむことができる。太くはっきりとしたインデックスと時分針には、たっぷりと蓄光塗料が塗布され、暗所や水中での視認性を確保する。
ケースは、デファイの特徴である多角形に仕上げられている。エッジの際立ったシャープなデザインが魅力だ。大型のリュウズガードとブルーセラミックス製のベゼルが、スポーティーさを強調する。
600m防水でありながらも、シースルーバックを採用している。本作は、3針仕様に改められたCal.エル・プリメロ 3620 SCを搭載しており、サファイアクリスタルを通してその精緻な動きと仕上げを楽しむことができる。毎秒10振動のハイビートは外乱に強く、タフさが求められるダイバーズウォッチにもふさわしい。
「パイロット ビッグデイト フライバック」Ref.49.4000.3652/21.I001

フライバッククロノグラフとビッグデイトを搭載したパイロットウォッチ。外装はオールブラックにまとめられている。自動巻き(Cal.エル・プリメロ3652)。26石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラミックスケース(直径42.5mm)。10気圧防水。195万2500円(税込み)。
19世紀後半よりパイロット用の特殊時計やダッシュボード用の計器類を製造し、航空界との関わりを深めてきたゼニス。そんな歴史を体現しているのが、「パイロット」コレクションだ。「パイロット ビッグデイト フライバック」では、波状のパターンが施されたブラックダイアルに、ホワイトのアラビア数字インデックスとローザンジュ型の時分針を組み合わせることで、抜群の視認性を発揮している。3時位置には30分積算計、9時位置にはスモールセコンド、そして6時位置には一目で読み取ることができるビッグデイトが配されている。
直径42.5mmのボリューミーなケースは、耐傷性に優れたブラックのセラミックス製。マイクロブラスト仕上げが施され、ミリタリーパイロットウォッチらしいツール感あふれる印象だ。ストラップは、コーデュラ・エフェクト ラバー製。ブラックとカーキの2本のストラップが付属する。
本作は、フライバッククロノグラフであるため、クロノグラフ起動時に4時位置のボタンを押下することで、瞬時にリセットとリスタートを行うことができる。フライバックは、航空機を操縦するパイロットに特に求められた機能であり、本作の背景にもマッチする。搭載するCal.エル・プリメロ3652は、シースルーバックから鑑賞することが可能だ。

                

