ラグジュアリーの分野でも成功を収めるセイコー。それを牽引してきたのが、セイコーグループCEOの服部真二だ。彼は2025年10月、現職と兼務で、中核であるウオッチ事業のさらなる強化のため、セイコーウオッチ代表取締役会長 兼 CEO 兼 CCOに就任した。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
来年2026年、クレドールもW&WGに参加します

1953年生まれ。大学卒業後、三菱商事に入社。84年に精工舎(現セイコータイムクリエーション)入社。2003年にセイコーウオッチ社長、15年に社長 兼 CEO、17年に会長 兼 CEOに就任。2010年、セイコーホールディングス(現セイコーグループ)社長。12年から同社代表取締役会長 兼 グループCEO、20年からグループCCO(グループカルチャー統括)も兼務、現在に至る。25年10月、セイコーウオッチの代表取締役会長 兼 CEO兼 CCOに就任。「常に時代の一歩先を行く」という創業者、服部金太郎の信条を貫き、グローバルブランドとなったグランドセイコーのさらなる成長と、クレドールの海外発信に取り組む。
「『クロノス日本版』の創刊20周年、おめでとうございます。思えば、この20年間で時計業界ではさまざまな変革が起きましたが、特に印象的なのは、当社が30年以上にわたって参加したバーゼルワールドの終焉と、繰り返されたドレスウォッチの復権、そして才能ある時計師たちによる個性ある小規模な独立ブランド、いわゆるマイクロブランドの出現などですね」
彼はあえて言わなかったが、その大きなトピックのひとつは、間違いなくグランドセイコーの世界的な躍進だ。そして服部は、飛躍のきっかけのひとつである独立ブランド化を推し進めた当事者である。
「2010年にグローバル化をバーゼルワールドで宣言。海外にローンチする中で苦労を重ねながらも、グランドセイコーは米国を皮切りに世界で高い評価をいただくようになりましたね」
彼が評価するのは他との違いだ。

現代を代表するドレスウォッチにして、クレドールのアイコンのひとつ。極薄手巻きムーブメントを持つ2針のドレスウォッチという古典的な構成を持ちつつも、普段使いできるようにケースには立体感が盛り込まれた。50年以上の歴史を持つクレドールの最新作だけあって、内外装の仕上げは第一級だ。手巻き(Cal.6890)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約37時間。18KYGケース(直径37.1mm、厚さ7.7mm)。3気圧防水。374万円(税込み)。
「日本文化に根差した『陰影の美意識』に基づくデザインや、製造地の自然に着想を得たネイチャーダイアル、時の本質を追求する匠の技によるものづくりが、他にはない〝クワイエットラグジュアリー〞として評価されたと感じています。2017年にグランドセイコーをセイコーから独立させた決断は間違っていなかったと身に染みて感じています」。そんな服部は、驚くべき情報を教えてくれた。
「これまで海外では知る人ぞ知る存在だったクレドールの魅力を、海外の時計愛好家の皆様が認めてくださることを願い、来年2026年、クレドールも悲願のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブに参加することにしました」。そもそも服部は、クレドールに深い愛着を持ってきた。確かに「ロコモティブ」や「叡智Ⅱ」が注目を集める今は、世界進出にはうってつけだろう。
「これまで海外でも『叡智Ⅱ』などが富裕層や時計の目利きの方に評価されてきました。ですから、その魅力をもっと世界に発信していけば、まだまだマイクロブランドのような存在であるクレドールにもチャンスはあると確信しています」
クレドールを「マイクロブランドのような」と評した服部。彼らしい控えめな表現だが、これからのクレドールが目指すのは、マイクロブランドのようなものづくりではないだろうか? 創業家が推し進めるセイコーのラグジュアリー路線。今後が楽しみなのは、筆者だけではないはずだ。



