F.P.ジュルヌ理想のクォーツウォッチ、「Cal.1210」【傑作ムーブメント列伝】

2025.12.07

ハカセこと時計専門誌『クロノス日本版』編集長の広田雅将が、傑作ムーブメントについて2024年に記したコラムを5回分、webChronosに掲載する。第5回は、フランソワ-ポール・ジュルヌが理想のクォーツウォッチを目指して製造したCal.1210だ。

グランドセイコーが〝感触〟を追求した手巻き「Cal.9SA4」【傑作ムーブメント列伝】

FEATURES

ザ・シチズンの未来を担う、シンプルだが高精度な「Cal.0200」【傑作ムーブメント列伝】

FEATURES

高い信頼性とユニークさを備えた、カルティエの手巻きクロノグラフ「Cal.1928 MC」【傑作ムーブメント列伝】

FEATURES

ブレゲ「Cal.588N2」は、トゥールビヨンが至ったひとつの極北【傑作ムーブメント列伝】

FEATURES

Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[ムーブメントブック2024 掲載記事]


ジュルヌがクォーツ? 名手の手腕が光る「Cal.1210」

F.P.ジュルヌ「エレガント」

当初は女性に向けて製作されたエレガント。しかし、人気の高まりを受けて縦48mmモデルを追加した。文字盤はサファイアクリスタル製だが、裏から蓄光塗料を塗布することで、夜間での視認性を確保している。サイズは48mmと40mmのふたつ、ケース素材はチタンとTitalyt®の2種類がある。写真は48mmのTitalyt® モデル。

 フランソワ-ポール・ジュルヌと言えば「21世紀のブレゲ」と称される大設計者だ。18、19世紀の古典に範を取りつつ、独自性を加える彼の時計は、類を見ない存在感を放っている。しかしそんなジュルヌの創作欲は、必ずしも機械式時計に限られてはいなかった。

 2014年にF.P.ジュルヌが発表した「エレガント」は、なんとクォーツのムーブメントを搭載したモデル。大メーカーでさえ新規のクォーツを手掛けない時代に、ジュルヌはあえて自社製のクォーツムーブメントを開発したのである。女性にはクォーツウォッチが好まれることを喝破した彼は、今までにはない特徴を盛り込んだ。それが長い電池寿命だ。可能な限り大きなバッテリーを採用するだけでなく、電池の寿命を延ばすため、約30~40分使わないと時計はスタンバイモードに入るようになっている。また、時計が止まっても、再び着用すれば今の時刻が表示されるようになっている。こういった機構により、バッテリーの寿命は理論値では約18年まで延びた(実際の電池交換は約8~10年程度が推奨されている)。

 その一方で、エレガントは機械式時計並みの太くて長い針を載せている。普通、クォーツムーブメントのトルクは機械式の約半分しかないと言われるが、モーターをふたつ載せて重い針を回せるようにした、とジュルヌは説明する。普通の3針としてはかなり贅沢な設計だ。加えて、電池交換の時までメンテナンスの必要がないよう、輪列は油が切れても回るようになっている。さらに、カナなどに非磁性の素材を使うことで、耐磁性を改善したとのこと。

「周囲の声をあまり気にせず、自分の欲しい時計を作ってしまおうと思った」と語るジュルヌ。正直、発表当時の評価は高くなかったが、今やエレガントは、F.P.ジュルヌの中で最も手に入れにくいモデルとなった。

 天才ジュルヌが理想のクォーツウォッチを目指して作り上げたCal.1210。機械式ムーブメントほどの面白みはないにせよ、名手の手腕が冴える、傑作クォーツウォッチのひとつと言っていいだろう。

Cal.1210

クォーツムーブメントらしからぬ大トルクと省エネを両立させた、F.P.ジュルヌのCal.1210。毎日使用しても約8~10年、スタンバイモードでは約18年間電池が持つ。スタンバイモードで時計が停止しても、動きを感知すると針が動き、現在の時刻を表示する。また耐磁性能も強化されている。縦28.5mm×横28.3mm、厚さ3.13mm。18石。


最もF.P.ジュルヌ「らしい」、高精度な手巻きの「Cal.1304」【傑作ムーブメント列伝】

FEATURES

ニッチメーカーからの脱却を手助けした 薄型自動巻き F.P.ジュルヌ「Cal.1300系」

FEATURES

“良い時計の見分け方”をムーブメントから解説。良質時計鑑定術<最上級、上級、実用時計の仕上げを比較する>

FEATURES