高い技術力と独自性が魅力。日本ブランドからリリースされた2025年新作腕時計5選

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2025.12.08

今回は、高い技術力で世界的な評価を集める日本の時計ブランドの、2025年発表モデルに注目して解説する。機械式、クォーツ式の両方で優れた技術を持つグランドセイコーや、光発電に関する技術に長けたシチズン、多機能な高性能モデルを得意とするカシオ、独自のデザインコードがファンから支持されるオリエントなど、日本ブランドは多彩である。また、小規模ながら世界から注目される大塚ローテックといった、マイクロブランドからも目が離せない。

佐藤しんいち:文
Text by Shin-ichi Sato
[2025年12月8日公開記事]


魅力ある日本ブランドに注目しよう

 今回の特集テーマは“日本ブランド”である。日本の時計市場では、1913年に精工舎が国産初の腕時計「ローレル」を発売、続く1950年代よりセイコー、シチズン、オリエントなど多くのブランドが市場を賑わすとともに、各社の技術向上も著しかった。クォーツ式時計が実用化されると、1974年にカシオが腕時計製造を開始してこの一角に加わり、現在では世界各国で支持されるブランドとなっている。

 今回は、現在の各ブランドの特徴に触れつつ、2025年に発表された新作のうち、注目すべきモデルを紹介する。また、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)2024で、国産時計として初めて、チャレンジ部門のグランプリに輝いた大塚ローテックについても解説している。

グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」Ref.SLGB003

グランドセイコー エボリューション9コレクション

グランドセイコー「エボリューション9コレクション」Ref.SLGB003
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB2)。34石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径37mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。151万8000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617

 今や日本の高級時計の代名詞として世界中で人気のグランドセイコー。日本人にとっては古くからなじみ深いブランドであるが、海外での正式展開は2010年からであり、それまでは海外では“知る人ぞ知る”ブランドであった。このような背景から考えると、現在の世界的な人気は躍進であると言って良いだろう。

 グランドセイコーは、メカニカル、クォーツ、そしてそのふたつの融合とも言えるスプリングドライブと、多彩な技術を持つ。また、外装の仕上げ技術では、平滑であるとともにエッジの効いた平面を生み出すザラツ研磨を得意としている。これらの技術が遺憾なく発揮されているのが、2025年に発表された「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」である。

 本作の基本デザインは、「グランドセイコースタイル」を受け継ぎつつ、独自の定義を行っている「エボリューション9 コレクション」のデザインコードに準じている。太さを使い分けて視認性を高めた時分針やインデックスによって、優れた実用性とオリジナリティーを生み出している。文字盤には、スプリングドライブモデルが製造される長野県において、冬の霧ヶ峰高原で見られる樹氷をモチーフとした型打ち模様が施され、その幻想的な情景を表現している。

性能のみならず、美観も追求された新型ムーブメント。自動巻きであるためローターが備わっており、「SPRING DRIVE ULTRA FINE ACCURACY」の文字が刻印されている。

 ムーブメントは、年差±20秒を実現したスプリングドライブムーブメントCal.9RB2を搭載する。“U.F.A.”は超高精度(Ultra Fine Accuracy)を意味しており、1969年に発売された高精度モデルに付けられた“V.F.A.(Very Fine Adjusted)”にちなんだものだ。Cal.9RB2は、温度補正機能を追加したスプリングドライブの制御ICとエージング済みかつ選定品のクォーツを搭載し、そこに緩急スイッチを加えたことで、システム全体の精度を底上げしつつ、それを維持しやすい、極めて高い完成度を実現している。さらに、ムーブメントには北アルプスの山々から着想を得た「霧氷仕上げ」を施し、各所に椀状の面取りと鏡面仕上げが与えられ、審美性も高い。

シチズン「エコ・ドライブ ワン」Ref.AQ5022-02W

シチズン「エコ・ドライブ ワン」Ref.AQ5022-02W

シチズン「エコ‧ドライブ ワン」Ref.AQ5022-02W
光発電エコ‧ドライブ(Cal.8845)。月差±15秒。SSケース(直径36.6mm、厚さ4.5mm)。日常生活防水。世界限定160本。36万3000円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807

 次に取り上げるのはシチズンだ。シチズンの技術力はクォーツムーブメントにおいて際立っており、それを象徴するのが「エコ・ドライブ ワン」である。エコ・ドライブ ワンは、ムーブメント厚さがわずか1mmで、光発電によって駆動する「エコ・ドライブ」ムーブメントを搭載するモデルだ。また、光発電の効率を高めているため、光を通しながら審美性も高い文字盤表現を得意とし、これがシチズンの魅力のひとつとなっている。

 紹介するエコ・ドライブ ワンのRef.AQ5022-02Wは、このようなシチズンの強みが反映されたモデルである。ケース径36.6mmとコンパクトな仕立てに、時計仕上がり厚さ4.5mmと極めて薄いシルエットを持つ。ローマンインデックスとリーフ型針、6時位置のスモールセコンドによってクラシカルな文字盤デザインとなっており、“薄い仕立ては高級時計の証し”という、かつての美意識を想起させるものだ。

 ステンレススティール製ケースには、落ち着いたイエローゴールドカラーのデュラテクトアンバーイエローを施しており、この表面硬化技術によって耐傷性を高めるだけでなく、文字盤デザインとマッチしたクラシカルな印象を生み出している。文字盤カラーは彩度を落とした落ち着いたボトルグリーンで、こちらも全体のデザインと調和して魅力的だ。この文字盤は光発電のために光を透過するものであるが、メタリックな質感によってそれを感じさせない仕上がりだ。

オシアナス「マンタ S7000シリーズ」Ref.OCW-S7000RA-5A

オシアナス「OCW-S7000RA-5A」

オシアナス「OCW-S7000RA-5A」
タフソーラー。Tiケース(直径42.8mm、厚さ9.5mm)。フル充電時約5カ月駆動(パワーセーブ時)。10気圧防水。21万4500円(税込み)。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925

 次に取り上げるのは、カシオの中でもエレガントかつハイスペックな腕時計であるオシアナスだ。ブランド名はギリシア神話における海の神「オケアノス」から取っており、海を連想させる波模様をデザインコードとして持つ。コンセプトは、先進的な技術をエレガントなスタイリングでまとめることだ。多くのオシアナスのモデルに搭載される代表的機能は、世界6局の標準電波受信による自動時刻修正やタフソーラー、フルオートカレンダー(曜日表示付き)、Bluetooth通信によるスマートフォンとの連携であり、外装がチタン製のモデルも多い。そして、日本製という魅力も持つ。

 紹介するのは、オシアナス「マンタ S7000シリーズ」Ref.OCW-S7000RA-5Aである。「マンタ」は、オシアナスの最上位コレクションで、機能、外装のそれぞれにカシオの技術力が投入されている。また、海の神「オケアノス」がブランド名の由来であることも関係して、オシアナスおよびマンタには、艶感や透明感を追求したブルーを基調とするモデルが非常に多い。

 一方、Ref.OCW-S7000RA-5Aは、オシアナス マンタとしては珍しいブラウンのグラデーション文字盤とベゼルインサートが印象的なモデルだ。さらに、文字盤はハーフマット調の艶を抑えた仕上げであり、従来モデルとこの点でも趣が異なる。多くのモデルが、ブルーを基調としたスポーティーかつエレガントなデザインテイストであるのに対し、本作はシックな魅力が加えられており、新たなファンを獲得するきっかけとなりそうだ。

 機能面も充実している。先に示した機能を網羅しつつ、世界27都市の時刻へと切り替えるワールドタイム機能と、UTC時刻の表示機能や、ストップウォッチを備える。タフソーラーによる光発電を備え、フル充電かつ機能使用時には約5ヵ月、パワーセービング状態では約19ヵ月稼働するなど、実用性が非常に高い。

オリエントスター「オリエントストレット サンアンドムーン」Ref.RN-AK0311N

オリエントスター「オリエントストレット サンアンドムーン」Ref.RN-AK0311N

オリエントスター「オリエントストレット サンアンドムーン」Ref.RN-AK0311N
自動巻き(Cal.F6B24)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径41.5mm、厚さ13mm)。5気圧防水。世界限定2500本(うち国内200本)。6万4900円(税込み)。(問)オリエントお客様相談室 Tel.042-847-3380

 創業1950年、つまり2025年に75周年を迎えたオリエント。オリエントの現在のラインナップは、名作ダイバーズウォッチ「オリエント マコ」のような機械式モデルのほか、ボトムラインとなるクォーツモデルやクォーツクロノグラフモデルを取りそろえる「オリエント」と、機械式モデルのみをラインナップする「オリエントスター」が展開されている。オリエントスターでは、パワーリザーブ表示やスモールセコンド、文字盤のオープンワークを採用するモデルが多い点が特徴であった。

 これに対し、2025年にコンテンポラリーコレクションへ新たに追加された「オリエントストレット」は、従来と異なる新コンセプトで企画されている。コレクション名のストレットとは、クライマックスを演出するためにテンポを加速させるイタリア語の音楽用語であり、高揚感のある都会での豊かなライフスタイルを体現したデザインがテーマだ。

 今回取り上げる「オリエントストレット サンアンドムーン」Ref.RN-AK0311Nは、センターにレッドの秒針を有する時分秒表示で、3時位置に日付表示、10時位置に曜日表示を備える。5時位置は、昼夜を示すデイ&ナイト表示だ。昼を太陽、夜を月で表示しており、これがモデル名の由来となっている。本作は75周年記念の限定モデルであり、記念モデル共有のデザインとして、かつて使用されていた筆記体ロゴが用いられており、往年のファンにとっては嬉しいディティールである。

大塚ローテック「5号改」

大塚ローテック「5号改」
自動巻き(MIYOTA90S5+自社製サテライトアワーモジュール)。25石+2ボールベアリング。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ12.2mm)。日常生活防水。74万8000円(税込み)。(問)大塚ローテック https://otsukalotec.base.shop/

 最後に紹介するのが、大塚ローテックだ。2012年の創業と比較的新しく、生産量も少量ながら、世界的な注目度が急速に高まっているブランドである。ブランド名は、プロダクトデザイナー片山次朗が東京都豊島区の大塚で創業したことに由来する。片山は、自動車メーカーからデザイナーへ転向した経歴を持ち、デザインを担当した製品においてグッドデザイン賞の受賞経験がある人物だ。また、片山は工作機械の持つメカニカルな魅力に引かれ、少しずつ機械を買い集めながら、時計作りを行っている点も興味深い。

 このような“機械好き”の感性は、大塚ローテックの各モデルに反映されている。現在発表されている各モデルの時間表示は、一般的な時分針式ではなく、「7.5号」では3つの窓からジャンピングアワーとディスクによる分・秒を表示する方式を、「6号」では、機械のメーターを思わせるレトログラード表示を採用している。使用されているフォントもクラシカルで、筆者は“職場の片隅に置かれた大ベテランの日本製旋盤”を思い出したほどだ。

 世界共通とも言えるメカニカルな魅力と、日本人視点のノスタルジーが感じられる大塚ローテックの各モデルは海外でも注目され、6号はジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)2024で、国産時計として初めて、チャレンジ部門のグランプリに輝いた。

 さて、取り上げるのは、大塚ローテックの世界観や魅力を色濃く反映した「5号改」だ。本作の時刻表示形式はサテライトアワー機構を採用する。これは、ウルベルクが得意とする方式で、世界的に見て採用事例は少なく、国産時計では初となる。文字盤中央付近から伸びる3つのアームには、それぞれ4つの数字が割り付けられたディスクが搭載されている。3本のアームの内、1時から5時位置の分スケール上にあるアームが“現在有効となっているアーム”となる。このアームの先端にあるディスクが時間を表示し、スケールによって分を表示するのが、本作のサテライトアワー機構の仕組みだ。このような表示形式の面白さだけでなく、手作業が多かった時代の量産機械製品を想起させるパーツのデザインや、機械加工痕の残る(しかし雑ではない)各所の仕上げ、ノスタルジーが刺激される各フォントや表示といった、完成度の高いデザインが魅力である。


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