NHKの朝の連続テレビ小説「ばけばけ」で、怪談を語る住職として存在感を放つ伊武雅刀。2026年春には特集ドラマ「魯山人のかまど」への出演も控え、76歳を迎えてなお精力的に活動を続けている。その渋い声色と個性派俳優としての輝きは、デスラー総統の声を担当した声優時代から一貫したもの。そんな伊武が私生活で愛用する時計に注目した。

Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
[2025年12月21日掲載記事]
「ばけばけ」に続き「魯山人のかまど」に出演。いぶし銀俳優が活躍中
名脇役として愛される伊武雅刀が、現在放送中のNHK連続テレビ小説「ばけばけ」に怪談を語る住職として登場している。物語は小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻・セツがモデルで、明治時代の島根・松江を舞台に怪談を愛する没落士族の娘・トキと異国から来た英語教師、ヘブンの心の交流と夫婦としての歩みを描く作品だ。
伊武が演じる大雄寺の住職は、寺に伝わる怪談「水あめを買う女」をトキとヘブンに語り聞かせる重要な役どころ。番組公式インスタグラムで紹介されると、フォロワーからは「これはもう期待大じゃないですか!」「あの低音の魅力で怪談を語られるかと思うとワクワクします」と熱いコメントが寄せられた。実際の大雄寺の住職も、撮影現場で伊武の演技を見て「いいですね」と何度も口にし、説得力のある演技に舌を巻いたという。
さらに2026年春には、NHK BSプレミアム4Kで放送予定の特集ドラマ「魯山人のかまど」への出演も決まっている。日本の料理を美と捉えた芸術家・北大路魯山人の知られざる姿を描く本作では、藤竜也、古川琴音、柄本明といった実力派俳優たちと共演。伊武は76歳にしていぶし銀の輝きを発揮し続けている。
声優からスタートした俳優人生。デスラー総統とスネークマンショー
伊武雅刀の最大の魅力は、なんといってもあの独特の声色だ。低く響く声は、どこか人を引き込む不思議な力を持っている。その声が初めて全国に知れ渡ったのは、1974年から1975年にかけて放送されたテレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト」で、ガミラス帝国のデスラー総統の声を担当したときだ。
当時のアニメの悪役といえば、マッドサイエンティストが「ヒヒヒヒ……」と笑うような甲高い声が主流だった。しかし伊武は、その逆を行くことにした。低くつぶやくようなスタイルで演じることで、デスラー総統は冷徹でありながら紳士的で、丁寧な言葉遣いの中に無礼さを秘めた、これまでにない魅力的な悪役として視聴者の心を掴んだのだ。
デスラー総統が当たり役となった伊武は、その後も多数の洋画吹き替えやラジオに出演した。なかでもカルト的な人気を誇ったのが、ラジオ番組「スネークマンショー」だ。小林克也、桑原茂一らと組んだコメディ・ユニットは、当時のタブーギリギリの過激な内容がリスナーや放送業界内でも評判となった。この番組は後に全国ネットとなり、さらにYMOによってコントがレコードに収録されるほどになり、音楽業界にまで知名度が広がった。
しかし当時、声の魅力が演技力よりも先に評価されることが多かった伊武にとって、声優業はあくまでも“稼ぐための手段”だった。俳優への志が強く、1982年に「ウィークエンド・シャッフル」で映画デビューを果たしてからは、多数のドラマや映画作品に出演。ただし、俳優業が活動の主体に移っても「宇宙戦艦ヤマト」シリーズのデスラー役は自身の原点であるという理由もあり、基本的には続投している。
釣りとグルメを満喫!? インスタグラムに見る充実のプライベート
私生活では、フラッと旅をすること、レコード鑑賞、そして酒を趣味とする伊武。なかでも最近ハマっているのが釣りだ。2023年7月2日、自身のインスタグラムに投稿されたのは、西表島で海のディナーを楽しむ様子だった。ナイトクルージングに出かけ、沖に出て魚を釣り、夕日を眺め、釣った魚を料理してくれる気心の知れた友人との時間を楽しんでいた。
西表島に年に一度訪れて釣りを楽しむ投稿からは、豊かな時間を過ごしていることが垣間見える。リラックスムードの伊武の表情は、映画やドラマの中とは違う和やかな雰囲気だ。他にも、インドやバリ島での様子を投稿するインスタグラムの内容を見る限り、充実した人生を謳歌している様子が伝わってくる。
左腕で輝くIWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ」
そんなプライベートショットで、伊武が着用していたのはIWCの「ビッグ・パイロット・ウォッチ」だ。存在感のある46.2mm径のケースにブラック文字盤が映える。
搭載されているムーブメントはIWC自社製ムーブメントであるCal.52110だ(※現行モデルは後継機にアップデート)。パワーリザーブは約168時間を誇るタフなモデルである。3時位置に配されるのは7日間スケールのパワーリザーブインジケーターで、大径モデルにもかかわらず、間延びした印象を与えない。

自動巻き(Cal.52111)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約168時間。SSケース(直径46.2mm、厚さ15.6mm)。6気圧防水。201万8500円(税込み)。
グローブを着けたままでも容易に操作ができる大型のオニオン型リュウズや視認性が高いインデックスは実用性に富み、IWCが1930年代からドイツ海軍に供給していた航空用クロノメーターの直系モデルであることを感じさせる。釣りをはじめとする趣味の時間にも、撮影に向き合う仕事の時間にも似合う時計といえるだろう。
魅力的な低音ボイスだけでなく、存在感あふれる演技力にも定評がある伊武雅刀。2026年は「魯山人のかまど」でどのような役で登場するのか、今から楽しみで仕方がない。声優から俳優へと活動の場を広げ、独自の境地を切り開いてきた伊武のさらなる活躍に期待したい。



