時計オタクが大歓喜したチューダー「レンジャー」2025年新作モデルを実機レビュー!

2025.12.22

チューダー「レンジャー」に加わった2025年新作、36mmケースのデューンホワイトダイアルモデルを実機レビューする。チューダーの探検の精神を継承するレンジャーは、小径化と新色ダイアルによって、さらなる魅力を獲得した。

チューダー「レンジャー」

野島翼:写真・文
Photographs & Text by Tsubasa Nojima
[2025年12月22日公開記事]


小径化&新色ダイアルで広がる、チューダーのアドベンチャーウォッチ

 チューダー「レンジャー」に、直径36mmケースのモデルが登場した。2025年は、各社より魅力的な新作が多く発表されたが、その中でもとりわけ、時計愛好家たちを密かに歓喜させたのはレンジャーの小径化ではないだろうか。レンジャーのルーツは、1950年代に行われたイギリス海軍の北グリーンランド遠征探検にさかのぼる。ここで公式時計に採用された「オイスター プリンス」が過酷な環境でも信頼できる性能を発揮したことから、その伝統を継承し、レンジャーが誕生した。

 現行コレクションは、北グリーンランド遠征探検の70周年を記念して2022年に登場。直径39mmのステンレススティールケースに、アイコニックなアラビア数字インデックスと矢印型の時針を組み合わせたブラックダイアルのモデルが発売された。デザインは往年のレンジャーのスタイルに倣ったものであったが、ヴィンテージファンを中心に小径化を待ち望む声も多かった。

 それから3年が過ぎた2025年、チューダーは突如として36mmケースのレンジャーをラインナップに追加した。驚くべきは、ブラックダイアルに加え、新たに“デューンホワイト”ダイアルが加わったことだ。

 デューンは砂丘を意味する言葉だ。このダイアルがオマージュを捧げるのは、世界で最も過酷なレースと言われるダカールラリーと、その挑戦者が持つ冒険の精神。大自然の中を約2週間かけて走破するダカールラリーを象徴するステージといえば、砂漠地帯だろう。本作のダイアルには、その情景が込められている。

 今回は運よく、発売されたばかりの36mmケースのデューンホワイトダイアルモデルをレビューする機会に恵まれた。アドベンチャーウォッチとして親しまれてきたレンジャー。その新たな一歩に迫る。

チューダー レンジャー

チューダー「レンジャー」Ref.79930-0008
2025年新作として発表された、36mmケースのレンジャー。小径サイズの展開とともに、新たにデューンホワイトダイアルが登場した。自動巻き(Cal.MT5400)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径36mm、厚さ11mm)。100m防水。45万6500円(税込み)。

視認性第一のハイコントラストなダイアル

 レンジャーの出自を考えれば、本作に求められるのは、いかなる状況でもユーザーに対して正しい時間を瞬時に伝えることだろう。ここには、長期にわたって安定した精度を保つことや、衝撃や水分などの外部からの影響を受けにくいことなども含まれるが、最も要求されるのは視認性と判読性であるはずだ。

 砂丘を意味する“デューン”の通り、ダイアルはクリーム色に仕上げられている。インデックスや針の縁取りをブラックとすることで生まれたコントラストは、優れた視認性を発揮するに十分だ。パキっとした明るいホワイトのほうがよりコントラストが高くなるだろうが、あまりにも明るい色味は目にまぶしく、かえって見にくさにつながってしまう恐れがある。そのことを考えれば、本作のダイアルは直射日光下から室内まで、全天候に対応していると言えるだろう。

 なお、蓄光に関してはブラックダイアルモデルから変更が加えられている。ブラックダイアルでは、インデックスそのものに蓄光塗料が塗布されていたが、デューンダイアルでは、その外側にドット型の蓄光塗料が盛られている。インデックス自体は発光しないため、完全な暗闇の中では多少心許ないものの、ダイアル自体が明るい色であるため、少しの光があれば読み取りに苦労することはない。

 インデックスと針のブラックがマット仕上げであることも特徴だ。そのため、強い光が差し込んでも見にくくなることはない。秒針の先端はレッドに着色され、モノトーンのダイアルにアクセントを加えている。秒針の動きが目につきやすく、時計が稼働状態であることを瞬時に見分けることができるのもメリットだ。

 本作のダイアルは、判読性の面でも優れている。4つのアラビア数字インデックスは、時計がどの向きであっても正しく時刻を読み取ることが可能だ。全てがバーインデックスであれば、どこが12時位置かを判断するのに時間がかかるだろう。逆にすべてがアラビア数字インデックスであれば煩雑になったに違いない。矢印型の時針、ペンシル型の分針、台形のポインターを備えた秒針と、すべての針が異なる形状であることも、判読性を高めるポイントだ。針はインデックスや目盛りにしっかり届き、1分1秒を正確に読み取ることができる。

チューダー「レンジャー」

視認性・判読性ともに抜群のダイアル。インデックスや針の縁取りがマット調なため、強い光の下でも見やすい。ダイアルとサファイアクリスタルはドーム型だ。

オリジナルに回帰する小径ケース

 直径36mmの小ぶりなケースは、オリジナルを想起させるサイズ感。ヘアラインを主体としているが、ベゼルの縁に施されたポリッシュやラグの面取りによって、ツールウォッチと片付けてしまうにはもったいない上品さを秘めている。

 39mmモデルは、やや幅広のベゼルや大きなアラビア数字インデックスによってスポーティさが強調されていたが、36mmモデルは比較的控えめな印象に纏められ、プライベートからビジネスまで、幅広く活躍することだろう。

 ケースの厚さは11mm。39mmモデルに比べ、1mmの薄型化を果たしている。小径モデルは厚みが目立ちやすく、ずんぐりとした印象になりがちだ。しかし、厚さ11mmの本作に関してはそのような印象はなく、見た目のバランスも良好に感じる。

 ケースバックは、ねじ込み式のソリッドバック仕様である。内部のムーブメントを鑑賞することはできないが、実用時計らしい見た目は、多くのチューダーに共通する特徴である。

チューダー「レンジャー」

ヘアライン仕上げを基調としたケース。リュウズトップには、薔薇のレリーフが刻まれている。11mmという薄さは、着用感にも貢献している。

 レンジャーには、3連ステンレススティールブレスレットとファブリックストラップの2種類のベルトが用意されている。以前、39mmモデルではレザーストラップも存在していたが、いつの間にかカタログ落ちしてしまったようだ。

 今回レビューした個体は、ファブリックストラップのモデルである。グリーンをベースとして、レッドとベージュのラインを加えたデザインは、クリーム色のダイアルとも相性が良い。ファブリックストラップには、どうしてもチープなイメージを持ってしまうが、チューダーに関しては別格だ。しなやかな肌触りと、その中に垣間見える丈夫さは、これまで触れてきたファブリックストラップの中でも間違いなく最上級である。それもそのはず、同社のファブリックストラップは、フランスの伝統的なパスメントリー(飾り紐)会社によって、ジャカードシャトル織機を用いて1本1本製造されている。高密度で織ることで強靭かつ柔軟に仕上げられているのだ。

チューダー「レンジャー」

高密度で織られたファブリックストラップは、強靭さとしなやかさを兼ね備える。長さはバックル部分で調整可能だ。

 なお、このファブリックストラップは一見して引き通しのNATOタイプに見えるが、実際にはバネ棒でしっかりと固定されている。そのため、たとえ本作がシースルーバックだったとしても、ストラップに覆われて内部を見ることはできなかっただろう。バックルはチューダーのエンブレムである盾をモチーフとしたデザインが与えられており、ここでストラップの長さを微調整することが可能だ。この調整方法は、ヴィンテージスポーツカーのシートベルトシステムに着想を得たものである。ちなみに36mmモデルのラグ幅は19mm。ベルト交換を楽しみたい場合は、少し頭を悩ませることになるだろう。

チューダー「レンジャー」

やや素っ気なさを感じるケースバックは、実用時計を得意とするチューダーらしい特徴だ。ジャカードシャトル織機を用いて製造されたファブリックストラップは、ケースにしっかりと固定されている。

安定感抜群のケニッシムーブメント

 搭載するムーブメントは、チューダー傘下のムーブメントメーカー、ケニッシが手掛けたCal.MT5400である。約70時間のパワーリザーブやシリコン製ヒゲゼンマイによる高い耐磁性、C.O.S.C.公認クロノメーターを取得した高精度など、優れたスペックを誇る。

 カレンダーのない時刻表示のみのムーブメントであるため、操作上で困るようなことはない。リュウズのねじ込みを解除し、そのままで主ゼンマイの巻き上げ、一段引きで時刻調整を行うことができる。巻き上げの感触は、ケニッシの他のムーブメントと同じく、トットットッという心地よいもの。自動巻きムーブメントに多い、ざらついた感じはない。時刻調整時は若干粘りのある感触のため、狙ったところにピタリと針を止めることが可能だ。リュウズを押し込んでも針飛びすることはなく、ストレスを全く感じない。いかに高精度なムーブメントであっても、しっかりと時刻調整ができなければ意味をなさないだろう。


1本でなんでもこなすオールラウンダー

 見た目通りの使い勝手、というのはいささか乱暴だろうが、実際にその通りである。着用者が主体的に時間を読みに行くというよりは、ちょっと手元に目をやっただけで、時計の方から時間を見せに来るという感覚すら覚える。研ぎ澄まされた機能美が宿るダイアルは、レンジャーの最大の特徴だろう。そしてその特徴が、自らの出自とアイデンティティを雄弁に語る。

 ヘアライン仕上げのケースは傷が目立ちにくく、気軽に使用しやすいことも魅力だ。たとえ傷ついたとしても、アドベンチャーウォッチという性質上、むしろ似合うだろう。小径かつ厚さが抑えられているため、腕乗りも良好だ。長時間着用しても疲れるようなことはなく、むしろいつの間にか着けていたことを忘れてしまうほどであった。もちろん着用感には、しなやかなファブリックストラップも大きく寄与している。

 デザインからすればややカジュアル寄りだが、オンオフ着用しやすい汎用性の高さも魅力だ。丸みを帯びたアラビア数字インデックスと矢印型の時針が柔らかさを出しつつも、シンプルな形状の小径ケースが上品さを感じさせる。グリーンのファブリックストラップをスーツに合わせるのは至難の業だろうが、ベルトさえ交換してしまえば問題ない。レジャーからビジネスまで、幅広く活躍するオールラウンダーなのである。

チューダー「レンジャー」

時刻表示に特化した実用時計としては、減点すべき箇所が見当たらないほど。見やすく頑丈なうえに、幅広いシーンで着用可能だ。



Contact info:日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570


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