2023年に登場した「ブラックベイ 54」。その新バリエーションとして2025年に加わったのが、ラグーンブルーの文字盤を備えた本作だ。直径37mmというユニセックスなサイズは、男性にも女性にも自然になじむ。1954年のRef.7922をルーツに持ちながら、現代的なデザインと高性能なムーブメントを搭載した、万能型ダイバーズウォッチである。

Text by Rüdiger Bucher
チューダー:写真
Photographs by Tudor
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
チューダーダイバーズの源流を進化させた「ブラックベイ 54」の新境地
夏、太陽、砂浜、そして海。7月の心地よい、しかし暑すぎない週に「ブラックベイ 54 “ラグーンブルー”」を着用してテストしたとき、最初に頭に浮かんだ言葉である。数週間前に発表されたばかりのこの腕時計は、猛暑にあえぐヨーロッパで市場投入された。しかし「夏だけの腕時計」というわけではない。夏にはラグーンブルーに見える色合いが、冬にはアイスブルーとして映えるからだ。

強いルーツを持つモダンデザイン
つまり、このブラックベイ 54は、真のオールラウンダーである。その象徴がユニセックスな直径37mmのケースだ。男性にも女性にも適したこのサイズは、手首回り18.5cmの筆者の腕に理想的に収まった。これまで自分にとっての下限は直径38mmと考えていたが、その思い込みを見事に覆された。力強いラグを持つケースフォルムによって、実寸以上に大きく感じられつつも、全体は非常にコンパクトにまとまっている。

本作は季節や性別を超えるだけでなく、スポーティーさとエレガンスをも自在に融合させた腕時計だ。技術的にはダイバーズウォッチでありながら、5連リンクのジュビリータイプのブレスレットが洗練された印象を与える。陳腐な言い方だが、「あらゆる場面にふさわしい腕時計」と呼んでも差し支えないだろう。決して凡庸ではなく、長い系譜に裏打ちされた強い個性を備えている1本だ。
モデル名が示す通り、「54」は1954年に、チューダー初のダイバーズウォッチとして登場したRef.7922へのオマージュである。当時は100m防水であったが、50年代後半には200m防水仕様が登場。その前後からフランス海軍との長期的な協力関係が始まった。今回テストした腕時計の文字盤を詳しく観察すると、54年モデルのデザインコードが随所に見受けられるのである。

文字盤上の12時位置に配された長い三角形と、3・6・9時位置のバーインデックスで形成される、途切れた十字線。丸型に蓄光塗料を施したロリポップ秒針。そして、縁部分に細かな刻みが入り、分刻みの表示を省略し、5分ごとに交互にバー目盛りとアラビア数字が配された回転ベゼルだ。
将来のチューダーのスタイルを形づけるとは、当時は誰も予想しなかっただろう。Ref.7922の名称は「オイスター プリンス サブマリーナー」であり、当時のチューダーが「価格を抑えたロレックスの姉妹ブランド」であったことを示していた。やがて、69年に導入された「スノーフレーク針」をはじめ、独自の要素が芽生えていく。そして、スノーフレーク針は現在ではブランドを象徴する存在となり、本作にも採用されている。


レトロな特徴を持つがそれだけではない
本作は過去のディテールを引用しつつも、決してレトロなだけの腕時計ではない。チューダーはクラシックな要素を絶妙に生かしつつ、全体として極めて現代的な印象に仕上げている。その要因はプロポーションの巧みさ、鏡面仕上げのベゼル、ブレスレットの構造、そして何より文字盤にある。この文字盤は明るくも落ち着いたブルーで、表面に粗いテクスチャーを施すことで、光を受けるたびに動く海面や凍てついた氷を思わせる。わずかにドーム状に盛り上がった文字盤、ベゼルに刻まれた数字とバー目盛りの粒状仕上げなど、細部の工夫は「よく見るほど発見がある」仕様であり、所有者に長く楽しみを与えてくれる。

このブランドらしい意匠も見逃せない。創業者ハンス・ウイルスドルフは筋金入りの英国好きで、毎朝英国の日刊紙『タイムズ』を読み、イングランドの歴史に親しんでいた。ブランド名「チューダー」や薔薇の紋章はその愛情の産物である。1936年に薔薇ロゴが初めて登場した際は盾の中に描かれていた。その後は単体で文字盤に配され、69年以降は次第に盾のロゴへと移行。現在では12時位置に盾とブランドロゴが配され、薔薇はリュウズにあしらわれている。

クロノメーター認定を受けた高性能ムーブメント
搭載するのは現代的な水準のムーブメント、キャリバーMT5400。2万8800振動/時の自動巻き、ブリッジで両側から支持されたテンプ、シリコン製ヒゲゼンマイ、フリースプラング方式による精度調整、約70時間のパワーリザーブを備える。COSC認定クロノメーターであり、規格値(マイナス4〜プラス6秒/日)を上回る社内基準(マイナス2〜プラス4秒/日)を設定している。
テスト個体はウィッチ製タイムグラファーで次の結果を示した。リュウズ下でマイナス1.8秒/日。文字盤下でプラス3.3秒/日。他4姿勢は、ほぼ±0秒/日だ。平均プラス0.4秒/日という優秀な結果である。最大姿勢差は5.1秒で、これにより満点にはわずかに届かなかったものの、全体としては一級品の精度を実証した。

多くの長所に対し、弱点は2点のみだ。〝T-fit〞セーフティーキャッチ付きフォールディングクラスプの開閉時、とがった盾のロゴマークが爪に触れ、やや不快である。また、鏡面仕上げベゼルは正直、指紋が付きやすい。しかしいずれも致命的ではなく、むしろ細部への追求が裏返しに出たものと言える。
ブラックベイ 54 “ラグーンブルー”は、ツールウォッチの枠を超えたダイバーズウォッチだ。逆回転防止ベゼル、200m防水、暗所でも比較的見やすい明るいブルーの文字盤を備え、水陸両用で活躍する。そして何より、見る者にポジティブな感情を呼び起こす。それこそが最大の魅力だ。
チューダー「ブラックベイ 54 “ラグーンブルー”」のスペック

プラスポイント、マイナスポイント
+point
・魅力的な文字盤カラー
・歴史的要素と現代的デザインの融合
・コンパクトなユニセックスサイズ
・高性能なムーブメント
・実測でも優秀な精度
・価格設定が良心的
-point
・ベゼルに指紋が付きやすい
・クラスプ開閉時に盾のロゴマークの角が指に当たる
技術仕様
| 製造: | チューダー |
| リファレンスナンバー: | M79000-0001 |
| 機能: | 時、分、センターセコンド(秒針停止機能付き) |
| ムーブメント: | Cal.MT5400、自動巻き、シリコン製ヒゲゼンマイ、2万8800振動/時、パワーリザーブ約70時間、COSC認定クロノメーター |
| ケース: | ステンレススティール製ケース、ポリッシュ仕上げのステンレススティール製インサートを備えた逆回転防止ベゼル、ドーム型サファイアクリスタル製風防、ねじ込み式リュウズ、200m防水 |
| 文字盤: | わずかにドーム形状をした粒状テクスチャー仕上げのラグーンブルー文字盤、スーパールミノバが塗布されたインデックスと針 |
| ブレスレット&クラスプ: | ステンレススティール製5連ブレスレット、“T-fit”セーフティーキャッチ付きフォールディングクラスプ |
| サイズ: | 直径37mm、厚さ11.2mm、重量約125g(実測値) |
| 価格: | 61万9300円(税込み) |
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
精度安定試験
| 最大姿勢差: | 5.1秒 |
| 平均日差: | +0.4秒/日 |
| 着用時平均日差: | ±0秒/日 |
評価
| ブレスレット&バックル(最大10pt.) | 9pt. | ジュビリータイプの5連ブレスレットは仕上げも良好。クラスプの固定感も高い。 |
| 操作性(5pt.) | 3pt. | リュウズ操作は良好だが、クラスプのロゴはやや指に干渉する。 |
| ケース(10pt.) | 9pt | クラシカルな形状。逆回転防止ベゼルの操作感は極めて良好だ。 |
| デザイン(15pt.) | 14pt. | 歴史的要素を踏まえつつ、現代的なスタイルに昇華。 |
| 文字盤と針(10pt.) | 9pt. | 粒状のブルー文字盤が高い存在感。針とインデックスの仕上げも秀逸である。 |
| 視認性(5pt.) | 5pt. | 昼夜を問わず良好である。蓄光塗料の発光も十分だ。 |
| 装着性(5pt.) | 5pt. | ブレスレットが柔軟にフィットし、快適である。 |
| ムーブメント(20pt.) | 16pt. | 安定した性能と高い仕上げ。耐磁性も優秀だ。 |
| 精度安定性(10pt.) | 9pt. | 実測でCOSC基準を上回る。 |
| コストパフォーマンス(10pt.) | 10pt. | 高い性能に対して価格は適正だ。 |
| 合計 | 89pt. |



