昨今、腕時計のダイアルに多用されるようになった紫色。この色は、青色や緑色とは異なり、身近な色という感覚を持たない人が多いかもしれない。そこで今回は、「紫色」にフォーカスし、この色にまつわる自然現象とともに色の持つ効果をグランドセイコーと共にひもといていく。また、紫色の文字盤を持つ限定モデル、「SLGB005」に合わせやすいスタイリングの配色を伝授する。

Photographs & Text by Mutsuyo Ito
[2025年12月25日公開記事]
紫と言っても色々ある。SLGB005全体の色を解説
2025年4月に発表された年差±20秒の超高精度機、Cal.9RB2。同ムーブメントを搭載するU.F.A.(Ultra Fine Accuracy)モデルに加わったのが、9月発表のSLGB005だ。

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB2)。34石。パワーリザーブ約72時間。エバーブリリアントスチールケース(直径37mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。世界限定1300本(うち国内700本)。146万3000円(税込み)。
同作のダイアル色は濃い紫色だが、光の加減でびっくりするくらい印象が変わる。光があまり入らないと下の写真のように黒に近い濃紫に見え、型打ち模様も息を潜める。

しかし、ダイアルに光が当たると精緻な型打ち模様とともに、中心から外側に向けて徐々に濃くなっていく紫色のグラデーションが浮かび上がってくる。
ブレスレット部分はエバーブリリアントスチールが使用されており、一般的なステンレススティールよりも若干白みを帯びた硬い輝きがダイアルの神秘的な紫色をクールに引き立てている。

また、太陽光のもとでは、型打ちとグラデーションがより強調される。

紫色に染まる? 樹氷の森の不思議
このモデルのダイアルは、セイコーによると「樹氷の森が静かに目覚める夜明けの神秘的な情景」を表現しているという。では、どのような時に樹氷の森が紫色に染まるのだろうか? それは、薄明(はくめい)と呼ばれる時間帯に起こる、レイリー散乱、そして地平線から届く赤い光が混じり合って生まれる、まさに神秘の時間の現象のよるものだ。
薄明と呼ばれる美しい時間
薄明とは、太陽が地平線(または水平線)の下に隠れているにもかかわらず、空が完全に暗くならず、ほんのりと明るさを感じられる状態のことだ。
このわずかな時間、空に紫色の光が見えることがある。この時、太陽光は長い距離、厚い大気を通り抜けてくるため、波長の長い赤い光のみが届く。その光と、上空で起こるレイリー散乱によって見える、青い光が混ざることで紫色に見えるのだ。この光が、真っ白な樹氷を紫に染めるのだろう。
太陽光には純粋な紫の光も存在しているが、他の色に比べて人間の視覚の特性上感知しづらく、青より散乱が強い為それ自体は見えにくくなる。よって、紫光を感じるのは、赤い光と青い光が混ざる時間帯となる。
意外と身近にあった! レイリー散乱現象
レイリー散乱、と聞くと小難しく聞こえるかもしれないが、ほとんどの方が毎日目にしている身近な現象である。簡単に説明すると、人間が見える範囲の光(可視光)のなかで、「波長が短い光=青い光」が空気中の分子などに当たって散乱される現象であり、空が青く見える理由がこれである。
このような光の現象と地平線からの赤い光が重なった時、樹氷の森は紫色に染まる。ただし、快晴であること、空気が澄んでいることなど一定の条件がそろうことが前提だ。
「紫」色はどんな色?
「紫」と聞いてあなたはどんなイメージを持つだろうか? はるか昔、聖徳太子の時代に日本では、冠位十二階の身分制度で最高位に当たる色として定められていたように、紫は高貴な色とされていた。現代でも紫色、特にダークトーンの紫色は、高級感を演出しやすい色となっている。

また、カラーセラピーの観点では「紫=バイオレット」は、赤と青という全く逆の性質を持つ2色の混色で生じる色のため、精神の統合(相反する感情のバランスを整える)に効果的だとされている。また、治癒と再生、克服の色とも言われる。
紫色は好きだが、身に着けるアイテムとして考えると少々難しい、と感じる方が多いかもしれない。そこで、SLGB005のダイアル色を中心に、取り入れやすい配色を伝授していく。
SLGB005にお勧めの休日カジュアル用配色

カラーダイアルの時計を身に着ける時、モノトーン(ホワイト、グレー、ブラック)やモノトーン×デニムというコーディネートに、手が伸びやすいのではないだろうか。もちろんそのコーディネートも素敵だが、もう少し色を使ってオシャレを楽しんでみたい方には、このような配色をお勧めしたい。

①カーキ×ライトベージュ×ダークパープル
この組み合わせを、色相環(色を虹のように連続的に円形に並べた図)上に落とし込んで表すと、カーキ=(くすみを帯びた)緑色、ライトベージュ=(明るくした)橙色、ダークパープル=紫色となる。これらの色は、色相環を三角形で結ぶ、トライアド配色がベースになっている。この配色を使うことで、色を多用しているが、洗練された雰囲気に仕上がる。
②ベージュ×ブラウン×ダークパープル
この組み合わせを、色相環上に落とし込んで表すと、ベージュとブラウン=(くすみを帯びた濃淡の)橙色、ダークパープル=紫色となる。この色は、対照色相配色(色相環上の差が8〜10色)がベースになっている。橙色側の彩度(鮮やかさ)と明度(明るさ)を下げることで、全体的に落ち着いた印象になる。
③濃淡のブルー×ダークパープル
この組み合わせを、色相環上に落とし込んで表すと、ライトブルーとダークブルー=青色、ダークパープル=紫色となる。この色は、類似色相配色(色相環上の差が2〜3色)がベースになっている。全てを同系色でまとめることで、統一感が出る。
これらの法則を使うと、コーディネートがしやすくなるが、配色パターンに忠実になりすぎる必要はない。実際、この画像に使用した色自体も、所謂教科書通りの配色とは若干のずれが生じているがコーディネートは成り立っている。だが、知識として持っておいて損はないだろう。また、今回は「ダイアルの色を拾う」という、時計コーディネートの鉄板スタイルを、あえて避けてみた。参考になればうれしい。
紫色を楽しもう
樹氷の森が紫色に染まる神秘的な一瞬を、ダイアルで表現したSLGB005。照明や太陽光の強さで見え方が大きく変化するので、さまざまな場面で新しい表情を見せてくれるだろう。そんな変化を楽しみつつ、時計を主役にしたカラーコーディネートを楽しんでみてもいいかもしれない。
筆者プロフィール
伊藤むつよ
時計メーカーの色彩監修やイメージコンサルティング、催事会場でのパーソナルカラー診断や接客講師など、販売現場の「品・場・人」にまつわる幅広いコンサルティング業務を行う。時計修理技能士2級・J-color認定講師・GIA AJP等多数の資格を保有。株式会社parakeITO代表取締役。HP:https://www.mutsuyo-ito-parakeito.com/
Contact info: セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617



