mærge(南青山)/この世ならぬ美味のクリエイター

2026.02.12

開業からわずか3カ月でミシュランの星を獲得するという快挙を成し遂げたフランス料理店「mærge」。訪れた人々が感銘を受けるその訳とは? 柴田秀之氏の想いに迫る。

mærge

(テーブル奥から)セップ茸のタルト、荒間鶏、秋刀魚、カリフラワーのヴルーテ、(手前)キャレドブール
テーブルに小さな4品が並べられ、コースが始まる。奥から「セップ茸のタルト」「荒間鶏」「秋刀魚」「カリフラワーのヴルーテ」。産卵を終え、通常食材にならない老鶏を「荒間鶏」と名付けて見事な技法で昇華した一品は「mærge」のコンセプトを表現。写真手前の「キャレドブール」は、オシェトラプレミアムキャビア、燻製の鴨、ポークリエット、リコッタチーズクリームなどゲストが選ぶ素材を四角いクロワッサンに載せ完成する。
外川ゆい:取材・文
Text by Yui Togawa
三田村優:写真
Photograph by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2026年1月号掲載記事]


経済を循環させる新たな“観光名所”

柴田秀之

柴田秀之(Hideyuki Shibata)
1979年、北海道生まれ。99年より「レストラン モナリザ」で修業をスタート。2006年に渡仏し、ブルゴーニュやパリの星付きレストランで研鑽を積む。帰国後、「レストラン モナリザ」の丸の内店と恵比寿本店で料理長を務め上げ、16年に白金に「ラ クレリエール」を開業。25年6月、南青山に「mærge」を開業。

「mærge(マージ)」とは、フランス語で「余白・額縁」の意を持つ“marge”と、英語で「融合」の意を持つ“merge”のふたつを掛け合わせた造語だ。「まだ名のない素材にも額縁をかけ、食材と食べ手のあたらしい関係を繋ぐ」という想いが込められている。

 オリジナルのmærge chairに座ると、キャンドルのみが置かれた真っさらなテーブルの上でうっとりとするプレゼンテーションが繰り広げられる。柴田秀之氏いわく「味覚は一番最後にくるもの。視覚から始まり、聴覚や嗅覚が続き、触覚、そしてようやく口に入れて初めて味覚が分かる。だから、味覚に辿り着くまでの間にどこまで脳に訴えかけるかというのが、メゾンの仕事です」。前菜の前に登場する「キャレドブール」は、目の前に優美に並べられた中からお好みで選ぶと、湯気とバターの香りが漂うクロワッサンに載せてくれる。クラシックなフランス料理を感じられ、心が躍ることだろう。その後も物語が紡がれた料理の数々が続いていく。

 肉料理の前には重厚感ある木箱が運ばれてくる。中に入った1本1本異なる個性を放つナイフは、京都で日本刀のみを製造してきた「日本玄承社」と新潟県燕市にある「スワオメッキ」に依頼した特注品。気に入ればゲストがオーダーすることができ、このナイフの製造と定期的なメンテナンスによって、刀鍛冶とメッキ職人の仕事を守ることに繋がる。

「日本の魅力を知っていただく場所、つまりは観光名所になりたいと考えています。だから、ライバルは浅草寺ですね」と語る。実際に「mærge」での食事を終えると、初めて得る知識、くすぐられる好奇心、記憶に残る体験など、観光名所を訪れるに匹敵するものを与えてくれる。

 柴田氏には“mærge project”と名付けた15年の計画がある。今後5年で三つ星を獲得し、10年でデベロッパーと組んで商業施設をつくり、15 年でコンセプトシティーをつくる。そして「mærge」を100年続くレストランにすること。壮大な計画だが、その根源は柴田氏のこの言葉に凝縮されている。「すべては、自分が思い描くひと皿を完成させるために必要なこと」。

mærge(マージ)

mærge

古代中国の自然哲学「五行」をコンセプトに据えた空間は、規則的な模様をあえて用いずに“完結しない美”をそのままに。他に、臨場感溢れるシェフズテーブルとセドナと名付けた個室を用意する。

東京都港区南青山3-8-14 VORT 南青山III 1F
Tel.03-6910-5615
日曜+不定休
18:00~23:00
季節のおまかせコース 3万6300円
(サービス料10%別)


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