長らく香港企業の傘下にあったコルムだが、2025年4月に当時のセールスディレクターだったハソ・メフメドヴィッチが、スイス投資家の支援の下、MBOを敢行。新CEOとしてリブランディングに心血を注いでいる。
Photograph by Yu Mitamura
細田雄人(本誌):取材・文
Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年1月号掲載記事]
本来あるべきポジションにコルムを引き戻す

1993年生まれ。ル・ロックルの職業訓練校でCFCを取得後、2011年に時計職人としてコルムに入社。クォリティコントロール、プロダクト、セールスの各部門でマネージャーを歴任したのち、ブランドマネージャーに就任。25年に知人のスイス人投資家ふたりと協力し、シティチャンプ・ウォッチ&ジュエリー・グループ・リミテッドからコルムをMBOし、CEO兼取締役会長に就任。
「スイス人100%によるガバナンス体制」を打ち出す32歳の経営者が目指すのは? 鍵を握りそうなのが、就任した際のプレスリリースに散見される「再建」や「回帰」といった類の言葉だ。
「この数年のコルムは非常に厳しい状況にありました。その中で私とパートナーの投資家ふたりは、『コルムをもう一度復活させよう』という強い意思を共有し、MBOに動きました。本来、コルムには創業者のルネ・ヴァンヴァルトが残した素晴らしいDNAとヘリテージがあります。我々はこれらを活用してスイスブランドのルーツに立ち返り、本来の地位に返り咲きたいです」
MBO以降、メフメドヴィッチが強調し続ける“本来の地位”。具体的にどのようなポジションを指しているのか。
「私にとってコルムとは大胆で、クリエイティビティにあふれ、ユニークでありながらハイエンドでもあるブランドです。まずはこのイメージを取り戻すこと。そしてそのイメージを今の時代に合うかたちで磨き上げていくことが本来の地位に戻るということです。そして長期的−−つまり5年後、10年後ではなく、50年後というようなスパンで見た時に、コルムを時計業界のトップ10ブランドのひとつに押し上げたいと考えています」

フィレンツェ出身の詩人にして、長編叙事詩『神曲』の作者として知られるダンテ・アリギエーリ。彼の生誕700年を祝して1965年に発行された記念銀貨(500リラ)を用いたコインウォッチが同作だ。セリタSW300をベースに使用しながら、ケース厚は7.55mmに収められた。自動巻き(Cal.CO 082)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径36mm、厚さ7.55mm)。1気圧防水。世界限定700本。253万円(税込み)。
現在のコルムは「ゴールデンブリッジ」のようなハイエンドモデルも存在するが、一方でミドルレンジに属するプロダクトも混在している印象だ。前述のようなブランドイメージを目指すにあたり、後者は整理されていくのだろうか。
「現状、既存コレクションを整理したり、新しいコレクションを作ったりという具体的な話はお伝えできません。ただし、4000スイスフラン台の時計から10万スイスフランを超えるものまで、価格レンジが広すぎるのも確かです。非常に多く存在するコレクションとSKUをある程度整理していくこと自体は正しい方向性だと考えています。その上でプロダクトの品質や仕上げ、顧客体験への投資を行い、時計の1本1本の価値を高めていきたいです」
18歳で時計職人としてコルムに入社して以来、QC、プロダクト、セールスと各分野でマネージャーを務めてきた彼は、誰よりもブランドの「内」も「外」も熟知していると自負する。このような人材が長期で立て直しを図るのならば、いつかコルムは時計業界の台風の目となるのかもしれない。



