かつてない意匠を叶えたリシャール・ミルの非凡なノウハウ「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」

2026.03.19

トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフの嚆矢は、間違いなくリシャール・ミルである。審美性と実用性を両立させるというかつてない試みは、2003年のRM 008と12年のRM 050に結実した。その最新作にあたるのが、「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」だ。これは単なるフェラーリとのコラボレーションモデルにあらず。リシャール・ミルのノウハウの集大成、なのである。

リシャール・ミル「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」

広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年3月号掲載記事]


平面に部品を置く発想が複雑機構らしからぬ簡潔さをもたらした

 2003年にリシャール・ミルが発表した「RM 008 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ」は、そう言って差し支えなければ、使うことを前提とした初のトゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフだった。ベースとなったのはルノー・エ・パピ(現マニュファクチュール・デ・セニョル)製のスプリットセコンドクロノグラフ。リシャール・ミルはそこにトゥールビヨンを加えただけでなく、クロノグラフ機構のレイアウト自体も刷新した。

スプリットセコンド車

世界広しといえども、約四半世紀にわたってトゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフを作り続けるブランドは、リシャール・ミルしかない。当初は堅牢さを志向していたが、後に部品の慣性を小さくして耐衝撃性を向上させるアプローチに変わった。好例が写真のスプリットセコンド車。アイソレーター付きにもかかわらず、極めて簡潔だ。

 2本の針でふたつの経過時間を計測できるスプリットセコンドクロノグラフは、クロノグラフの上にスプリットセコンドを積み増しするため、どうしても厚みが増してしまう。対してリシャール・ミルは、クロノグラフを操作するプッシュボタンをリュウズの反対側に移設。その結果、クロノグラフ機構の取り回しがシンプルになった。また、クロノグラフ機構に慣性の小さな(そしていくばくかのバネ性を持つ)チタン部品を多用することで、水平クラッチにはつきものだった、クロノグラフ秒針の針飛びをほぼ抑えることに成功した。

 もっとも、このトゥールビヨンクロノグラフの完成は、05年のRM 008-V2を待たねばならない。このモデルでは、よりチタン素材が多用されたほか、歯車などの軽量化が図られた。堅牢さと安全性を重視した第1作に対して2作目は、軽さと耐衝撃性能に舵を切った、と言えそうだ。

リシャール・ミル「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」

本作で初めて採用された12秒インデックスを放射状のブレードで読み取るアクティブセコンド表示。針ではなく羽根状のため、理論上は回転時の片重りが生じにくい。こういう場合、上の受けを省いたフライングトゥールビヨンに固定するのが定石だ。しかし、きちんと受けを備えたのが実用性を重視するリシャール・ミルらしい。

 そんなリシャール・ミル製トゥールビヨンスプリットセコンドクロノグラフの最新作にして集大成が、「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」だ。ムーブメントの基本設計はRM 008から不変。しかし、ふたつの点で大きな進化を遂げている。

 ひとつは、今風の「抜けた」ムーブメントになったこと。そしてもうひとつが、さらに使えるものに仕立てられた点だ。そもそも、4番車と脱進機、そしてテンプを同軸に重ねたトゥールビヨンは、普通の時計に比べて輪列がコンパクトだ。加えてリシャール・ミルは、クロノグラフのプッシュボタンをリュウズの反対側に置き、スプリットセコンド機構と同じ階層に置くことで、取り回しを簡潔にまとめた。その理由は、故障の原因となる部品同士の重なりを避けるため。結果として、リシャール・ミルのトゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフは、“らしからぬ”ほど洗練された構成となった。

 本作が搭載するムーブメントは、その簡潔さを強調すべく、トゥールビヨンのキャリッジはスプリットセコンド用のコラムホイールとほぼ同軸(!)に重ねられた。しかし、あえて抜け感を出すのではなく、意匠に振ったのが本作の新しさだ。つまり、余白が生じたことで、デザインの自由度が増したのである。

リシャール・ミル「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」

リシャール・ミル「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」
リシャール・ミルのお家芸である、トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフの集大成。簡潔な設計を強調することで、デザインの幅がいっそう広がった。時計の仕上げに関しては言うことなし。手巻き(Cal.RM43-01)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。(上)グレード5チタン×カーボンTPT®ケース、(下)カーボンTPT®ケース(縦51.2×横42.9mm、厚さ17.1mm)。50m防水。それぞれ世界限定75本。要価格問い合わせ。

リシャール・ミル「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」

 約四半世紀にわたってトゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフを作り続けてきたリシャール・ミルには、この分野に関しての非凡なノウハウがある。その集大成として開発されたRM 43-01は、結果としてかなり使える腕時計となった。ディテールを述べるとキリがないためひとつだけ挙げておこう。いわゆる高級なクロノグラフは、軽い操作性を得るために、コラムホイールの「歯」を細かく割りたがる。対してRM 43-01のコラムホイールはたったの6歯。あえて歯数の少ないコラムホイールを選んだ理由は、かみ合いを深くすることで、強いショックでも外れなくするため。歯が少なくなるとレバーの動きは大きくなり、操作は重くなるが、リシャール・ミルはレバー類に軽いチタンを使うことでそれに対応した。一事が万事、この腕時計には実際に使うための配慮が盛り込まれているのだ。

 正直、2億円近い価格の本作を実際に使い倒す人がいるかは分からない。しかし、RM 43-01には、突き詰めたプロダクトならではの凄みが伴っている。これは決して、超富裕層向けの玩具にあらず。トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフであることを突き詰めた、ガチの腕時計なのだ。



Contact info:リシャールミルジャパン Tel.03-5511-1555


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