今回インプレッションするのは、スピニカーとseconde/seconde/(セコンド/セコンド/)とのコラボレーションモデル「フルース オートマティック セコンド/セコンド/ バッチNo2」のケース径43mmモデルである。本作は、2025年秋に発売されたファーストバッチが即完売するほどの人気を集めたモデルの2ndバッチに位置付けられている。筆者は何度かスピニカーのタイムピースをインプレッションした経験があり、遊び心にあふれたデザインを実用的に仕上げるという手堅い時計作りに対し、高く評価してきた。今回のインプレッションでも、本作に盛り込まれた「遊び心」と「実用性」に注目してゆきたい。

自動巻き。SSケース(直径43mm)。150m防水。世界限定709本。8万8000円(税込み)。
Text & Photographs by Shin-ichi Sato
[2026年7月14日公開記事]
数多くのブランドとコラボレーションを行うseconde/seconde/(セコンド/セコンド/)とは?
seconde/seconde/(セコンド/セコンド/)は、フランスのパリを拠点とするアーティスト兼時計カスタマイザーのロマリック・アンドレが手掛けるブランドだ。伝統的な職人技と現代的なデザインのコントラストを際立たせる手法が高く評価されており、有名ブランドと数多くのコラボレーションを行っている。いずれのコラボモデルも、ユーモアやウィットが効いており、マンガやゲームを思わせるモチーフがちりばめられている点が特徴となっている。
スピニカーとセコンド/セコンド/は、「フルース 40 オートマティック セコンドセコンド」の「ファントム クラシック」と「ファントム ノー アップ」においてコラボレーションした実績がある。このコラボレーションモデルでのテーマは“ファントム(おばけ)”であり、これは今般の新作である「フルース オートマティック セコンド/セコンド/ バッチNo2」にも引き継がれている。
“ファントム(おばけ)”が主役のコラボレーションモデル
では、なぜファントムがテーマとなっているのかについて深掘りしよう。スピニカーはイタリア発の時計ブランドで、基軸となるのはヨットやフリーダイビングなどのマリンスポーツを行う人々のためのデザインである。このような背景の下、ラインナップには、クラシカルなコンプレッサーケースへのオマージュである「ブランダー」、潜水艇の窓から着想を得たバブルレンズ風防の「ピカール」、モダンダイバーズウォッチ「テセイ」など、ダイビング(潜水)をテーマとしたモデルが多く並んでいる。
ダイバーズウォッチの歴史を振り返ると、モダンダイバーズウォッチの祖であるブランパン「フィフティ ファゾムス」の名は、1ファゾムが約1.83mで、50ファゾムス、すなわち約91mの防水性を持つことを意味していた。1ファゾムは両手を広げた長さに対応しており、船乗りがロープを両手に持って伸ばし、長さを測っていたことに由来しているため、ダイビングではなじみ深い単位であったのだ。これは日本での「尋(ひろ)」に相当するもので、釣りを趣味とする方ならばイメージできるのではなかろうか。さて、セコンド/セコンド/は、ダイバーズウォッチの歴史と紐づく単位である“ファゾムス(fathoms)”に注目。その語感から“ファントムたち(phantoms)”をイメージし、コラボレーションモデルのテーマとして選んだのだ。
文字盤6時位置に配された“47+3 PHANTOMS”
インプレッションするフルース オートマティック セコンド/セコンド/ バッチNo2の文字盤6時位置には、“500ft/150m”の防水性能の表示とともに、“47+3 PHANTOMS”、つまり、47+3の合計50のおばけがいることが示されている。これは、モダンダイバーズウォッチの祖が50ファゾムスの防水性能を持っていたことに由来するものだ。
文字盤上には、47体のファントムたちが行進をする姿が描き出されている。1体1体のファントムは立体的なモールドによって成形されており、サイズや色合い、眼の大きさがさまざまで表情豊かな仕上がりである。スピニカーは、立体的なレリーフで海の男『ポパイ』を描き出したコラボモデル「ピカール オートマティック ポパイ リミテッド エディション」をリリースしており、スピニカーが得意とする立体的な造形を文字盤上に配置する手法が本作にも用いられていると言えるだろう。

そして、ファントムが活発に活動する夜になると、ホワイト、ブルー、グリーンの3色に光るファントムが浮かび上がるデザインとなっている。残り3体は、デイト窓、ラグ裏に隠れた2体と、自動巻きローターに化けた1体だ。隅々まで遊び心が感じられるデザインである。


「スペクトラル・グレー」と名付けられた文字盤と、大きく波打つベゼル
文字盤は、“幽霊のような灰色”を意味する「スペクトラル・グレー」と名付けられている。グレーの名を持つが実際にはシルバーカラーに近い色調を持ち、表面は粗めの梨地となっている。このような仕上げとすることでシルバーカラーの光沢感を程よく落ち着かせつつ、凹凸による陰影によって表情のある仕立てとなっている。また、表面は石のような自然物を思わせるテクスチャーであるのに対して、コミカルで非現実的なファントムが行進する姿がコントラストとなっている点が面白い。

ベゼルは大きく波打つ特別なデザインとなっている点も特徴だ。これはファントムの足元から着想を得たもので、この世のものではない、存在がゆらいでいるものであることを象徴した造形である。実際に着用して見てみると、射し込む光が部分的に反射、あるいは陰影を生んでゆらいでいるように見え、“存在のゆらぎ”を感じさせる仕上がりであった。
また、斜めから見ると立体感が際立ち、柔らかな凹凸がちょっと奇妙で、本作のテイストに合っていて面白かった。このような、ゆるやかで高低差のある波状の凹凸を設けたベゼルは稀で、セコンド/セコンド/の独創性と、それを形にするスピニカーの技術力が反映されたポイントと言えるだろう。なお、ベゼルの操作感は固めでしっかりとしたタッチで、波状の凹凸に指が載り、思いのほか操作しやすかった。
直径43mmの大柄なケースをうまくフィットさせるパッケージング
今般のコラボレーションモデルには、ケースに一体化したラグを持つ直径43mmモデルのRef.SP-5170-11B-P(世界限定709本)と、ラウンドケースにストレートなラグを持つ直径40mmモデルのRef.SP-5170-11A-P(世界限定938本)が並ぶ。今回インプレッションしているのは、前者のケース径43mmモデルだ。

着用してみると、周長約18cmの筆者の手首ではフィット感は良好であった。ラグを短めに、手首に沿った形状としていることが効いているようである。ただし、大型モデルであることには変わりはなく、腕の細いユーザーは要フィッティングであり、直径40mmモデルも候補に入れて検討するのが良いだろう。
こちらは同時に発売される直径40mmモデル。ケース径以外では、ラグ部分のデザインが異なる点が最も大きな差異だ。自動巻き。SSケース(直径40mm)。150m防水。世界限定938本。9万9000円(税込み)。
ブレスレットは、中ゴマに細かな楕円状パーツを配した「ライスブレスレット」と呼ばれるタイプである。やや薄手の仕立ても相まってクラシカルな印象だ。動きがしなやかで、フィット感の向上にも寄与している。一方で、直径43mmのケースとの重量バランスを考えると、“ヘッドヘビー気味だが許容範囲”といったところで、より良い装着感を求めるならばタイトフィットが推奨される。
また、全体に蓄光塗料が施され、伸縮する素材で作られたホワイトのファブリックストラップが付属する。明るい屋外では真っ白に見え、暗所ではストラップ全体がグリーンに発光し、周囲の環境で大きく印象を変える本作にマッチした仕立てとなっている。なお、ブレスレット取り付け部と、ストラップ装着時に使用するバネ棒にはクイックリリースレバーが備わっており、特別な工具なしで簡単に着脱が可能だ。今回は交換と試着までは行わなかったが、近いタイプのストラップを愛用している筆者の感想を述べておくと、無段階の長さ調整が可能なため手首にタイトフィットさせやすく、伸縮性がある素材のため窮屈感も出にくい点が魅力である。本作を手にしたら、ぜひ交換して楽しんでほしい。

パッケージにもファントムたちが隠れている
本作のための特別なパッケージにも大きくファントムが描かれており、その内装にも小さなファントムがたくさん描かれていてカワイイ仕立てである。こういった仕掛けは手元に届いた時に楽しさを運んでくれるし、箱まで取っておきたくなる愛着につながるものだ。こういったポイントからも、ファンの心を掴むセコンド/セコンド/の手腕が感じられた。

隅々まで、セコンド/セコンド/とスピニカーの遊び心が反映された1本
インプレッションしたフルース オートマティック セコンド/セコンド/ バッチNo2は、個性的な文字盤デザインや、波状ベゼルといったインパクトのある特別デザインだけではなく、ラグ裏や自動巻きローターに隠れたファントム、全体に蓄光が施されたストラップ、パッケージに至るまで、世界観や遊び心を表現するディテールが盛り込まれている。このように細部まで凝った仕立ては、手にした時の満足感につながるため高評価だ。大柄なモデルであるので、手首サイズとのマッチングに気を付ければ良好な着用感を得やすく、ダイバーズウォッチを作り慣れたスピニカーの技術力が発揮されている。
最大の特徴であるファントムが行進する文字盤は、セコンド/セコンド/による独創的なデザインを、立体的な文字盤ディテールを得意とするスピニカーが形にしたものと言え、双方のファンに響く完成度の高さである。ファーストバッチが即完売したことも納得だ。本作の持つ遊び心に魅力を感じたならば要注目の1本である。



