オリエントより、2026年の新作「オリエント フルッソ」が発表された。本作は、1970年代から80年代にかけて人気を博した同社の「SK」から着想を得ながら、その個性的な造形を現代的に再構築した新コレクションだ。単なる復刻ではなく、SKの面影を残しつつも、ダイアルやブレスレットを大胆に整理したところに本作の魅力がある。
Text by Tsubasa Nojima
[2026年9月XX日公開記事]
洗練されたブレスレット一体型ウォッチ、「オリエント フルッソ」
オリエントが2026年新作として発表した「オリエント フルッソ」は、バーインデックスを配したシンプルなダイアルと、ケースからブレスレットへと滑らかにつながる一体型フォルムを特徴とする機械式腕時計だ。ムーブメントには自社製の自動巻きCal.F6522を搭載。10気圧防水とJIS1種の耐磁性能を備え、日常使いを想定した実用的なスペックにまとめられている。
モデル名の“フルッソ(Flusso)”は、イタリア語で“流れ”を意味する言葉だ。その名の通り、フラットなケースの上下からブレスレットへと淀みなくつながるフルフロー形状を採用している。ケースとブレスレットを個別の部品として見せるのではなく、ひと続きの造形としてまとめたスタイリングが本作の肝と言えるだろう。
バリエーションは、レギュラーモデル3種と数量限定のレッドグラデーションダイアル1種。一見すれば、昨今人気を集めるブレスレット一体型スポーツウォッチの文脈に沿った新作にも思える。しかし、そのディテールに目を移すと、オリエントらしいルーツが浮かび上がってくるのだ。

オリエントの新作「オリエント フルッソ」が発表された。「SK」を現代的に再構成した本作では、オリジナルを想起させる意匠を交えつつ、洗練されたデザインに仕上げている。自動巻き(Cal.F6522)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.9mm)。10気圧防水。世界限定4500本(うち国内1100本)。4万5100円(税込み)。

ゴールドメッキの外装に、ホワイトダイアルを組み合わせたモデル。ヘアライン仕上げを主体としているため、ゴールド基調でも派手さはなく、気軽に着用しやすい印象だ。自動巻き(Cal.F6522)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.9mm)。10気圧防水。5万600円(税込み)。

オンオフ両方で活躍しそうなブルーダイアルモデルと、上品なホワイトダイアルモデル。立体的なインデックスや蓄光塗料を塗布した時分針によって、視認性は良好だ。自動巻き(Cal.F6522)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.9mm)。10気圧防水。4万2900円(税込み)。
ベースとなったのは、1970年代に誕生した個性派の「SK」
フルッソを理解するうえで欠かせないのが、そのモチーフとなった「SK(スーパーキングダイバー)」だ。1970年代から80年代にかけて、さまざまなバリエーションで展開されたSKは、ラウンド型ダイアルを収めたケースの両サイドからブレスレットへと流れるようなラインや、フラットなケース上面に設けられた四隅の固定用ピンなど、ひと目でそれと分かる強烈な個性を備えていた。2019年には復刻モデルも登場し、特徴的な内転リングを含め、その時代ならではのデザインを現代によみがえらせている。
フルッソで最も分かりやすく受け継がれたのが、ケースの造形だろう。上面の四隅にはSKを想起させるくぼみが残され、3時側のケースサイドをフラットとすることで、アシンメトリーなラインを作り出している。ケース上下とブレスレットのコマ形状は新たにデザインされ、より滑らかに連続するフォルムへと改められた。

一方で、ケースに宿るSKの面影に反して、ダイアルは驚くほどシンプルだ。SKを特徴付けていた内転リングは取り払われ、カレンダー表示もない。バーインデックスとペンシル型の時分針を組み合わせた様は、まさにスタンダードな3針時計らしいスタイルだ。12時位置のオリエントロゴもダイアル全体の配色に溶け込ませており、情報量を抑えたことで、ケースが持つ特徴的な造形がより際立つようになった。
さすがオリエントと言うべきか、よりSKらしさを感じたいファン向けに、世界限定4500本のレッドグラデーションモデル「RN-BB0205R」が用意されている。縦方向の型打ち模様を施し、その上にレッドのグラデーションを重ねたダイアルからは、濃い1970年代テイストを感じることができるだろう。
なお、ケースサイズは直径39mm、厚さ10.9mm、縦47mmと、扱いやすいプロポーションにまとめられている。さらに、この価格帯としては珍しく風防にサファイアクリスタルを採用していることもポイントだ。スクリューバックの中央にはオリエントのブランドロゴが刻まれ、限定モデルではさらに限定シリアルナンバーが加えられる。

注目すべきは、滑らかなブレスレット
実機に触れて、とりわけ感心させられたのがステンレススティールブレスレットだ。一体型デザインを名乗る以上、ケースとブレスレットの造形的なつながりはもちろん重要だ。しかし腕時計が手首に装着する道具であることを考えれば、見た目だけではなく装着感の良し悪しにも気を配ることが重要なのである。
ひとつひとつのコマがやや大ぶりなフルッソのブレスレットは、外観だけを見ればスポーティーな印象が強い。ところが実際に手に持ってみると、それを感じさせないほど滑らかに可動する。ケースからブレスレットにかけての連続性を保ちながら、ラグに相当する部分の先端付近から素直に下方向へ落ちるため、ケースサイズの数値以上に手首へ収まりやすい。ケースとブレスレットを一体に見せる時計では、最初のコマが張り出して実質的な全長が長くなってしまうことも珍しくはない。その点、フルッソはうまく処理しているということだろう。

ここで比較したくなるのが、2019年に登場したSKのリバイバルモデルだ。こちらは直径41.7mm、厚さ12.6mmのケースに内転リングを備え、往年のSKが持つ雰囲気を色濃く再現していた。 復刻モデルという性格上、あえて板バネによってコマを連結したブレスレットを採用したことも大きな特徴だ。
対するフルッソは、「リバイバル」ではなく「コンテンポラリー」に属するモデルであり、両者の違いがここに表れている。過去のSKを忠実に再現する必要がないため、オリジナルの制約から離れ、現代の腕時計として必要な装着感や質感を追求できるようになったのだ。SKらしいケース形状は残しながら、現代的なブレスレットへ刷新するという割り切りの中に、フルッソが単なる復刻ではなく“再解釈”であることを感じ取ることができる。
半世紀以上の歴史を持つ46系ムーブメントを搭載
フルッソの内部に収められているのは、自社製自動巻きムーブメントのCal.F6522だ。オリエントの歴史を語るうえで欠かせないのが、その源流となるCal.46系である。46系は1971年に同社の基幹ムーブメントとして誕生し、現在に至るまで長年にわたって改良を受けながら使われ続けてきた。
決して高級機ではないが、手巻きと秒針停止機構を備え、日差+25秒~-15秒と約40時間のパワーリザーブという必要十分なスペックを達成している。何よりも長年にわたってブラッシュアップが繰り返され、信頼性が高められている点も魅力だ。ユーザーの日常を支える実用機に搭載され、タフなダイバーズウォッチをはじめ、ときに過酷な環境で時を刻み続けてきた46系には、複雑機構や職人の手仕上げを加えた高級なムーブメントにはない、道具として進化を重ねてきたストイックさが宿っている。
新たな定番としてのポテンシャルに、期待が高まる
オリエントはその歴史の中で、多くのユニークな時計を世に送り出してきた。カラフルなダイアルや大胆なケース、世界地図を用いたモデル、さらにはカメラやギター、自動車などの意匠を時計へ落とし込んだ「レトロフューチャー」まで、保守的とは正反対の時計たちは、今も多くのファンに愛され続けている。SKもそのひとつだ。内転リングを備えた情報量の多いダイアルや角張ったケース、独特なカラーリングなど、1970年代らしい“野暮ったさ”には、他で代替できない魅力が備わっている。
内転リングとカレンダーを取り払った、バーインデックスを中心としたシンプルなダイアルや、スリムなケースと滑らかなブレスレットを組み合わせたフルッソには、その野暮ったさはない。では、より汎用性高く、万人に使いやすく、日常のさまざまな服装に合わせやすくなったフルッソは、面白みのない時計だろうか? 少なくとも実機を前にすれば、そんなことは思わない。ケース四隅のくぼみやアシンメトリーなケースラインを見れば、SKとの血のつながりは明らかであり、そこには同社が積み重ねてきた歴史がある。
復刻には、オリジナルという明確なお手本がある。一方、過去の意匠を受け継ぎながら新しい時計を作るとなれば、何を残し、何を変えるのかというまた別の難しさが生じる。SKのリバイバルが過去の個性を楽しむための時計だとすれば、フルッソはそのDNAを使って、新しい定番を作ろうとする時計に違いない。
オリエントには、世界的にも高い知名度を持つ「バンビーノ」がある。スポーティーなモデルでは「マコ」が知られている。その両者の中間に位置するデイリーウォッチのジャンルでは、これまでも複数のモデルが存在感を競ってきた。個性を強くすれば使うシーンを選び、汎用性を優先しすぎれば今度は没個性的になってしまうこのジャンルにおいて、フルッソにはバンビーノやマコと並ぶ、新たな定番へと育っていくポテンシャルがあるのではないだろうか。



