1968年に発売されたセイコーの300mダイバーズは、当時世界最高水準のハイビートムーブメントを搭載し、セイコーの評価を世界的なものとした。この1968年のオリジナルモデルをモチーフに、新型ムーブメントを搭載することで高精度化とロングパワーリザーブ化を実現したプロスペックス マリンマスターの「HBF001J」が発表された。今回は、この新作とオリジナルの比較を行い、その進化を検証する。

1968年のモデルをモチーフとし、随所にオリジナルへのリスペクトを感じるが、あらゆる面で進化を遂げたハイスペックなモデル。自動巻き(Cal.8L45)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径42.6mm、厚さ14.1mm)。300m空気潜水用防水。50万6000円(税込み)。
(右)1968ダイバー オリジナルモデル
ワンピースケースによる300m防水機能に加え、10振動/秒のハイビート自動巻きムーブメントを搭載し、高い性能を実現した。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
名畑政治:文
Text by Masaharu Nabata
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年11月号掲載記事]
独自の造形を模索した1968ダイバー、その現代的進化
セイコーは1965年に国産時計初の150m防水ダイバーズウォッチを世に送り出し、日本における潜水時計のパイオニアとなった。このモデルは1966年から1969年にかけて南極地域観測隊の装備品に採用され、その性能が高く評価された。そのモデルから3年後の1968年に発売されたのが、当時、世界最高水準の機械式高振動(10振動/秒)の自動巻きムーブメントを搭載し、300m防水を実現したダイバーズウォッチ。いわゆる1968ダイバーだ。
2000年、1968ダイバーをモチーフに、その精神と意匠を継承し、オリジナルのデザインを再現した限定版の「SBDX003」と、現代的なモディファイを加えたレギュラーモデルの「SBDX001」が発売された。その後、1968ダイバーのデザインを踏襲したモデルは継続生産されたが、今回、新たなムーブメントを搭載したプロスペックス マリンマスターの「HBF001J」が登場した。


手首への干渉を避けた4時位置のリュウズや、側面の稜線を際立たせたケース造形など、外装デザインは従来通り1968ダイバーを継承。ただし、逆回転防止ベゼルのインサートリングはセラミックスとなり、わずかだが数字が拡大され、視認性と耐久性が向上。ステンレススティールのブレスレットは、1段階で約2mmの調整幅を持ち、これが8段階で合計約16mmの幅で調整できる新開発のバックルを装備し、快適なフィット感をもたらしている。
また、文字盤も注目に値する。長年、我が国の南極地域観測隊などに腕時計を寄贈してきた経緯から、南極や北極圏の氷床や氷河を掘削して採取したアイスコア(数万〜数十万年前に降った雪が押し固められた円柱状の氷は、その時代の空気や塵、火山灰などが封じ込められたタイムカプセルだ)をイメージしたダイアルパターンを採用。この微細なシボ模様がインデックスや針を浮き立たせ、視認性を高めている。
従来との最大の違いはムーブメントだ。Cal.8L35からCal.8L45に変更。これにより精度が日差+15秒〜−10秒から日差+10秒〜−5秒に向上した。パワーリザーブは約50時間から約72時間に大幅アップした。


今回、HBF001Jを紹介するためにオリジナルの1968ダイバーをセイコーから借用し、新旧モデルで撮影を行った。新作HBF001Jをオリジナルと比べた場合、オリジナルでは水圧への耐性を高めるために裏蓋のないワンピースケースを採用して300m防水を実現。対して新作では、現代の高度なケース加工技術と防水構造により、メンテナンス性に優れる通常のスクリューバックを採用しながらも同等の300m防水を確保している点に、実用面での大きな進化を見ることができる。

また、ムーブメントについてはオリジナルの1968ダイバーでは当時の世界最高水準であった10振動/秒の自動巻きムーブメントが搭載されていたが、今回のモデルに搭載されたCal.8L45は8振動/秒。振動数は異なるものの、セイコーの現行機械式ムーブメントで最も安定した日差+10秒〜−5秒という精度と約72時間のパワーリザーブを備え、格段にアップデートされている。
およそ60年も前に、世界最高水準の高性能ダイバーズを完成させたセイコーの技術力には感服するが、それ以上に、オリジナルを徹底的に探求し、咀嚼し、進化させ、今再び世界基準を超えるハイスペックなダイバーズを世に送り出した現代のセイコーにおける開発力の高さを改めて評価し、それを誇りに思うのである。



