本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/第5回『wena wristという存在』

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2018.04.23

wena wristの第2世代に当たる「wena wrist pro」。バックル部に新たにディスプレイが取り付けられた。そのため、スマートフォンからの通知を受け取った際に、それがどのアプリの、どういった連絡なのか判別可能だ。またコマの厚みが若干薄くなり、装着性が改善されたほか、防水性能も5気圧防水まで高められ、使い勝手が向上した。オープン価格。㉄wena wrist https://www.sony.jp/smartwatch/

Apple Watchの対極にあるもの

 ソニーが社内ベンチャー育成のために制定した「Seed Acceleration Program(SAP)」で、入社2年目の若者が企画したwenaというプロジェクトは、時計好きならばご存じの方も多いことだろう。

 wenaプロジェクトで提案されたのは、Apple Watchに代表されるディスプレイウォッチとは真逆のコンセプトで開発された「wena wrist」という商品だ。

 一般的なスマートウォッチが、時計を現代の社会基盤や技術基盤にフィットさせ、あるいは未来の技術的な収斂点を予想しながら企画、開発されているのに対して、wena wristは長い年月をかけて進化、世の中に浸透してきた腕時計のカルチャーをそのまま活かしながら、ウェアラブルデバイスの要素を付与するというアイデアを製品化した。

 wena wristでは腕時計本体部分を「ヘッド」と呼んでいるが、いわゆるスマートデバイスとしての機能はヘッドには盛り込まず、すべてバンドに詰め込んでいるのが、伝統的にミニチュアライズが得意なソニーらしい。

 もともと、メカトロニクス……すなわち、メカニズムとエレクトロニクスの組み合わせに(当時はアナログではあったが)独自の信号処理技術を盛り込んで世界を席巻したソニーらしさを、この新しいジャンルに持ち込んだのが1989年生まれの對馬哲平氏だったというのは興味深い。

 彼はスマートフォンの持つ価値を手首に装着するのではなく、スマートフォンによってもたらされた“最も身近に置きたい要素”を3つに絞り込んだ。機能を増やすのではなく、絞り込むというスタイルも、ウォークマンを生み出したソニーらしいではないか。

 彼が選んだ3つの要素とは、“電子マネー”“通知”“活動量計”である。

 電子ウォレット機能は、同じくソニーが基礎技術を開発したFeliCaを用いている。フェリカネットワークスが提供する“おサイフリンク”というアプリを使用し、Bluetooth Low Energy(BLE)を通じて接続したスマートフォンから、電子ウォレットを管理することができるのだ。

 残念ながら、現時点では日本において最も多く使われているFeliCaの応用例(Suica)に対応していないが、楽天Edy(楽天が運営するプリペイド型電子マネー)、iD(NTTドコモの電子決済サービス)、QUICPay(主にクレジットカード会社などが運営する後払いサービス)などに対応しているため、交通機関以外での支払い用途には、比較的幅広い対応ができている。

 さらにふたつ目の要素は、スマートフォンに届く“通知”を、振動で伝えるのみとして、情報の確認や利用者からの積極的な反応はスマートフォンで行うというシンプルな構成。そもそも情報はスマートフォンに集まり、また発信や返信を行う際にもスマートフォンが不可欠なのだから、情報量の多さや具体的な操作はそちらでやればいい。

 3つ目の活動量計とは歩いた歩数などをカウントし、その日1日の行動履歴を視覚化することで健康への意識を高めるための機能で、こちらは説明不要であろう。同様の機能は数年前から多数の製品が搭載しており、Fitbitなどのブランドを生み出してきた。wena wristを使っていれば、専用製品を用いなくても1日の活動量を計測できる。

 このように腕時計をスマート化するのではなく、ウェアラブル製品に求められる3大要素を腕時計に必須となる“バンド”と組み合わせることで、自分好みの“ヘッド”を使い続けながらスマートウォッチ的な体験をもたらしている。

 まさにApple Watchを代表とするディスプレイウォッチとは対極にある製品だが、そのwena wristはレザーバンド内に電子マネー機能のみを内蔵させたwena wrist leatherと同時に、オリジナルモデルの第2世代となる「wena wrist pro」を2017年12月に発表した。wena wrist proは先代よりも大幅に完成度を上げてきたばかりか、本来のコンセプトをより磨き込み、ディスプレイウォッチにはない価値を求めて理想に近づいている。