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本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/第6回『wena wristはマジョリティとなり得るか』(2/2)

バックル部にディスプレイを取り付けた「wena wrist pro」。薄型化や防水性能のアップなど、先代の使い勝手を改善した“正統進化品”だ。筆者いわく、wena wristは今後もこの方向性での進化に期待が持てるが、課題はその先にある。いずれディスプレイウォッチが腕時計のマジョリティとなったとき、wena wristは存在感を放つために、新たな進化の方向を見つけなくてはいけないだろう。

マジョリティを捉えるために

 現在、腕時計業界全体では(急激に勢力が伸びているとはいえ)傍流のディスプレイウォッチだが、いずれはマジョリティとなり得る。

 消費者の視点では、その時、自分の好みやライフスタイルに応じて好きなものを使えばいいのだが、腕時計あるいはその周辺でビジネスをしているメーカーは、傍流のディスプレイウォッチが主流になってきたことを常に想定しながら、メガトレンドを捉え、自分たちの価値が何か足元を見るべきであろう。

 例え話ばかりで恐縮だが、時計とともに個人向け精密機器の代表格であったカメラ。中でも高級品のレンズ交換式カメラは、フィルムからイメージセンサーへの過渡的なイノベーションの後、光学ファインダーレスのカメラ(いわゆるミラーレス一眼)が台頭し始めた。

 10年ほど前、カメラメーカーの中には「光学ファインダーがある限り、参入障壁は高くあり続け、電子ビューファインダーが光学ファインダーを超えることはないため、業界地図は大きく変化しない」と考えるものが多かった。

 しかし、そうした中で現在、光学ファインダーよりも優れた面を数多く持つ電子ビューファインダーが生まれ、その結果、業界地図は大きく変化し、今も変わり続け、老舗と言われるメーカーは苦しみ、あえいでいる。

 さて、ほとんど腕時計に関する話が出てこない今回のコラムだが、その主題は前回に引き続き、ソニーのSAP(Seed Acceleration Program)という新規事業創出プログラムが生み出したwenaというブランド、wena wristという製品に関する話である。

“これまでの歴史が生み出してきた”腕時計の文化を尊重しながら、そこに生活を豊かにする電子的なウェアラブルデバイスとしての価値を加えるというコンセプトは、現時点ではすべての腕時計ファンを満足させられるほど成熟はしていないものの、まだまだ伸び代がある。小型化や高性能化、バッテリー性能などさまざまな面で、進化の余地は残されているからだ。

 しかし、同時進行的に腕時計という商品ジャンルを見る世の中の視線、市場環境も変化している。ディスプレイウォッチがいずれ主流となる中で、wena wristが現在と同じ価値観のまま進化しているだけであれば、きっとその存在感を失っていくだろう。一定数のファンを捉え続けるだろうが、マジョリティを捉える製品とはなりにくい。

 それを潔しとするのか、それとも新たな領域へと踏み出せるかは、wenaのプロジェクトが、精密機器メーカーであり、エレクトロニクス製品、クラウドなどから遠い位置にある既存の(しかし多くのノウハウや価値を内包する)ほとんどの腕時計メーカーに対して、共に前へと進むための提案ができるか否かにかかっているのではないだろうか。

 それはバンドと腕時計本体のジョイントを簡素化するなどの領域だけではない。腕時計本体とウェアラブルデバイスであるwena wristが“つながる”手段を持つようになれば、新たな進化の方向を見つけることができるのではないか。

 まだ時間はかかるかもしれないが、IoT(Internet of Things)という言葉が生まれて、もはや数年が経過しようとしている。ディスプレイウォッチと異なる進化の方向を示せるかどうか。それこそwenaが第3世代へと向かう上での課題となっていくだろう。

本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。

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