【インタビュー】ブルガリ グループCEO "ジャン-クリストフ・ババン(Jean- Christophe Babin)"

FEATURE本誌記事
2019.08.26
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

使える薄型時計に未来を見いだしたブルガリの野心作

ジャン-クリストフ・ババン

1959年、フランス生まれ。
ブルガリ グループCEO。
ビジネススクールでMBAを取得後、P&G、コンサルティング会社などを経て、タグ・ホイヤーCEOに就任。卓越した手腕で、業界4位にまで成長させた。2013年には現職に就任。内外装の質感向上と明確なメッセージの打ち出しにより、ブルガリを再び成長軌道に乗せた。

 ここ数年、ブルガリは急速に薄型時計にフォーカスしている。しかし、まさか薄型自動巻きクロノグラフを作るとは、誰が予想しただろう。
「クロノグラフの歴史を考えると、1969年のエル・プリメロは革新的でしたね。私たちブルガリもヴェロチッシモで、このムーブメントをベースに採用しました。自動巻きクロノグラフの基礎を作ったのはエル・プリメロ、精度でイノベーションを行ったのはタグ・ホイヤーですね。1000分の1秒を計測できるクロノグラフを開発しました。エル・プリメロはいまだにクロノグラフのターニングポイントです」

 ジャン-クリストフ・ババンは、自らの歩みを振り返るように話し始めた。しかし、と彼は語る。「機械式クロノグラフというのは、頑強で正確ですが、ケースは厚かった。エレガントな服装に合わなかったのですね。私は、機械式クロノグラフをデイリーウォッチにしたかったのです」。オクト フィニッシモにリピーターを加えた際も、彼は日常使いできることを強調していた。

「そのために、クロノグラフを再構築しようと考えました。つまりは機構的な要素を維持したまま、技術的な美しさと控えめさを両立したクロノグラフを作ろうと思ったのです。もっとも、機能性は重要なので、文字盤はピュアウォッチというよりも、リッチに仕立てました。ムーブメントのベースはペリフェラルローターの自動巻き。ですが、ほとんどの部品は新規設計です。プロトタイプを作り、検証して組み立てる。部品を限られた場所に入れるのは、想像以上に困難でしたね」。面白いのは、あえてGMT機能を加えた点だ。9時位置のボタンを押すと、時針は単独で動く。「クロノグラフとは時を計るもの。それは忘れてはならないと思っています。確かにモバイルフォンを使えばデュアルタイムは分かる。でもそれを言い訳にすることなく、機械式クロノグラフでスマートに時間を示したかった。GMTがすぐ分かり、簡単にセットできることは、ユーザーにとっては有意義でしょう」。よほどの自信だが、確かにこのモデルは、それだけの価値はある。「これはブルガリ初の自社製自動巻きクロノグラフであり、機構的には一切妥協していません。今後、ひょっとしたら、エル・フィニッシモになるかもしれませんね。例えば50年後、クロノグラフの歴史はフィニッシモ以前と以降に分かれるのではないか。個人的にはそうあってほしいですね」

 薄さを言い訳にせず、非凡な実用性を盛り込んだブルガリの薄型自動巻きクロノグラフ。ブルガリの薄型時計は今後、歴史に残る存在となるかもしれぬ。

オクト フィニッシモ セラミック

ブルガリ オクト フィニッシモ セラミック
クロノグラフと同様に「使える薄型時計」を標榜するブルガリらしい新作。ブレスレットとケースはセラミックス製に改められたほか、針とインデックスはルテニウムコーティングに変更され、視認性の高さも魅力だ。自動巻き(Cal.BVL 138)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間、セラミックス(直径40mm、厚さ5.5mm)。3気圧防水。171万円。


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