【インタビュー】レッセンス創業者 "ベノワ・ミンティエンス(Benoit Mintiens)"

FEATURE本誌記事
2019.09.14
三田村優:写真 Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

時計というのはさまざまな要素に満ちた魅力的なプロダクトだ

 レッセンスを創業したベノワ・ミンティエンスは、時計とは異なる分野でデザイナーを務めていたが、思い立って、機械式時計の設計・製造に身を投じることになった。デザイナーが時計メーカーを起こした例は決して少なくない。

ベノワ・ミンティエンス

1972年、ベルギー生まれ。
レッセンス創業者。98年にアントワープのデザイン学校を卒業した後、エントヴェン&アソシエイツでシニアコンサルタントに就任。在籍中は、高速列車、航空機のキャビン、医療機器、狩猟用のライフルのデザインなどを手掛ける。2004年頃、オリジナルウォッチの製作に取り組むも断念。09年にはレッセンスに受け継がれる、回転ディスクで時間を表示するユニークな時計のデザインを完成させる。

「もともとデザインコンサルタントをやっていましたが、仕事を続けるうちに、時計の重要さと価値に気がついたのです。造形は3Dで、審美的・機能的な要素も持っている。加えて、いろいろな在り方が存在する。例えば、時計に使われるネジ。たかがネジだけれども、安く作るのか、高く作るのか、強く作るのか、さまざまな選択肢がある。その全体性を面白いと感じましたね」

 時計に興味を抱いたミンティエンスは、続いて、どんな時計を作ろうかと考えた。「精度を改善するというアプローチもありますね。しかし、私は時計そのものを改善したい、と考えたのです。つまり多くの人が忘れている視認性ですね。それがレッセンスにディスク表示を与えた理由です。人間は、常にひとつのモノしか見られない。針が動いていると、そればかりにフォーカスして読みづらくなる。であれば、視認性を改善するため、すべてをディスク表示にすればいい」。乱暴だが、筋は通っている。彼の話はさらに広がりを見せる。

 「昔はMS-DOSを使っていましたよね。ですが、今はiPadで何でもできる。新作のタイプ2もそうですね。ひとつの指だけで操作できます。時計も進化しないと」

 そこまで明確な哲学を持っているなら、なぜレッセンスを率いるミンティエンスはデジタルを選ばなかったのか? 彼の考えていることは、デジタルならば容易に実現できたのではないか?「デジタルには感情がないんですよ。だから選ばなかった」。しかし、歴代レッセンスのモデルは、一見シンプルだが、実はかなり複雑な構造を持っている。デジタルを選んだ方が、作りやすかったのではないか?
「何の経験もなかったから、最初は失敗しましたよ。ディスク表示を作ってくれるサプライヤーを探しましたが、どこも引き受けてくれなかった。その後、初の時計をどうにか作り上げましたが、フェデックスで客の元に送っただけで壊れてしまった。しかし、私たちは20年の経験を積みました。修理のたびに、そしてモデルを出すたびにアップグレードしていくわけです。重要なのは誠実であること。誠実でありさえすれば、ブランドは続くと確信しています」

 時計の見方だけでなく、物言いも極めてユニークなミンティエンス。そんな彼の作るレッセンスは、言うまでもなく面白いし、その信頼性も今やまったく問題ない。食わず嫌いの方は、ぜひ一度お試しあれ。

レッセンス Type 2G

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