奥深きダイヤモンドウォッチの世界

FEATURE本誌記事
2021.01.30

“DIAMONDS on THE FRONT”

 文字盤を覆い尽くすほどにダイヤモンドを施したあふれるほどの輝きは、ダイヤモンドウォッチの最高峰と言えるだろう。ジュエリーのような輝きを求めてデザインの一部としてダイヤモンドを時計に採り入れる一方で、時計の主役であるスケルトンムーブメントの造形美を引き立てる陰の立役者としてもダイヤモンドは光を放つ。文字盤全面を彩るダイヤモンドセッティングをかなえたのは、時計と宝飾との融合を目指した職人の妙技にほかならない。

ボーイフレンド アーティー ダイヤモンド

シャネル「ボーイフレンド アーティー ダイヤモンド」
ボーイフレンドの時計を女性が借りるという、本特集にふさわしいコンセプト。特徴的な八角形のベゼルと文字盤に合計174個のダイヤモンドがセッティングされている。ダイヤモンドセッティングに10日以上の日数がかけられるという職人の技術が込められた1本。手巻き。パワーリザーブ約42時間。18KWG(縦37×横28.6mm)。3気圧防水。ダイヤモンド(合計約5.81ct)。世界限定18本。2502万5000円(参考価格)

 文字盤を華やかに飾る、ふたつのダイヤモンドウォッチを紹介する。ひとつは近年、ジュエラーとしても目覚ましい活躍を見せるシャネル。他方は、時計とジュエリー製作を両輪として注力してきたピアジェだ。かたや宝石でデザインを完成させることに特化し、かたや象徴的な超薄型ムーブメントとの絶妙なコンビネーションを果たした。いかにもそれぞれの持ち味を活かした作品である。

 シャネルの文字盤に敷き詰められるのはバゲットカットを基調にしたステップカットのダイヤモンドだ。ダイヤモンドを地金の枠で留めていく手法だが、ここでシャネルが同社において初めて使用したというのが〝ハンマーセッティング〞である。ゴールドを叩いて延ばしていくハンマリングの彫金技術は1980〜90年代に流行したが、文字通りハンマー、すなわち金づちをセッティングの道具として用いている。バゲットカットダイヤモンドといえば、後に紹介する外側から枠を叩き込むレールセッティングや、ダイヤモンドのガードル下部を表面からは見えない下枠で押さえるインビジブルセッティングが主流だが、このハンマーセッティングにおいては宝石を挟んだゴールドを上から電動ハンマーを用いて叩き込む。それによりダイヤモンドはしっかりと固定されるという、比較的強度の高さも望めるセッティングでもある。かつこの「ボーイフレンド アーティー ダイヤモンド」の主題は、直線的なラインを主役とする〝アールデコの再解釈〞だ。ハンマーセッティングにより文字盤上で非常に安定しつつ、グラフィカルなラインを強調することにも成功した。デザインの妙をダイヤモンドセッティングでより効果的に見せた好例と言えるだろう。

アルティプラノウォッチ

ピアジェ「アルティプラノウォッチ」
マイクロローターを採用したオートマティックスケルトンモデル。2012年に登場したCal.1200Sを改良し、ダイヤモンドをセッティングしたCal.1200Dを搭載。厚さ2.35mmのムーブメントが備える地板や受けに合計259個のブリリアントカットダイヤモンドを配し、外周にはカボションカットのブラックサファイア11個(合計約0.17ct)を施す。自動巻き(Cal.1200D)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約44時間。18KWG(直径40mm)。3気圧防水。ダイヤモンド(合計約6.35ct)。1840万円。

 他方、スケルトンを主役にお家芸を披露したのがピアジェだ。写真はベゼルのバゲットカットダイヤモンドに加え、ムーブメントの地板にもブリリアントカットダイヤモンドを配したハイエンドモデルである。50年代から極薄時計の歴史を歩んできたピアジェにとって、スケルトンムーブメントへのセッティングは課題のひとつでもあった。ピアジェは2010年より、それまでダイヤモンドセッティングが不可能とされていた地板を、ゴールド素材に変更することで初めて極薄スケルトンムーブメントのダイヤモンドセッティングに成功した。素材の変更に伴い、部品の変形やひずみを引き起こさないようにする非常に精緻な技術を要する時計でもあり、ねじ頭に至るまで細部の美観を追求してきた技巧の結晶とも言えるのが、まさにこのピアジェ アルティプラノなのである。