知られざる 時計大国 ドイツ(後編)

FEATURE本誌記事
2019.11.05

スイスに比べると、時計メーカーがごくわずかしかないような印象のあるドイツ。しかし実際は、ドイツ全土にわたって、大小さまざまなメーカーが存在する。本特集では、数多くのブランドの中から厳選したブランドを紹介する。

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch (P127, P130)
マルクス・クリューガー:写真 Photographs by Marcus Krüger (P127, P130)
市川章子:翻訳 Translation by Akiko Ichikawa
[クロノス日本版 2016年5月号初出]

Dresden(ドレスデン)

LANG & HEYNE〈ラング&ハイネ〉

創立年:2001年
所有者:マルコ・ラング
価格帯:1万8000~14万ユーロ(250万~2350万円)
年産本数:約50 本
主要モデル: フリードリヒ・アウグストⅠ世、ヨハン、モリッツ、コンラート、アルベルト、ハインリヒ
正式名称: Uhrenmanufaktur Lang & Heyne GmbH
本社所在地: Weissenberger Str. 10,D-01324 Dresden
ウェブサイト: https://www.lang-und-heyne.de/

ハインリヒ

ハインリヒ
リファレンスナンバー:Markgraf Heinrich
機能:コンスタントフォース(動力制御機構)、ジャンピングセコンド、日付表示(センターポインターデイト針、31日から1日へジャンプするアンテログラーデ)、パワーリザーブ表示
ムーブメント:Cal.Ⅴ(自社製、手巻き)
ケース:18Kピンクゴールド、直径40mm
価格:804万6000円
【沿革】 今世紀になってから創設された若いブランドながら、時計製作に関しては5世代続く時計師家系の実力派。ドレスデンの数学物理サロンや、A.ランゲ&ゾーネで数多くのヒストリカルピースの修復および時計師の育成を行ってきたロルフ・ラングの薫陶を受けた息子のマルコ・ラングが、父の下で研鑽を積んだミルコ・ハイネとともにブランドをスタート。現在はミルコ・ハイネの手は離れているが、少人数のスタッフと共に、伝統的な手作業の技をもって、高性能の精密な腕時計作りを追求している。その作風は、エルベ河畔のフィレンツェと謳われたドレスデンの華やかな宮廷文化の香気が感じられるクラシックな気品あふれるスタイル。外観だけでなく、ムーブメントにも雅な手法を採り入れている。ケース素材は貴金属のみを使用し、部品の90%以上が極めて家庭的なムードの工房で、ひとつひとつ丁寧に手作りされている。100年経過しても愛着を持てることを目指した少数生産の逸品は、まさにハンドメイドならではの醍醐味がある。

Contact info: TANAKA久屋大通店 ☎052-951-1600


Heimbuchenthal(ハイムブーヘンタール)

RAINER BRAND〈ライナー・ブラント〉

創立年:1993年
所有者:ライナー・ブラント
価格帯:2700〜5500ユーロ(36万〜42万円)
年産本数:500~600本
主要モデル:グランドパナマ、アーガス
正式名称:Rainer Brand
本社所在地:Frieden Str. 9, D-63872 Heimbuchenthal bei Aschaffenburg
ウェブサイト:https://www.rainerbrand.de/en/

グランドパナマ

グランドパナマ
リファレンスナンバー:RB13GKSA1
機能:日付表示
ムーブメント:ETA2892A2ベース(自動巻き)
ケース:ステンレススティール、直径40mm
価格:42万円
【沿革】 工房があるのはドイツ南部のフランケン地方。時計産業ではなくワインの生産で有名な辺りに構えた家族経営の小さな工房だが、オーナーのライナー・ブラントは、クロノスイスの工場長を務めた経歴を持つマイスター時計師。エタブリスールメーカーとして、腕時計を「単なるアクセサリーにとどまらない、身に着ける人の人生観が表れるもの」と捉えている。独立当初から少数生産で几帳面な時計作りを行い、1990年代末にはスイス製デッドストックムーブメントを搭載したモデルも手掛けていた。レマニアのスウォッチ グループ傘下参入をきっかけに、“コンツェルン・フリー”のムーブメントを模索し、現在はテクノタイム製ムーブメントをベースにしたものを中心に活用。ファッションを選ばないシンプルなモデルに強く、ロングパワーリザーブなどの使い勝手の良さも併せ持つ。

Contact info: イクスピアリ ☎047-305-2551


Engelsbrand(エンゲルスブラント)

STOWA 〈ストーヴァ〉

創立年:1927年
所有者:ヨルク・シャウアー
価格帯:640~9500ユーロ(14万〜58万円)
年産本数:約5000本
主要モデル:フリーガー、アンテア、マリーン
正式名称:Stowa GmbH & Co. KG
本社所在地:Gewerbepark 16, D-75331 Engelsbrand
ウェブサイト:https://www.stowa.de/

フリーガー クラシック スポーツ ロゴ

フリーガー クラシック スポーツ ロゴ
リファレンスナンバー:FliegerKlassikSportLogo
ムーブメント:ETA2824-2(トップバージョン、自動巻き)
ケース:ステンレススティール、直径43mm
価格:23万円
アンテア 390 オートマティック

アンテア 390 オートマティック
リファレンスナンバー:Antea390
機能:日付表示
ムーブメント:ETA2824-2(トップバージョン、自動巻き)
ケース:ステンレススティール、直径39mm
価格:17万円

【沿革】 ブランド名は、創設者ヴァルター・シュトルツ(Walter Storz)の名前に由来する。1927年に懐中時計と腕時計の製造をホルンベルクに開始。1938年に工場をプフォルツハイムに移設した際に、現在のブランド名が確立した。第2次世界大戦中は、ドイツ軍に納入するパイロットウォッチの生産をメインに操業していたが、爆撃を受け、工場が破壊される。戦後は西ドイツ地域のため、事業主の変更があったもののブランドは再建され、日常使いに便利なリーズナブルな腕時計のほか、女性向けのドレスウォッチなども手掛けていた。その後も経営権が移転し、低迷期もあったが、2000年代に入り、熟練彫金師であり、自らを「ウォッチビルダー」と称するヨルク・シャウアーがオーナーとして登場。2004年から新たなスタートを切っている。ブランドのモットーは、「清く、正しく、美しく」。手作業を通して、創立からの伝統である公正な仕事を旨とし、ホームグラウンドである黒い森地方の人間の人柄がにじみ出た、実直で意志の強さが表れた製品作りを行っている。その正確さと機能美は、メイド・イン・ジャーマニーそのもの。パイロットウォッチを引き継いだデザインは、実用に凝り固まらず、スタイリッシュにまとめられている。

Contact info: チックタック恵比寿アトレ店 ☎03-5475-8413