伝統を革新するブレゲ2世紀半の到達点 ブレゲをブレゲたらしめるウォッチメイキング

FEATURE本誌記事
2019.12.03

GUILLOCHÉ DIAL

ブレゲの最もよく知られた装飾技法で、現代の時計全般に多大な影響力を残すものといえば、間違いなくギヨシェ彫りである。ギヨシェ彫り機を手で操作しながら繊細な模様を刻む独特の装飾も、アブラアン-ルイ・ブレゲの時代から受け継がれるものだが、現代のブレゲは、ギヨシェ彫りに精通するスペシャリストとして斬新な模様にも果敢に挑み、サヴォアフェールに一段と磨きをかけている。

ヘリテージ 5400

ヘリテージ 5400
1920年代に作られたブレゲのトノー型腕時計から着想を得たこのクロノグラフは、立体感を強調したダイアルに手作業で施された多様なギヨシェの模様が強烈なインパクトを放つ。自動巻きムーブメントCal.550/1はシリコン製ヒゲゼンマイを採用。47石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約52時間。18KRG(縦42×横35mm)。3気圧防水。466万円。
グラシエ・シルキュレール

立体的なローマ数字の間に施された波模様は、整然とした古典的幾何学模様とはまったく異なる斬新な技法を駆使。「円形の氷河」と名付けられ、不規則な曲線が積層する模様は、文字通り氷河が押し寄せる躍動感を喚起。
フランケ・オルタネ

丸く縁取られたダイアル中心部の内側は、同心円の曲線を扇状に相対して彫り込むフランケ・オルタネが用いられる。交互に錯綜する曲線は、光が当たる角度によって多様な表情を作り出し、うねるような立体感を生み出す。
グラシエ・シルキュレール

クロノグラフの30分積算計にもグラシエ・シルキュレールの模様が用いられているが、ダイアル外周に施されたものよりも円を成す波模様は小さく、さらにはS字に蛇行するという、一段と凝ったデザインになっている。
ソレイユ・ラディアント

スモールセコンドのギヨシェ彫りは、太陽光線が中心部から放たれるイメージのソレイユ・ラディアントを採用。中心から外に向かって徐々に太くなり、彫りの深さが増すという難度の高い技法も伝統的なソレイユを超える。

 スイス、ジュウ渓谷を拠点とするブレゲ・マニュファクチュールにはギヨシェ彫り専門のアトリエが設けられている。古い時代の歴史的なギヨシェ彫り機と現代に製造されたギヨシェ彫り機が30台以上あり、専門の職人がダイアルの装飾に取り組む一方で、若手への技術指導も行っている。これほど徹底して取り組む時計メーカーは他にないだろう。ギヨシェ彫りというメティエダールは、ブレゲのサヴォアフェールの中でそれほど重要な位置を占めているのである。

 もともと金属ダイアルの反射を抑制したり、各種の表示を区別したりする一種の機能的な装飾として考案されたギヨシェ彫りだが、さらに進んで美しい芸術的な模様を開拓しているところも、たゆみない革新こそが伝統と考えるブレゲの真骨頂と言えるだろう。 例えば、トノー型クロノグラフの「ヘリテージ 5400」は、ひとつのダイアルにいくつもの異なる模様が複雑に彫り込まれ、その精緻な躍動感たるや圧巻である。押し寄せる氷河のようなグラシエ・シルキュレールや曲線が交互に弧を描くフランケ・オルタネといった模様は、伝統的な職人技のギヨシェ彫りを超えた現代アートの作品と呼んでもいいだろう。それでいて、違和感なく正真正銘のブレゲと思わせるのだから絶妙だ。

ダイアルは、湾曲したトノー型ケースのフォルムに合わせ、1枚のゴールド製プレートから作られるため、盤面全体はカーブしており、丸く縁取られた中央部が平坦という極めて複雑な構造をしている。そこに各種の模様をギヨシェ彫り用の手動旋盤を手作業で慎重に操作しながら刻み込んでいく。わずかなミスも許されない、極度に緊張を強いられる作業だ。そうした高度な熟練職人が社内で多数活躍しているのがブレゲの強みだ。

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