時計に磁気は大敵。磁気帯び症状と対処法について知ろう

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2020.03.14

腕時計のトラブルの原因として大きいのが磁気帯びだ。磁気帯びは磁化や帯磁とも呼ばれ、腕時計の時刻表示の精度を落としたり内部破損を招いたりするリスクがある状態のことだ。磁気に関連する磁力、磁場などの意味の違いや、腕時計が磁気帯びする原因について見ていこう。磁気抜きをする必要性や方法についても紹介する。

腕時計はケースからムーブメント内のさまざまな部品まで、その多くが磁気を帯びやすい金属で作られているため、磁気帯びによるトラブルが発生しやすい。


磁気帯びについて知ろう

近年の高級腕時計が「磁気帯び」する可能性はそれほど高くないが、アンティーク時計は磁気帯びしやすく、内部破損などの深刻なダメージにつながるリスクがある。

まずは磁気帯びとは何か、機械式時計とクォーツ式時計によって異なる磁気帯びの影響について見ていこう。

磁気帯びとは

磁石を鉄に接触させると、鉄が磁石の性質を持ち、磁石を離した後も、しばらく磁石の性質を維持する。この磁石が持つ力を「磁力」といい、金属を引き付ける性質を「磁気」、磁力のある空間を「磁場(磁界)」という。

金属が磁場の影響により磁石として振る舞う状態が「磁気帯び(磁化)」だ。ムーブメントの部品の多くは磁気を帯びやすい「強磁性体」の金属を使っており、磁気帯びした腕時計は脱進機の働きが阻害され、精度が狂いやすくなる。

時計の種類による影響の違い

近年の機械式ムーブメントは、多くの部品が磁気を帯びない真鍮やプラスチックなどを用いており、磁気帯びの可能性は低い。

特に磁気帯びの影響を受けやすいのが、主ゼンマイとインバーやエンリバー合金が使われるひげゼンマイだ。これらが磁場に触れると、動力のコントロールが阻害されやすくなり、運針が早まったり遅くなったりする。

一方、クォーツ式ムーブメントは、クォーツ発振器が正確なペースで駆動コイルに電流を送り、ステーターを電磁石にしてローターを振り子運動させる。

このため、クォーツ式腕時計は多少の磁気帯びでは影響を受けないが、駆動コイル以上の磁力を持つ強力な磁場が近くにあると、ローターが動かなくなったりペースが乱れたりして時計の精度が狂うことになる。


磁気を発する製品と磁気帯びの症状

このように磁気帯びは時刻表示の精度を狂わせる原因になるが、磁気や磁界は目に見えない。

ここでは、どのような製品が腕時計を磁気帯びさせやすく、駆動方式によって症状がどのように異なるのかを解説しよう。個人でできる磁気帯びの調べ方についても紹介する。

磁気を発する製品

現代社会では身の回りにあるさまざまなものが磁気を発している。スマートフォンやタブレット端末はその一例だ。磁気の強さは距離の2乗に反比例して弱くなり、JISで定めた磁気の影響に耐えられる基準を満たしていれば、5cm以上離れるとほとんど影響を受けない。

しかし、強力な電磁石で永久磁石を直接振動させる「スマートフォンのスピーカー」は、腕時計の近くで作動する可能性が高いため注意したい。

「強力な磁石」を留め具に使っている鞄や財布、タブレット端末のカバーなども、腕時計には近付けないようにしよう。

このほか5cm以上離れていても影響を受ける強力な磁場を発生するものとして、「IHヒーター」などの電磁調理器具がある。

スマートフォンのスピーカー部をはじめとして、日常生活は多くの磁気を帯びした製品に囲まれている。磁気帯びを防ぐためには、これらに腕時計を近づけないことが大切だ。

磁気帯びの症状

磁気帯びした機械式時計は、ヒゲゼンマイと連動するテンプの動作が常に不安定な状態になり、それが時計の遅れや進みにつながる。

アナログクォーツ式時計は、機械式時計に比べて圧倒的に時間の進みや遅れが出にくいが、磁気の影響としてよくあるのが、ステーターのS極とN極の切り替えができなくなり、一時的に時計が止まるケースだ。

デジタルクォーツ式時計は、ゼンマイやモーターを持たないため、時刻表示への影響は起こらない。ただし、方位計測機能を搭載したモデルでは、正しい方位を示さなくなる可能性がある。

磁気帯びの調べ方

個人でできる磁気帯びの簡単な調べ方は、方位磁針を使うことだ。磁気帯びした腕時計は磁石の性質を持つため、腕時計の精度に影響を及ぼすほどの磁気帯びであれば、方位磁針を近付けるとなんらかの反応を示す。

ただし、これはあくまで簡便な診断方法だ。詳細に磁気帯びを調べるには、メーカーや専門業者に依頼してムーブメントを分解し、部品ひとつひとつの磁力を計測する必要がある。

時計の専門店では、磁気チェッカーを使って、腕時計の磁気帯びをチェックしてくれる。個人では方位磁針を近づけるといった方法もある。腕時計が磁気帯びしている場合、方位磁針を注意して見ていると針が動くので分かる。


磁気抜きについて知ろう

腕時計の駆動方式によって磁気帯びしたときの症状は異なるが、磁化しやすい部品を多く使ったアンティーク時計ではさらに深刻な影響が出る。

大切な時計を磁気帯びの影響から守るために、「磁気抜き」をする方法について見ていこう。

磁気抜きとは

磁気帯びして精度が悪くなった腕時計は、磁気を持たない状態にする必要がある。磁化した部品にもよるが、強い磁気を帯びてしまった場合やヒゲゼンマイなど内部の部品まで磁気を帯びた場合は、磁気が長期間残る場合があるため、なんらかの方法で磁気を抜く必要がある。

この作業を「磁気抜き」あるいは「脱磁」という。磁気は目に見えないため、まずは残留磁気測定器を用いて診断することが必要だ。

磁気抜き器で対応

個人で磁気抜きをする方法として、市販の「磁気抜き器」がある。これは「消磁器」や「脱磁器」ともいい、安価な手持ちタイプから業務用の据え置きタイプまでさまざまだ。

使い方は脱磁器にもよるが、基本的には、磁気抜き器と腕時計を接触させてスイッチを入れるだけで脱磁できる。ただし、残留磁気の測定はできないので方位磁針を近づけるなどして、残留磁気を調べるといいだろう。

業者に磁気抜きを依頼

大切な腕時計を確実に脱磁するためには、メーカーか専門業者に依頼することをおすすめする。

保証書のない中古品なら時計修理の専門店に依頼するのも選択肢だが、保証書を持っているならメーカーに依頼するのが安心だ。

脱磁器を使って腕時計の磁気を抜くところ。使い方を誤ると逆に帯磁するので注意が必要。磁気抜き(脱磁)とは、多くの時計専門店が対応してくれる。
【ぜんまい知恵袋】帯磁した時計はどうすればいいですか?
https://www.webchronos.net/features/32837/


磁気から大切な時計を守ろう

磁化した時計は時間表示の精度が狂い、磁気抜きしなければ本来の性能が発揮できない。

強力な磁石を用いたスピーカーを搭載した電子機器や、マグネット式の開閉システムを持つ製品には腕時計を近付けないように心掛けたい。

近年は耐磁性が高い腕時計も多いが、アンティーク時計では歯車の位置がずれるなどして深刻なダメージを受ける可能性がある。

磁気帯びした可能性があるなら、メーカーや時計修理店に依頼して磁気抜きを行おう。


川部憲 Text by Ken Kawabe


現代社会においてなぜ耐磁性が必要なのか?高耐磁時計も紹介
https://www.webchronos.net/features/15510/
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