タグ・ホイヤーにおける重要なクロノグラフ7選:1887年~2016年

FEATUREWatchTime
2020.02.19

2019年に50周年を迎えたタグ・ホイヤーのモナコ。クロノグラフの第一人者であるタグ・ホイヤーにとって、この年はブランドのアイコニックモデルを祝うだけでなく、クロノグラフの軌跡を振り返るためにも重要な節目であった。タグ・ホイヤーのクロノグラフ搭載モデルが初めてブランドのカタログに掲載されたのは1882年のことだ。それ以降、技術革新を重ね続け、今日まで至っている。今回はタグ・ホイヤーのクロノグラフの歴史から、重要な7モデルを紹介しよう。

Originally published on watchtime.com
Text by Gisbert Brunner

1.振動ピニオン(1887年)

 ホイヤーの創業者、エドワード・ホイヤーの目標は、精度や信頼性に影響を与えることなく、クロノグラフを技術的にシンプルかつより低価格に作ることであった。水平クラッチが標準的なクロノグラフ機能であった19世紀、ホイヤーはクロノグラフをムーブメントにつなげるのによりシンプルな方法を模索していた。1887年5月3日、ホイヤーは「ロッキングピニオン」とも呼ばれる「振動ピニオン」の特許を取得する。これは両端にピニオンを備えた主軸のことだ。片方のピニオンが秒車とかみ合っており、クロノグラフ駆動時にはもう一方がクロノグラフの歯車と連結、そしてクロノグラフ解除の際には、ピニオンがクロノグラフの歯車から離れるものであった。この機構は動作性が非常によく、時計業界の定番となり、現在でもETA 7750をはじめとしたクロノブラフムーブメントに採用されている。

スイングピニオン

エドワード・ホイヤーは振動ピニオンを発明、1887年に特許を取得した。


2.マイクログラフ(1916年)

 1914年、2代目シャルル-オーギュスト・ホイヤーは、会社のこれまでで最も挑戦的なプロジェクトを立ち上げた。時計職人たちに、他のどの時計よりも10倍精度の高いストップウォッチを作るよう依頼したのだ。その数カ月後、完全に機能するプロトタイプが上がってきた。それは3万6000振動/時の振動数を持つものであり、これにより100分の1秒までの計測が可能となった。これはクロノグラフのプッシュボタンを兼ねた大きなリュウズを備える、シンプルなケースの懐中時計として完成した。クロノグラフ針は3秒に1回の高速回転をするもので、12時位置には2分間のカウンターが設けられた。ムーブメントには、耐磁性アンクルとブレゲひげゼンマイのテンプを備える脱進機を搭載。1916年10月2日、ホイヤーはこのクロノグラフ機構の特許を取得した。マイクログラフは100スイスフランで販売され、付属のパンフレットには「低価格にもかかわらず、最高精度で短時間単位の計測が可能」と記された。

マイクログラフ

世界で初めて100分の1秒単位で計測できる機械式ストップウォッチ「マイクログラフ」は1916年に発表された。


3.カレラ(1963年)

 ブランド初の旗艦コレクションとなった時計がカレラだ。創業者エドワード・ホイヤーの曽孫、ホイヤーCEOのジャック・ホイヤーは、この名前を、メキシコで1950年から1954年にかけて行われた、2000マイルを超える驚愕のカレラ・パンアメリカーナレースにちなんで命名した(レースは危険性が高すぎたため一度中断され、1988年に再開している)。その特徴は文字盤に明らかである。文字盤のフランジが外周に向けて45°上がるよう角度がつけられているのだ。これによって文字盤の直径が2mm広がり、読みやすさが向上した。またホイヤーはサブダイアルにくぼみをつけ、視覚的な立体感を与えている。その他にも、テレメーターやタキメーターを省くことで視認性を高めた。

1963年に登場したカレラには、いくつかのバリエーションが存在した。これは12時間積算計付きの3カウンターモデルで、バルジュー72を搭載した。手巻き。17石。1万8000振動/時。SS(直径36mm)。参考商品。


4.モナコ(1969年)

 1969年、最初のクォーツムーブメントが開発され、市場に出ようとしていた。しかし、それがいかに機械式時計へ危機を及ぼすものとなりうるのか、当初は誰も心配していなかった。ホイヤーの4代目ジャック・ホイヤーしかりだ。その頃、手巻き式クロノグラフ腕時計のセールス停滞を背景に、ホイヤーは1965年からブライトリング、ハミルトン-ビューレン、デュボワ・デプラと共に自動巻きクロノグラフ・ムーブメントの開発競争に着手していた。これはキャリバー11と呼ばれ、1969年に量産体制に入った(なお同年は、ゼニス、セイコーからも自動巻きクロノグラフ腕時計が発表されている)。ホイヤーはキャリバー11の開発に、50万スイスフランをかけた。ムーブメントは、防水性を持ったステンレススティール製のスクエアケースに収められた。カーレースのファンであるジャック・ホイヤーは、この時計をモナコF1グランプリに因んで、モナコと命名。限られた広告宣伝費のなかで、同社は低コストでの販促方法を探した。そしてホイヤーはスイスのF1ドライバー、ジョー・シフェールを、モナコの評判を高める著名人として選んだのである(シフェールは1971年にレース中の事故で亡くなっている)。スティーブ・マックイーンは、1971年の映画『栄光のル・マン』の中で、ジョー・シフェールのオリジナルのレース用スーツをモナコと共に着用している。現在、モナコはコレクターズアイテムとなっている。

モナコ

1969年に発表されたモナコ、Ref.1133B。通称「マックイーン」。ニックネームの由来は『栄光のル・マン』で、スティーブ・マックイーンが腕に巻いたため。


5.クロノスプリット マンハッタンGMT(1977年)

 デジタル時間表示は万人向けではない。視力が弱い人にとって、小さな数字が読み取りにくいこともあるからだ。針とインデックスを用いた、アナログ表示の方が視認性は高いと思う人もいる。アナログとデジタルの両方を提供するクロノスプリット マンハッタンGMTは1977年に発表された。ホイヤーはこのモデルを、「一般的なクォーツウォッチ以上のものを求める人に向けた時計」と説明している。ケースはステンレススティール製で、六角形の文字盤の中央から6時側にかけた半分が針を使って時・分・秒を表示し、4時位置にデイト表示を配している。アナログ用のムーブメントは、液晶ディスプレイとは分離して機能する。さまざまな機能を調整するボタンは12時側のケースの縁に備えられた。クロノグラフが作動していても、ユーザーは表示を切り替えて、現在のタイムゾーンを24時間表示で表示することができる(これがモデル名GMTの由来となった)。デイ・デイト表示もデジタル表示が可能だ。

クロノスプリット マンハッタンGMT

クロノスプリット マンハッタンGMTは、アナログの時間表示とデジタル表示のクロノグラフおよび第2時間帯を組み合わせた初のクロノグラフ。


6.マイクロタイマー フライング 1000(2011年)

 高精度機械式クロノグラフの第一人者としての自負を示すため、タグ・ホイヤーは2011年のバーゼルワールドでマイクロタイマー フライング1000を発表した。これはこれまでの機械式時計では不可能だった、1000分の1秒もの時間計測を実現したものである。マイクログラフの100分の1秒同様、このモデルにはふたつの駆動機構があり、それぞれが調速および脱進機構を備えている。クロノグラフの振動数は、驚くべき毎時36万振動(500Hz)だ。採用されているヒゲゼンマイは短く、幅が広く、強靭で、(パルミジャーニ・フルリエも保有する)サンドファミリー財団傘下のアトカルパと共同開発したものである。このヒゲゼンマイは、特別に開発された脱進機と連携して駆動する。ヒゲゼンマイの振動はコラムホイールに制御されたインパルスとブレーキによって開始および停止がなされ、ヒゲゼンマイに直接作用する(この時計にはテンプが搭載されていない)。中央に設けられたクロノグラフ秒針は文字盤を1秒間に10周する。1000分の1秒単位で経過時間を読み取るには、中央に配された長いグリーンのクロノグラフ秒針で示される100分の1秒と1000分の1秒を足し上げる必要がある。10分の1秒はサブダイアルに表示される(このサブダイアル上の針は5秒に1回転する)。クロノグラフのパワーリザーブは、わずか3分半ほどだ。通常の時間表示は、毎時2万8800振動の調速機によって行われる。

マイクロタイマー フライング 1000

マイクロタイマー フライング 1000は、1000分の1秒単位を測定・表示できる世界初の機械式クロノグラフ。


7.タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02トゥールビヨン クロノグラフ(2016年)

 この時計に搭載されるムーブメントは、2014年発表のタグ・ホイヤー自社製クロノグラフムーブメント、キャリバーCH-80に由来する(タグ・ホイヤーではCH-80の発表後すぐに、初の自社ムーブメント、キャリバー1887に注力したいという説明と共に、その生産を一時停止した)。フライングトゥールビヨンを搭載するムーブメントはシングルバレルでC.O.S.C.認定を取得、パワーリザーブは約65時間だ。タグ・ホイヤーではムーブメントの主要パーツを内製し、組み立てをシュヴネで行っている(ヒゲゼンマイはアトカルパ製である)。ケースはモジュール設計となっていて、12パーツで構成される。だが、特筆すべきはムーブメントでもケースでもなく、その価格だ。当時のスイス製トゥールビヨンとしては驚くほど低価格な100万円代であり、同社が手頃な価格帯の実現に対して一貫して注力してきたことをうかがわせた。

カレラ ホイヤー02T

C.O.S.C.認定自動巻クロノグラフとフライングトゥールビヨンを組み合わせたタグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02T トゥールビヨン クロノグラフは、そのコストパフォーマンスに多くの注目を集めた。


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