長時間使えて長距離移動にも便利「オリス ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」は、長きにわたる相棒になる!?

FEATUREWatchTime
2020.06.28

「オリス ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」は、約10日間のパワーリザーブを最新の手巻きムーブメントを搭載し、さらに、1時間差だけではなく、30分のタイムゾーンにも対応する特徴を備えている。その使い勝手や実力を確かめながら、このモデルの魅力に迫ってみたい。

Originally published on watchtime.com
Text by Martina Richter
Edit by Yuzo Takeishi

オリス ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114

オリス「オリス ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」
手巻き(Cal.オリス114)。40石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約10日間。SS(直径44mm)。10気圧防水。68万円(税別)。

 夏にドイツからインドへ移動するとしよう。フライト中、「オリス ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」の太く白い時分針を3時間半──たとえば昼の12時から15時30分に進めるとする。一方で中央ヨーロッパのホームタイムも把握しておきたいので、先端に赤い矢印の付いた黒く細い針を第2時間帯としてCET(中央ヨーロッパ時間)に合わせる。これは、リュウズを一段階引き出し、赤い矢印が付いた針をダイアル外周に記されたスケールの12の位置まで時計回りに操作することで簡単に設定できる。

 そして帰国後、この時差を確認できるようにしたままホームタイムをドイツの現在時刻に戻すとしよう。これを行うには、第2時間帯の針を設定するだけでいい。たとえば、白い時分針がドイツ時間の正午を指しているならば、赤い矢印の付いた針は24時間スケールの15と16の間、つまり15時30分に合わせればいいというわけだ。また、仮にインドが正午であるならば、メインダイアルの時間は中央ヨーロッパの8時30分を指し示していることになる。

 こうした針の組み合わせは、異なるタイムゾーンにいるビジネスパートナーと時刻を共有するうえで便利だ。もちろん1時間単位の表示でも問題はない。しかし、いくつかの時計は30分の時差がある地域の時刻も表示できるようになっている。なかでもよく知られているモデルとして、グラスヒュッテ・オリジナルの「セネタ・コスモポリト」が挙げられるが、その価格設定はレッドゴールドのバージョンで420万円(税別)、ステンレススティール・モデルでも240万円(税別)だ。

 対して、今回のテスト機である「オリス ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」は、クロコダイルストラップ仕様なら68万円(税別)となっており、アームチェアに腰を落ち着けたまま遠い異国の地を夢見続ける……なんていうことも少なくなるはずだ。もちろん、新しいタイムゾーンを設定する際にはいくつかの操作が必要となるが、「ビッグクラウン パイロットウォッチ」のモデル名の元となった“大きなリュウズ”を操作する喜びを考えれば、そんな手間も大きな問題ではないだろう。

このモデルはリュウズが大きくて使いやすいため「ビッグクラウン」のコレクション名が付けられている。ケースは10気圧(100m)防水だ。

 リュウズには刻みを設けているのでねじ込みを解くのが容易なうえに、軽い操作でそれぞれの引き出し位置にアクセスできる。最初のポジションは主ゼンマイの巻き上げで、2段目はデイト変更と先端が赤いGMT針の調整、そして3段目がホワイトの時分針の調整だ。また、リュウズを3段目に引き出すと秒針が停止する機構を備えているため、正確な時刻を簡単に設定できるのも便利だ。この「ビッグクラウン プロパイロット」コレクションのスタイルを特徴づけているのは大きなリュウズだけではない。キャリバー114を内包する44mm径のステンレススティール製ケースには、斜めの溝を刻んだベゼルを組み合わせており、これはジェット機のタービンブレードに着想を得た意匠だという。

 そしてダイアルには太く白い時分針に加え、日中にはブラックダイアルとのコントラストを描き、夜間は青く浮かび上がるアワーマーカーなど、典型的なパイロットウォッチの要素が確認できる。はっきりとしたコントラストはミニッツスケールやダイアル外周の24時間スケールにも見られ、高い判読性を誇っている。多くの24時間インジケーターが小さなサブダイアルのなかで混みあった状態になっていることを考えれば、ここまで読み取りやすいのは珍しいと言えるだろう。

「ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」にはふたつのサブダイアルがある。ひとつは9時位置のスモールセコンド、もうひとつは3時位置にある大きなパワーリザーブ表示だ。このパワーリザーブ表示は、オリスがここ数年発表した5つの自社製キャリバー搭載モデルすべてに組み込まれている。キャリバー110の後継機となるキャリバー111で日付表示が登場。日付表示こそなかったものの、キャリバー110は35年ぶりの登場となるオリスの自社製ムーブメントで、ブランドの創設110周年を祝う2014年に発表された。続くキャリバー111は「ビッグクラウン」に搭載され、12時位置に第二時間帯表示と昼夜表示を備えたキャリバー112は「アートリエ」のみに搭載されている(キャリバー113はフルカレンダーと週表示)。そしてキャリバー114は「ビッグクラウン プロパイロット」に搭載され、30分単位のタイムゾーンに対応した第2時間帯表示を実現したのである。

香箱の直径はムーブメントの半径を超えており、残存パワー表示を含む10日間のパワーリザーブを確保している。

 このモデルは、第2時間帯を表示する多くのタイムピースを開発してきたオリスの歴史おけるハイライトだ。近年のコレクションのなかでよく知られているのは「ビッグクラウン プロパイロット ワールドタイマー」「プロダイバー GMT」、そして限定リリースされた「アートリエ」のGMTモデルだろう。

「ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」のダイアルには第2時間帯表示に加え、240度の円弧を描くパワーリザーブ表示も備わっている。240という角度はとても象徴的だ。というのも、自社製ムーブメントはおよそ10日間、つまり約240時間の動力をひとつの香箱から得ているからだ。とはいえ、特許取得済みのパワーリザーブ表示についた小さな白い針は、1時間で1度、24時間で24度といったように一定の間隔で動くわけではない。よく見てみると、表示の目盛りはパワーリザーブが減少するにつれて開きが大きくなっているのだ。

 これは、インジケーターの針が10(完全に巻き上がった状態)から0まで、一定の速度で動くわけではないということ。オリスが特許を取得した「ノンリニアパワーリザーブインジケーター」である。これによるメリットは、パワーリザーブが残り約4日になると詳細な残量を確認でき、ユーザーが毎日この時計を着けていなくても、いつ巻き上げが必要になるかを伝えてくれることだ。ただし、数日間巻き上げられていない場合(もちろん時計の駆動には全く問題ない)や、長期間着用されていない場合、ゼンマイを完全に巻き上げるのは少々大変だということは伝えておこう。

 一定の速度で稼働しないパワーリザーブ表示の技術には、螺旋状のふたつの歯車が関係している。それぞれが反対方向に回転することでポインターが望みのスピードで運針するというものだ。オリスはÉcole Technique Le Locleと協力し、約10日間のパワーリザーブを表示するカスタムメイドのカムシステムを10年かけて開発した。安定したレートカーブを実現するためには、大きな香箱と小さなテンプの間の動力連携を綿密に計算する必要があったのだ。

 加えて、香箱の断面と長さ1.8mの主ゼンマイの巻き数も正確に一致させる必要があった。製造工程において、オリスは有名なラグジュアリーブランドに製品を供給している20もの独立系パートナーと共同作業を行なっている。キャリバー114は100%スイス製のムーブメントだ。検証の結果、今回のテスト機は振り角が徐々に低下したものの、7からマイナス10秒の間に収まる平均値を示した。ただし、姿勢差による違いは比較的大きかった。

Cal.オリス114

注目すべきテクノロジーを備えた小さな輪列、このカスタムメイドのディファレンシャルギアが、一定速ではないパワーリザーブ表示を司る。

 時計の精度は、パワーリザーブの針がレッドゾーンに入る8日目までは大きな変化を見せていない。だが、オリスが8日目以降のゲージを赤で表示したのは賢明だったと言えるだろう。というのも、ムーブメントは動いているものの、満足のいく数値をはじき出せていないからだ。技術者は単にパワーリザーブ残量を表示するためものではなく、まさに「余力」を見せる機能としたのだ。つまり、時計は動いているが、しかるべき精度では動いていないということである。実際「ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」は、パワーリザーブ表示に記された10日間よりも長く作動し続ける。完全に停止した後で時計を巻き上げると、こうした状況を確認できる。

 最初の数回リュウズを巻き上げただけではパワーリザーブ表示は動かず、その後ようやく動き始めることに困惑することだろう。インジケーターは一見シンプルに見えるが、実際には時計製造の難題を解決したものだ。パワーリザーブ表示のディファレンシャルギアの輪列は、240度角の終わりに達し、時計がまだ動いているたときに針を切り離す必要がある。

 その後、この輪列は手動で巻き上げられるときに再び針と噛み合うのだ。この技術を直接確認することはできないが、シースルーバックからムーブメントを覗くと、そこに通常とは異なる歯が付いたパワーリザーブ表示用のディファレンシャルカムを見ることができる。それらはムーブメントの半径よりも広いスペースを占める香箱の外周に目立たないように配置されている。

 またテンプは比較的小さく、自社設計による緩急装置も確認できる。それは頭に溝がついたネジに囲まれたギアと噛み合う、角度のついたポインターと一緒になっている。テスト機の状況を見ると、オリスは意図的に時計を進みがちに調整しているようで、2017年にキャリバー111をテストした際と同様の傾向が確認できた。オリス社内の専門家たちは、この方法に満足しているようだ。

 結論としては? ベーシックなコンセプトのもとで設計された自社製ムーブメントのバージョン5は、実用的かつ非常に安定した数値をはじき出しており、それは「ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」の着用テストでも同様の結果を見せた。ステンレススティール製ブレスレットでも、テキスタイルやレザーストラップでも装着感は良好。長きにわたって、そして長距離の移動においても信頼できる相棒となることだろう。


Contact info:オリスジャパン Tel.03-6260-6876


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