グランドセイコーがたどり着いた、スプリングドライブの独創性を知る

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2024.01.21

“高性能な高級腕時計”として、優れた精度と信頼性を満たすスプリングドライブは、グランドセイコーの主力機のひとつだ。機械式とクォーツ式のメリットを兼備した、第3のムーブメントの独創性を探るとともに、最新モデルから定番人気モデルに至るまで、搭載ウォッチを紹介しよう。

グランドセイコー スプリングドライブ

2024年1月21日掲載記事


高い技術力を持つグランドセイコー

 セイコーは1969年、世界初の量産型クォーツ式腕時計時計を発売し、1999年には世界初のスプリングドライブ式腕時計を開発の上、製品化した。グランドセイコーでは機械式のほか、このクォーツ式、スプリングドライブ式ムーブメントの3種の駆動方式でコレクションを展開している。

初代スプリングドライブ

1999年12月に発売された初代スプリングドライブ。手巻き式で、Cal.7R68を搭載した。SSケースで価格は25万円、18Kケースでは50万円、後にクレドールから発売されたプラチナケースのモデルは100万円だった(いずれも当時の価格)。

 なお、スプリングドライブは、初代グランドセイコーを製造した諏訪精工舎の時代から続く伝統と情熱を受け継ぐ、長野県塩尻の「信州 時の匠工房」で製造されている。

 スプリングドライブについて言及する前に、グランドセイコーのハイレベルな技術力や、世界展開について見ていこう。

世界と並ぶ国産ブランド

 1960年、グランドセイコーはスイスの高級腕時計に匹敵する高精度を実現した国産ブランドとして、セイコーから誕生した。

 翌年には輸入関税の緩和により海外勢力との競争は激化するが、グランドセイコーは技術力向上によって競争力を高めていく。

 やがて、精度と信頼性を追求した機械式とクォーツ式、さらに第3の駆動方式「スプリングドライブ」ムーブメントを強みに、国内外の市場で売上高を伸ばした。とはいえ、グランドセイコーの使用シーンは、ビジネスユースがメインといった印象であった。

 そんな中、2017年、グランドセイコーはセイコーが擁する他ブランドから独立を果たす。

 グランドセイコーはビジネスシーンで使うウォッチのみならず、ドレスウォッチもスポーツウォッチも手掛ける高級腕時計ブランドとして生まれ変わり、誕生から60周年を迎えた2020年には海外市場での展開をさらに加速していったのだ。

高い技術力とマニュファクチュール

長野県塩尻市にある「信州 時の匠工房」で製造される、グランドセイコーのスプリングドライブ搭載モデル。なお、同ブランドのクォーツ式モデルも、この塩尻の工房で手掛けられている。

 グランドセイコーは精度や実用性で最高峰の腕時計を目指しており、ムーブメントの設計から部品製造、研磨、ケーシングまで妥協を許さない時計づくりを行っている。

 グランドセイコーの機械式時計は「グランドセイコースタジオ 雫石」(岩手県雫石町)、クォーツ式とスプリングドライブ式時計は「信州 時の匠工房」(長野県塩尻市)が製造を担っている。どちらも世界有数のマニュファクチュールであることは言うまでもない。

 信州 時の匠工房では年差±10秒の高精度9Fクォーツを生み出し、また、20年以上の歳月をかけて革新的な駆動方式スプリングドライブを完成させた。

 信州 時の匠工房は「マイクロアーティスト工房」「匠工房」「文字板工房」「ケース工房」の4つの工房からなる。とりわけマイクロアーティスト工房では精鋭の技術者を集め、2016年には最大約8日間のパワーリザーブを誇る特別なスプリングドライブムーブメント「Cal.9R01」を発表している。

2020年、スプリングドライブの次世代旗艦ムーブメントとして登場したCal.9RA5。22年には、パワーリザーブインジケーターを裏蓋側に配したCal.9RA2も生み出された。

 さらに2020年にはグランドセイコーから、最新世代のスプリングドライブCal.9RA5が登場。ムーブメントの厚さはわずか5mmと、大幅に薄型かしながらも、約120時間とパワーリザーブの延長も実現。また、精度も改良されており、従来の月差±15秒から月差±10秒へと向上している。

 この新しいムーブメントは稀少な特別仕様ではなく、次世代の旗艦機として続々レギュラーモデルに搭載されている。


スプリングドライブとは?

 複雑機構を追求し続ける老舗時計メーカーも多い中、駆動方式の根本的な改良を行うのがセイコーあるいはグランドセイコーの特色である。スプリングドライブも、そんな特色を表す象徴のひとつだ。スプリングドライブとは何か、その独創的な機構について見ていこう。

独自技術によって開発された駆動機構

スプリングドライブは、精密パーツを、手作業によって加工・調整することで実現している。写真は自動巻きスプリングドライブCal.9R86を分解したもの。

 1999年に誕生したスプリングドライブは、機械式とクォーツ式の利点を併せ持つ、新機軸の駆動方式である。信州 時の匠工房が20年以上の研究開発の末に生み出した革新的な機構であり、現在では、セイコー、グランドセイコーおよびクレドールに使用されている。

 2004年には、高級腕時計にふさわしい品質を備える、自動巻きのグランドセイコー専用のスプリングドライブCal.9R65が完成した。

 3針モデルでは200以上、クロノグラフモデルでは400以上もの精密部品を、熟練の職人が0.01mm単位で加工・調整する高精度なムーブメントは、国内外で高い評価を得ている。

クォーツ式時計と機械式時計、そしてスプリングドライブ式時計の違い

 クォーツ式時計は、電池を動力源に、電圧印加することで振動する水晶振動子と、この振動を1秒間の周波数へと変換するIC、そしてアナログ式の場合は針を動かすステップモーターによって構成される。精度が確保しやすく、また大量生産に向く一方で、トルクが小さいため重い針を動かせず、付加機構を搭載させづらい。

 機械式時計は巻き上げた主ゼンマイがほどける力を動力源とし、ヒゲゼンマイやテンプ、アンクル、ガンギ車といった機械的構造で調速を行う。トルクが大きく複雑機構の搭載にも向くが、クォーツ式とは振動数の差が大きく、精度の追求には限界がある。

スプリングドライブ独自の調速機構が「トライシンクロレギュレーター」。主ゼンマイを収納する香箱から輪列機構を経て伝わってくる動力が磁石を備えたローターを回転させることで発電。そのエネルギーでICと水晶振動子が作動し、歯車の回転速度をコントロールする。

 そしてスプリングドライブは、このクォーツ式時計と機械式時計を兼備したとも言える気候である。というのも、主ゼンマイを動力源としてICと水晶振動子で調速を行うため、大きなトルクと高精度を両立できるのだ。


スプリングドライブの動画