【時計を外し、身を委ねる旅寓】箱根・翠松園

LIFE時計を外し、身を委ねる旅寓
2021.01.22

清らかな空気に満ちた自然豊かな箱根の小涌谷におよそ3000坪の敷地を誇る「箱根・翠松園」。風雅なその名は、かつて三井家の別荘として知られた文化財「翠松園」を、敷地内に残し大切に受け継いでいることに由来する。正面玄関の多行松を横目に扉の奥へ進めば、落ち着いた空間が広がり源泉掛け流し自家温泉の露天風呂を備える全23室の趣異なる客室には、穏やかな時が流れる。

箱根・翠松園

大正時代に建てられた「翠松園」は、富士屋ホテルを手掛けた河原徳次郎の施工と伝えられる。現在は、夕食と朝食を提供する「料亭 紅葉」と「バー 伊都(いと)」として、ゲストをもてなす。
外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
福本和洋:写真 Photographs by Kazuhiro Fukumoto


大正時代の情緒漂う静寂に包まれた温泉宿

箱根・翠松園

(右)施設最大の広さ120㎡のラグジュアリースイート「尚(ねがう)」のリビングルーム。壮観な大自然を独り占めできるテラスには、ハンモックが揺れる。寝室のほか、和室も付随。(左)同室の贅沢な露天風呂は、源泉掛け流しの小涌谷温泉。ほかに、内湯としてジャクソン製のバイブラバス、シャワールームにはミストサウナを完備。

 樹齢300年の豪壮なもみじは、10月末に上部から染まり始めると、日々ゆっくりと着実に色づき、愛でる者を楽しませてくれる。そして、12月中旬には燃えるような真っ赤な姿に。樹の下から見上げるのもいいが、建物の窓越しに望むのも殊に風情がある。

 奥ゆかしく佇むのは、大正14年に三井財閥の別荘として建てられた「三井翠松園」を「料亭 紅葉」として蘇らせた登録有形文化財。昔のガラス特有のほんの僅かに歪んだ窓を通して眺める庭の景色は、どこか懐かしさを醸し出す。こちらの空間が紡ぎ出す時を重ねた趣に沿うよう「箱根・翠松園」は、どこか大正時代のテイストで統一されており、心和むような安らぎを与えてくれる。

箱根・翠松園

(左)黒毛和牛のグリルは、万願寺と牛蒡金平、里芋唐揚げ、山椒たれを添えて。献立の内容は月替わり。(右)合鴨諸味燻製や炙り魳小袖寿司、海老銀杏翡翠揚げなどが器に盛られた前菜。

 饗される料理の数々も、滞在の魅力を語るうえで大きな要素だ。「前菜が一番の華ですね」と語るのは、料理長の森田正弘氏。その言葉通り、コースの初めに運ばれてくる前菜の盛り合わせは、息を呑むほど。秀麗さに加え、趣向を凝らした枠にとらわれないアレンジは、和酒にも洋酒にもよく合い、つい盃が進んでしまう。料理が展開されていく中で季節の移ろいを存分に感じさせてくれ、オリジナリティーがゲストの心と胃袋を掴む。食後には、ぜひ1階にある「バー 伊都」を訪れ、余韻に浸っていただきたい。

正面玄関では、立派な多行松(たぎょうしょう)が出迎えてくれる。2007年の開業以来愛され、20年に一部リニューアルを果たした。宿のロゴは、松と川の流れを表現している。

 客室は、3000坪の敷地に「料亭 紅葉」を囲むように、すべてが異なる間取りやデザインの23室のスイートルームが点在する。「雅(うるわし)」「章(あや)」「郁(かおる)」といった名が付けられ、響きも優美だ。ラグジュアリースイート「尚(ねがう)」は、木の温もりを感じる落ち着いた色調で、プライベート感溢れる広々とした露天風呂やシモンズとの共同開発によるオリジナルのベッドが、深い寛ぎへと導いてくれる。ゲストが到着すると、客室には音楽が流れ、時間帯によって変化するという計らいも粋だ。ホテル滞在に欠かせないスパは、世界の格式あるホテルで採用されているフランスのラグジュアリースキンブランドであるシスレーを導入。古き良きものと現代の快適さが、しっとりと共存している。

箱根・翠松園

エントランスを入ってすぐの場所に広がるロビースペース。存在感ある水出しコーヒーの器具やランプが、ノスタルジックな喫茶店のような雰囲気を醸し出す。窓際のソファに座れば、竹林を見渡す景色が広がる。

 別荘を訪れたかのようなどこか懐かしく安心できる感覚は、光、音、香り、それらのトーンの心地よさからもたらされるものだろう。温泉が恋しくなる寒さが増すこれからの季節。真紅に染まるもみじに続く、雪化粧した庭園も待ち遠しい。


箱根・翠松園

神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷519-9
Tel.0460-86-0852
チェックイン15:00/チェックアウト11:00
全23室
2名1室利用時の2食付き料金8万3600円~
(消費税・サービス料込み、入湯税別)

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