八雲うえず(目黒)/この世ならぬ美味のクリエイター

LIFEIN THE LIFE
2021.04.24

今年2月、日本料理の最高峰で腕を振るってきた上江洲直樹氏が「八雲うえず」を独立開業。端正な料理と温かなもてなしが、食べ手の心を掴む。

外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2021年5月号 掲載記事]

八雲うえず お椀

お椀
小田原漁港から仕入れる釣りのオニカサゴを骨切りして葛打ちすることで、繊細な美しい姿に。筍や蕨、木の芽の風味が、春の訪れを感じさせてくれる。出汁は、2年間蔵で寝かせることで旨味が増した利尻昆布と芳醇な香りが特徴の鹿児島県枕崎産の本枯節にオニカサゴを炊いた汁を合わせたもの。飲み干すのが惜しくなるような感覚を抱いてしまう。


伝統と創意による篤実さが宿る味

 気候を考慮した温度帯の先付けから始まり、見目よい八寸、一皿のなかでも緩急ある向付けに続き、場の空気も一体となったような半ばに、美しい所作で目の前に置かれるのが、こちらのお椀。蓋を開ければ、湯気と共に穏やかな香りが漂う。凛とした存在感にすっと背筋が伸びるような感覚になり、口にすれば身体の隅々まで染み入るような優しさに和む。

上江洲直樹

上江洲直樹(Naoki Uezu)
1980年、沖縄県生まれ。地元の調理師専門学校を卒業。京都の老舗料亭の支店である「赤坂 菊乃井」の立ち上げから16年にわたって村田吉弘氏に師事し、2017年には料理長に就任。六本木「HAL YAMASHITA 東京」の統括料理長を経て、2021年2月に「八雲うえず」を独立開業。

 椀種の主役は、小田原漁港から直送される釣りのオニカサゴだ。「本来の持ち味や食感を活かし、レアで仕上げています。上質なので、余計な調理をする必要がありません」と語るのは、店主の上江洲直樹氏。その言葉の通り、丁寧な仕事はなされているが、必要以上に手を加えていない。なんとも真摯な印象を受ける。それ故、食べ手も素直に楽しむことができる。食材の質の高さはもちろん、誠実で愛情に溢れた想いが味わいに反映されるのだろう。

「伝統を守りつつ、そこに新たな自分のスタイルをつくりあげることで進化させること」とは、上江洲氏が16年間にわたり従事した「菊乃井」3代目主人の村田吉弘氏から学んだ料理への信条。「八雲うえず」を開業するにあたり、東京近郊の食材、とりわけ小田原漁港の魚を新たな自身のスタイルとして軸に据えることにしたのだ。「これまで知っていた魚でも、まったく違う味わいに驚かされることもしばしばあります」と探求心豊かに語る姿は、根っからの料理人だと感じさせる。

 上江洲氏の腕をもってすれば、名店ひしめくエリアに店を構えて当然だと感じてしまうが、あえてそこを選ぶことはしなかった。「『菊乃井』での最初の5年は寮生活でしたが、初めてひとり暮らしをしたのが八雲でした。以来、家族ができた現在もこの地に居を構えています」。外観に掲げられた達筆な店名は、義母が上江洲氏の為ひととなり人を表現した筆運び。慣れ親しんだ土地に店を開き、新たな歩みを始めたばかりだが、すっかり街に溶け込み、早くも地元の人々に愛されている。季節の移ろいを感じるたびに訪れたくなる、そんな一軒だ。


八雲うえず

八雲うえず

まっさらな木曽檜のカウンターが連なり、柿の木坂の「アルファクラフト」で扱う飛騨の椅子がゆったりと配されている。黒やグレーの壁や天井は、料理を映えさせると同時に安らげる空間を演出。

東京都目黒区八雲1-3-9
Tel.03-5726-9359
不定休 12:00~、18:00~
季節の懐石1万3200円(サービス料10%別)
完全予約制(4名以上、またはお子様連れの場合は貸し切り可能)




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