驚くべき結果を残した「第12回香港時計オークション」、その結果を振り返る

FEATUREオークション
2021.07.05

ビッグブランド・スモールブランドともに注目

 オークションで非常に高い落札額を記録するアイテムの多くは、パテック フィリップやロレックスといったビッグブランドだ。今回も例外ではなく、311点の時計の中で最高落札額を記録したのは、パテック フィリップの永久カレンダー搭載クロノグラフ Ref.2499(ロット822)。1537万5000香港ドル、日本円にして2億1800万円を超える値が付いた。

 しかしその一方で、近年注目を集めているのがスモールブランドである。トーマス・ペラッツィ氏のコメントにもあったように、独立時計師の初期の作品などが高い落札価格を付けるようになった。そこにはF.P.ジュルヌやドゥ・ベトゥーン、ウルベルク、ラング&ハイネなど、知る人ぞ知るブランドが名を連ねる。特に良い結果を生んだのが、フランソワ・ポール・ジュルヌ氏が手掛けたハリー・ウィンストンの「オーパス1 トゥールビヨン」(ロット808)のユニークピースだ。365万4000香港ドル、日本円で約5100万円の値が付いた。

 ここからは、高額で落札された時計を厳選し、実際に落札された価格と各モデルの詳細を見ていく。

パテック フィリップ「ノーチラス」Ref.5711/1A-001

パテック フィリップ ノーチラス

©️PHILLIPS
パテック フィリップ「ノーチラス」Ref.5711/1A-001
ロット番号:801、落札予想価格:47万〜93万5000香港ドル、落札価格:81万9000香港ドル(約1176万円)。

パテック フィリップの「ノーチラス」の値上がりは世界的に起きており、中古市場においても1000万円を超える価格で取引されている。今回のオークションでも、おおよそ市場価格と同程度の結果が得られた。Ref.5711/1A-001は2006年にノーチラス誕生30周年を記念して発表されたモデルの中でも初期型で、2針の前作Ref.3700から基本的なデザインは変えずに改良が施されたものだ。搭載するムーブメントは、ジャガー・ルクルト製Cal.920ベースのCal.28-255 Cから自社開発のCal.324 S Cになり、裏蓋はトランスパレント仕様になっている。

ロレックス「シードゥエラー」Ref.16600 Comex

ロレックス シードゥエラー

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ロレックス「シードゥエラー」Ref.16600 Comex
ロット番号:844、落札予想価格:48万〜70万香港ドル、落札価格:100万8000香港ドル(約1448万円)。

 価格が高騰している時計ブランドの代表格がロレックスだ。今回出品されたコレクター垂涎のレアモデルのひとつが、コメックスのロゴを文字盤に配したダブルネーム機である。1961年創業の潜水作業専門の会社だったコメックスはかつてロレックスと協力関係にあり、ロレックスはコメックスの潜水士に時計を提供していた。91年に誕生した「シードゥエラー」Ref.16600のコメックスモデルは、同社が倒産した97年までの約6年間支給された。その数は100〜200本程度と言われており、オークションに出品されることすら極めて稀だ。1500万円近い値が付いたことに納得する人も多いだろう。

リシャール・ミル「RM 39-01」

リシャール・ミル RM 39-01

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リシャール・ミル「RM 39-01」
ロット番号:847、落札予想価格:77万5000〜155万香港ドル、落札価格:119万7000香港ドル(約1719万円)。

 リシャール・ミルは1999年に創業した若いブランドだが、この20年余りで急成長を遂げた数少ない時計メーカーである。圧倒的な技術力で注目を集め、ブティックでは常に品薄状態が続くほどだ。今回のオークションでは、同社では数少ないラウンド型の「RM 39-01」が出品された。プロフェッショナルパイロットのために製作された本作は、計算尺の役割を果たす両方向回転ベゼルを備え、燃料消費量や飛行時間、対地速度などの数値が算出できる。

F.P.ジュルヌ「ヴァガボンダージュ Ⅱ」

F.P.ジュルヌ ヴァガボンダージュ Ⅱ

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F.P.ジュルヌ「ヴァガボンダージュ Ⅱ」
ロット番号:867、落札予想価格:31万2000〜62万4000香港ドル、落札価格:182万7000香港ドル(約2624万円)。

 近年のオークションで出品されている独立系ブランドの中でも、特にコレクターに注目され知名度を高めているのがF.P.ジュルヌである。“放浪者”の意味を持つ「ヴァガボンダージュ」は、アンティコルムが2004年に行ったチャリティーオークションのために製作された初出モデルを起源とするシリーズだ。今回出品されたのは、10年に発表された第2作目「ヴァガボンダージュ Ⅱ」。時分表示を中央の小窓で表示し、瞬時に切り替えるためのルモントワール機構(定力装置)を搭載している。限定69本のうちの1本は、定価の5倍近い価格で落札された。

アラン・シルベスタイン「マリーン トゥールビヨン“ブラック シー”」

アラン・シルベスタイン マリーン トゥールビヨン“ブラック シー”

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アラン・シルベスタイン「マリーン トゥールビヨン “ブラック シー”」
ロット番号:809、落札予想価格:7万〜14万香港ドル。落札価格:88万2000香港ドル(約1267万円)。

 インテリアデザイナーから時計デザイナーに転身したアラン・シルベスタインは、ひと目でそれと分かる奇抜なデザインを生み出した。フィリップスのアジア時計部門ヘッド、トーマス・ペラッツィ氏が、今回のオークションで「最も驚いた結果」と述べたのがこの「マリーン トゥールビヨン “ブラック シー”」である。落札予想価格を大幅に上回った。目を引くのは、絵本のようなタッチで描かれた魚や海藻で、12時位置のヒトデが回転して日付を示す。ポップな印象とは対照的に、6時位置では精緻なフライングトゥールビヨンが作動する。そのギャップがファンの心を引き付けるのだろう。


 出品された311点すべてのロット番号や落札結果、モデルの詳細は、フィリップスのオンラインサイトに掲載されているため、チェックしてみてはいかがだろうか?


Contact info: フィリップス https://www.phillips.com/location/tokyo


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