老舗オークションハウス「ボナムズ香港」時計部門のディレクターを務めるシャロン・チャンが注目するのは、カルティエのヴィンテージモデルだ。特に稀少価値の高いモデルを例に、時計オークション界のトレンドを考察する。
Text by Sharon Chan(Bonhams Hong Kong)
(2023年2月8日掲載記事)
オークションでの注目度が高まる、カルティエのヴィンテージウォッチ
カルティエはこの4〜5年の間、ウォッチメイキングのシーンにおいて、ユニークな存在として着実にその地位を築いてきた。パリを拠点とするジュエラーである同ブランドは、ロレックスを除くと、時計業界全体において次に高い認知度を誇るブランドのひとつと言えるだろう。
時計そのものが個性的になっただけでなく、売り上げも年々伸びている。アメリカの金融機関、モルガン・スタンレーが毎年発表しているスイス時計の輸出額ランキングでは、長年2位だったオメガを抑えて、初めて2021年に2番目に輸出されるブランドとしてランクインした。 また、新品の時計市場だけでなく、カルティエの時計は中古品市場でも話題を呼んでいる。
150個のダイヤモンドをセッティングした、クラッシュの限定モデルの一例。かつてケースの加工を手作業で行っていたクラッシュだが、現在では工作機械により精密な造形を実現している。手巻き(Cal.8970 MC)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWGケース×ダイヤモンド(縦38.45×横25.5mm)。非防水。完売。
近年、カルティエの中古オークションで最も人気で多くの取引のあるモデルのひとつが「クラッシュ」だ。交通事故に遭い、熱によって変形してしまった時計にインスパイアされたという説を持つクラッシュは、どのモデルも限定生産で個体数が少ない。カルティエが時計製造の拠点をスイスに移したことで、文字盤に「London」「Paris」と書かれたモデルは、中古市場でも特に稀少な存在となっている。
カルティエへの注目度が高まるにつれ、この「London」「Paris」表記のあるクラッシュの価格は上昇し、2022年にはオークションの落札価格が70万スイスフラン(約9846万円、1スイスフラン=140.67円、2023年2月3日現在)を超えることもあった。しかし、22年末になると相場が安定し、より正確に落札相場を予測することができるようになったようだ。
2022年12月14日開催のボナムズ ロンドンオークションに出品された、オリジナルのペブル。ロット番号:108。落札価格:23万9700ポンド(約3769万円、1ポンド=157.25円、2023年2月3日現在)、バイヤーズプレミアムを含む。
もちろん、カルティエのブームはそれだけにとどまらず、長い間沈黙を守っていた「ペブル」もオークション市場でコレクターの注目を集め続けている。1970年代当時、ロンドンのカルティエの責任者でもあったジャン・ジャック・カルティエによるデザインで、ラウンドケースにスクエア型の文字盤をはめ込み、ラグを裏側に隠すという、当時としては非常に珍しいデザインの腕時計であった。
1972年に誕生したこのモデルは、カルティエの生産ラインから姿を消すまでにわずか6本しか生産されず、その稀少性から、中古市場に登場すると必ずコレクターの手に渡ってしまう。

誕生から50年、2022年に復刻した150本限定のペブル。独特のケース形状を再現したこの腕時計は、発表から間もなく愛好家の手に渡った。手巻き(Cal.430 MC)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KYGケース(直径36mm、厚さ6.29mm)。非防水。世界限定150本。640万2000円。完売。
ペブル誕生50周年を迎えた2022年、カルティエは150本の限定モデルを発売した。その影響でペブルの歴史を知り、オリジナルに興味を持つ時計愛好家が増え、ヴィンテージモデルの著しい価格上昇を刺激している。
同年12月にロンドンで開催されたボナムズのオークションでオリジナルのペブルが出品され、23万9700ポンド(約3769万円)で落札された。クラッシュに比べて現存する個体が少ないペブルは、復刻モデルや最近のオークションの売れ行きに後押しされ、まだまだ成長する可能性があることは明らかである。

2022年6月22日、香港で開催されたボナムズ時計オークションに出品された、初期型のミステリークロック。ロット番号:847。落札価格:687万香港ドル(約1億1268万円、1香港ドル=16.4円、2023年2月3日現在)、バイヤーズプレミアムを含む。
また6月に香港で開催されたボナムズのオークションでは、カルティエのクロックの中でも特に古い、1928年製のミステリークロック「モデルA」が出品された。非常に良好な状態だったため、世界中から50人以上の入札者が集まった。その結果、予想落札価格の約4倍で落札され、記録的な結果を残した。
創業当初、カルティエは時計ブランドではなかったため、その歴史的な作品は他の時計ブランドよりもさらに稀少価値が高く、年々ブランドへの関心が高まっている。主要なヴィンテージモデルのすべてが、次のクラッシュやペブルになる可能性を秘めているのだ。
著者「シャロン・チャン」プロフィール
シャロン・チャンは、アジアにおけるボナムズ時計部門のディレクターである。香港を拠点に、アジア太平洋地域の事務所と密接に連携し、同部門が年に10回開催するオークションの監督を務めている。

2017から18年、オークション事業に復帰し、ボナムズに入社する前にはプロフェッショナルとしてのキャリアを広げ、プライベートウォッチビジネスとクライアントコンサルティングを運営した。その豊富な経験から、世界中のコレクターとの強いコネクションを持ち、アジアにおける時計市場の拡大に重要な役割を担っている。
これまで多くの国際的なオークションハウスでのジュエリーと時計のオークションビジネスにおいて、17年以上の経験を積み、2011年から2016年にかけては、香港で時計オークションを指揮。売り上げを年々強化し、2013年にはアジアでの時計販売で最高額を達成した。また、世界最大級のプライベートウォッチコレクションの監督責任者を務め、2015年のオークションで600万USドルという新記録を打ち立てた。

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