時計経済観測所/時計市場巡る「米中」首位争いの行方。消費好調の米国、トップなるか。

LIFEIN THE LIFE
2022.01.06

2022年2月に4年の任期を終える、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の再任が発表された。好調とも、過熱気味とも伝えられる米国経済。その金融政策は、世界の経済や金融市場に多大な影響を及ぼすため、議長の発言は大きな注目を集める。習近平国家主席率いる中国との覇権争いが続く中、パウエルFRB議長はどう舵を切っていくのだろうか? 気鋭の経済ジャーナリスト、磯山友幸氏が高級品需要の観点から、米国経済を分析・考察する。

磯山友幸:取材・文 Text by Tomoyuki Isoyama
安堂ミキオ:イラスト Illustration by Mikio Ando
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]


時計市場巡る「米中」首位争いの行方。消費好調の米国、トップなるか。

磯山友幸

米国経済が好調だ。第2四半期(4-6月期)のGDP(国内総生産)は前期比年率でプラス6.7%を記録、第3四半期(7-9月期)も鈍化したものの、2.0%とプラス成長を維持した。個人消費が1-3月期に11.4%増、4-6月期に12.0%増という高さを示し、景気回復を牽引した。新型コロナウイルスの感染拡大で2020年はロックダウン(都市封鎖)が行われるなど経済活動が大幅に制限されたが、2021年に入って、その制限が解除されると、「リベンジ消費」と言われるほど、一気に消費が爆発した。

ラグジュアリー商品の売り上げは好調

 7-9月期はデルタ株の拡大に伴う新型コロナウイルスの感染再拡大で経済活動が鈍化したことや、世界的な半導体不足で自動車生産が追いつかなかったことなどもあり、個人消費は1.6%増に鈍化したが、それでもプラスを維持。米国景気の底堅さを示している。最大の需要期であるクリスマス商戦に向けて、米国の消費がどれぐらい盛り上がるのか、大いに注目されている。

 そんな中で、売れ行きが好調なのが高級時計や宝飾品などのラグジュアリー商品である。その傾向は本欄でもしばしば取り上げるスイス時計協会のデータにも表れている。スイス時計の国・地域別輸出額によると、2021年1月から10月までの米国向けの累計額は25億180万スイスフラン(約3070 億円)と、2020年の同期間に比べて60.4%も増えた。

 主要30カ国・地域の中で、規模の小さいインドを除いて最も高い伸び率を示している。しかも、新型コロナ禍前の2019年1-10月に比べても27%も増加しており、完全に新型コロナ禍前を凌駕している。販売好調を背景に、年末のクリスマス商戦に向けてディーラーが大きく在庫を増やしているのだろう。

2021年のスイス時計輸出先トップの座はどこに?

 ここへ来ての最大の焦点は、2021年の年間で、どこが世界最大のスイス時計の需要地に躍り出るか。

 2019年までは戦後長い間、香港がスイス時計の輸出先としてトップの座に君臨してきた。ところが2020年、香港に国家安全維持法が施行されると「自由都市香港」の灯が消え、スイス時計の輸出も激減。新型コロナ禍からいち早く立ち直った中国(本土)向けが前の年から20%も増えて年間で23億9400万スイスフラン(約2940 億円)とトップに躍り出た。新型コロナ禍の影響をモロに受けた米国向けは17.5%減り、19億8670万スイスフラン(約2440 億円)と2位にとどまった。

 それが2021年10月までの統計では前年同期比39.8%増えている中国の24億9720万スイスフラン(約3064億円)を抑えて、米国が前述のように25億180万スイスフランとギリギリトップになっているのだ。果たしてこのまま米国がトップを維持し、世界最大の市場に名乗りを上げるのか、それとも中国(本土)が逆転して2年連続でトップを守るのか。スイス時計市場を巡る「米中の首位争い」から目が離せない。

インフレが台頭し始めているアメリカ経済

 もっとも米国の景気は過熱気味で、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は新型コロナ禍に伴う経済対策として進めてきた量的緩和を段階的に縮小する方針を打ち出し、実質的なゼロ金利政策からも脱却していくと見られている。米国が金融引き締めに転じるほど景気が過熱し、物価が急上昇しているのだ。

 米国労働省が発表した2021年10月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.2%も上昇。1990年12月以来、31年ぶりの高い伸びを記録した。世界的に原油をはじめとする資源価格が上昇しているが、そのエネルギーと食料品を除いた「コア指数」でも4.6%の上昇となった。いわゆるインフレが台頭し始めている。

 もっとも金融引き締めによっても、景気が冷え込むという見方は薄く、年末商戦に向けて高級品需要は盛り上がるとの見方が根強い。インフレは世界的な傾向になりつつあり、他の消費財の価格上昇や物流費の上昇によって、高級時計の価格も引き上げ方向に向かうと見られており、駆け込み需要も生まれているようだ。


磯山友幸
経済ジャーナリスト。1962年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞社で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、『日経ビジネス』副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末に独立。著書に『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。現在、経済政策を中心に政・財・官界を幅広く取材中。
http://www.hatena.ne.jp/isoyant/




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