タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション」をテストする

FEATUREWatchTime
2022.03.16

タグ・ホイヤーとスポーツカーメーカーであるポルシェがパートナーシップを結んだのは、ごく自然な流れであった。この2社は長年にわたり、共通の歴史、逸話、そして何よりも価値観によって結び付けられてきたのだ。しかしながら2021年に入ってきたニュースは衝撃的であった。今回はこのパートナーシップ締結と同時に発表された「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション」の着用テストを行った。

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェ

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション」。Ref.CBN2A1F.BA0643。自動巻き(cal.ホイヤー02)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径44mm、厚さ15mm)。100m防水。71万5000円(税込み)。
Originally published on watchtime.com
Text by Martina Richter
2022年3月15日掲載記事

カレラがまとめ上げたホイヤーとポルシェ

 タグ・ホイヤーのキャリバー ホイヤー02搭載の他のモデルと比較すると、本モデルは全体を覆うアスファルト上の熱を持ったタイヤのような文字盤が印象的である。一見すると一般的なアントラサイトカラーの文字盤ににオープンワークは施されていないが、それでも非常に特別なものである。アスファルトのレーストラックのようなラフで独特の質感は、タグ・ホイヤーのモータースポーツへの親和性と、タグ・ホイヤーとポルシェの新しいパートナーシップを象徴するものとして、今回のテストモデルであるこのカレラに与えられたものである。

 同様の理由で、光沢のあるブラックで傷の付きにくいセラミックス製のベゼルには、本来なら「タキメーター」の文字が入るところ、オリジナルの書体を模した赤い文字で「ポルシェ」の名前が刻まれている。クロノグラフ秒針の先端、30分と12時間の積算計の一部、そして文字盤の端にある経過秒数目盛りの15秒ごとのマークなど、ストップウォッチ機能の多くのディテールも赤で統一されている。このアクセントが時計のスポーティーさを象徴し、ストップウォッチ機能を際立たせている。

 赤、黒、グレーという特徴的な配色に加え、文字盤のアラビア数字はポルシェのデザインコードに由来し、高級レーシングカーのパネルを想起させる。これらのインデックスが他のカレラモデルと同様に時間ではなく分と秒を示すのは、モータースポーツへのオマージュとして考案されたこのスペシャルエディションにとって理にかなったものである。これらのアワーインデックスやバータイプの時分針は暗闇で鮮やかなグリーンに浮かび上がる。ただ明かりが消えてしまうと、6時位置のスモールセコンドとクロノグラフの経過時間のインジケーターは視認できなくなる。

 カレラの名称は、12時位置、というより1分に対する60を示すインデックスの下にあり、あまり目立たない。カレラは、何十年にもわたって興味深い形で何度も交差してきた両ブランドをつなぐ要素なのだ。カレラはスペイン語で「レース」を意味し、ポルシェとホイヤーが一緒になる機会を作ったのは自動車レースであった。フェルディナント・アントン・エルンスト・ポルシェ、愛称「フェリー」は1931年、22歳で父親のデザイン会社に入社した。1948年には一族の名を冠したカーブランドとその財団のために、最初のポルシェの車両である「ポルシェ 356 No.1 ロードスター」を発表。ポルシェは間もなくモータースポーツの分野で名を馳せ、1954年に開催されたカレラ・パンアメリカーナでは勝利を収めた。このレースでの成功を祝し、ポルシェは自社における最もパワフルなエンジンに「カレラ」の名を与えたのである。

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション

厚さ15mmのケースと、その側面に配された力強いプッシュボタンで、スポーツカーと同じように表情豊かなクロノグラフを実現した。

 エドワード・ホイヤーの曽孫ジャック・ホイヤーもまた自身が1963年に開発したクロノグラフに、カレラの名前を与えている。これはレースのドライバーが過酷なドライビングの最中に一瞥しただけで時間が視認できるというものであった。ジャックはまた、初の角型ケースの防水自動巻きクロノグラフ「モナコ」の開発も牽引した。この名称は名前は1968年から1970年にかけてポルシェの伝説的な911モデルが3年連続で勝利を収めたモンテカルロ・ラリーに敬意を表している。

 その後、ポルシェとホイヤー、あるいは1980年半ばにタグ・グループに売却されてからタグ・ホイヤーとなった時計メーカーとの関係性はさらに深まっていった。ふたつのブランドは共同で「タグポルシェ」エンジンを開発・製造し、1984年にはF1世界選手権においてニキ・ラウダが、1985年と1986年にはアラン・プロストがドライバーを務めるマクラーレンチームがチャンピオンに輝く原動力となったのである。1999年からはポルシェ カレラカップ、ポルシェ・スーパーカップ、世界耐久選手権などを通して、両社の関係はさらに密なものとなった。タグ・ホイヤーはフォーミュラE選手権の創設者のうちの1社で、ポルシェは2019年に独自のフォーミュラEチームを設立し、タグ・ホイヤーを公式タイムキーパーとして起用した。そして2年後、両者の間に長年続いていた関係が、公式パートナーシップの締結へと至ったのである。共同プロジェクト開始にあたり示されたモットーは、「ポルシェとタグ・ホイヤー:ふたつの歴史、ひとつの情熱」だ。

 このパートナーシップ締結から最初に発表された「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション」は、ポルシェのスポーツカーやカレラのレーストラックを想起させるハンドステッチの施されたブラックのカーフストラップ、またはH型のリンクで構成されたステンレススティール製ブレスレットが組み合わされ、ケースと一体型になっている。ストラップとブレスレットのどちらにも、頑丈で高品質なフォールディングクラスプが装備されている。

 サファイアクリスタルが窓のようにはめ込まれたねじ込み式のケースバックがポリッシュ仕上げのステンレススティール製ケースを密封し、ケースは10気圧防水となっている。サファイアクリスタルからは2019年に発表された自動巻きキャリバー、ホイヤー02を遮るものなく見ることができる。新たにデザインされたブラックの巻き上げローターは、ポルシェのステアリングホイールにオマージュを捧げたものだ。このローターはラチェットホイールによる一方向の巻き上げ式となっており、反対方向に回転すると、通にとってはあまり心地よくないアイドリングの音が感じられるだろう。しかしタグ・ホイヤーは意図的にこの巻き上げ機構を採用した。それは部品の総数を減らし、さらにムーブメント全体の厚さを抑えるためである。比較的小さなコラムホイールには赤色があしらわれ、他のパーツの中で際立った存在感を放っている。コラムホイールは垂直カップリングと共に、正確かつ信頼性のある経過時間の計測を担保している。

タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション

ベゼルにはポルシェの刻印が施されたほか、インデックスにはブランド特有のポルシェのフォントを採用している。

スポーツウォッチのためのパワフルなエンジン

「ホイヤー02」の開発は2011年に始まった。2013年に「キャリバー1969」の名称で発表されたが、たったひとつの香箱で達成した約80時間というパワーリザーブにちなんで、その後「CH-80」と改められた。

 しかしその後何年にもわたって、タグ・ホイヤーはこのクロノグラフムーブメントの最適化を続ける必要があった。目的は可能な限り効率的に、堅牢かつ信頼性のあるものを製造することであった。直径31mm、厚さ6.5mmというムーブメントのサイズは、同じLVMHグループ傘下であるゼニスのエル・プリメロと同等である。ただキャリバー1969の薄型設計は、いくつかの改善点があった。巻き上げ機構は十分に効率的だったが、薄いブリッジはクロノグラフの切り替え操作の力に耐え切れず、変形してしまっていたのだ。そこで、ムーブメントの厚みを0.4mm厚くし、全体の厚みを6.9mmとした、より頑丈な新設計を採用した。

 コラムホイールに加え、クロノグラフブリッジも地板にネジ留めされる数少ない部品のひとつである。クロノグラフの駆動を司るレバーやゼンマイなどの他のパーツは所定の位置に差し込まれたり、掛けられたりして固定されている。ネジを極力排除することで部品点数をわずか233点に抑え、組み立て時間も短縮しているのだ。また巻き上げと時刻合わせ用の歯車も改良の対象となった。歯車の噛み合わせが浅く、ノイズが発生することがあったためだ。セミジャンピングデイト機構も同様に最適化を図った。現在の仕様では、自動切り換えシステムが作動している最中にユーザーが誤って手動でデイト調整を行った場合でもダメージを与えないような安全策が取られている。機構を保護するためにシステムにはロックが掛けられており、デイト表示変更のためにはリュウズをセンターポジションまで引き出さないと手動での調整はできない。時計が作動しているときには、6時位置の小さな日付表示は、夜中の12時の30分から40分前に動き始める。

キャリバーホイヤー02の自動巻きローターはポルシェのステアリングホイールを模したシースルー仕様で、さらに「ポルシェ」「タグ・ホイヤー」とプリントされている。

 タグ・ホイヤーが2019年に発表したアイソグラフのヒゲゼンマイは、まだ搭載されていない。しかし従来のシステムでもクロノメーターレベルの良い安定したレートを弾き出している。ホイヤー02は、2016年に「カレラ キャリバー ホイヤー02 トゥールビヨン」に搭載されたクロノメーター認定の「ホイヤー キャリバー02-T」としてデビューした。2017年にはトゥールビヨンが搭載されていない別のムーブメントがレトロスタイルの「オータヴィア キャリバー ホイヤー02」に搭載された。2018年には「カレラ」に、そして2019年にようやく「モナコ」に組み込まれた。これによりモータースポーツにインスパイアされたタイムピースのための優れた高性能エンジンとして、その存在を確立したのだ。


精度安定試験

(秒単位日差、完全巻き上げ時/24時間後)
着用時: +1.5
文字盤上: +0.3 / +0.1
文字盤下: +0.9 / +0.8
3時上: −2.7 / −1.7
3時下: +7.5 / +8.2
3時左: +2.1 / +3.4
最大姿勢差: 10.2 / 9.9
平均日差: +1.6 / +2.2
平均振り角
水平姿勢: 309° / 292°
垂直姿勢: 267° / 246°


スコア

ストラップ&クラスプ(最大10Pt): 端正なストラップ、装着感の良いクラスプ。9Pt
ケース(10): ファセットの効いた高品質なケース。サファイアクリスタル2枚採用。ねじ込み式ケースバック、セラミックスベゼル、統一感のあるリュウズとプッシュピース。8Pt
文字盤と針(10): デザイン要素はポルシェのレーシングの世界から。特別なアスファルト風の文字盤。 9Pt
デザイン(15): ポルシェのレーシングデザインを赤、グレー、黒の配色でうまく伝えている。特別なアワーインデックスとレザーストラップのオプション。 13Pt
視認性(5): 時間表示は暗所でもはっきりとしている。クロノグラフ機能は暗所では視認できないが、日中の視認性は高い。デイト表示は小さく、読み取りにくい。4Pt
操作性(5): リュウズは使いやすく、クロノグラフのプッシャーはしっかりとして押し感も良いが、ステンレススティール製ブレスレットのパーツは若干柔軟性に欠ける。 4Pt
装着感(5): ケースはかなり厚みがあり、時計自体も重く、それはステンレススティール製ブレスレット仕様で顕著である。大きめのクラスプ。4Pt
ムーブメント(20): 最適化された自社製ムーブメントは、日常使いで本領を発揮する。クロノグラフやデイトのスイッチングには信頼性がある。 長時間パワーリザーブ、特別なローター。17Pt
精度(10): クロノメーター認定は受けていないが、計時機能は良く、クロノメーターに匹敵するレベルのバランスの取れた精度である。クロノグラフ駆動時でも、振り角も安定している。9Pt
総合評価(10): ポルシェとのパートナーシップを記念した特別なデザイン。ポルシェのデザインコードを採用。適切な価格。8Pt
合計: 85Pt

※本記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。


Contact info: LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7054


タグ・ホイヤー【2022新作】「フォーミュラ1 クロノグラフ レッドブル レーシング スペシャルエディション」

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2021年 タグ・ホイヤーの新作時計まとめ

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