ハリー・ウィンストン アートピースへと昇華するウォッチメイキングの真骨頂

2022.08.03

ニューヨークに本店を構える世界屈指のハイジュエラー、ハリー・ウィンストンは、時計に最高峰の宝飾品と同じ稀少価値を追求する。その代表が驚異的なトゥールビヨン機構とアバンギャルドなデザインで圧倒する数々のハイコンプリケーションだ。アートと呼ぶにふさわしい唯一無二の作風で進化し続けるそのウォッチメイキングは他の追随を許さない。

イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 10

イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 10
2019年に発表された通算10作目は、4つのトゥールビヨンを組み込んだ初のムーブメントを横長のレクタンギュラーケースに搭載。トゥールビヨン4つが同時に反時計回りに36秒で1回転する様子は目にも楽しく、まさに機械仕掛けのアートピースだ。ダイアル側と同様に、ケースバック側も中央の香箱を中心に隅々までシンメトリーのデザインを追求し、モダンなスタイルのオープンワークを凝らす。写真右上に見えるコーナーに小さくパワーリザーブ表示がある。手巻き(Cal.HW4702)。95石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWG(縦39.1×横53.3mm、厚さ17.6mm)。世界限定10本。1億193万7000円(税込み)。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
菅原茂:文 Text by Shigeru Sugawara
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年9月号掲載記事]


The Art of Complicated Watches

 ハリー・ウィンストンが稀少価値の高い高級時計の製造に着手したのはスイス時計産業に機械式復活の兆しが見え始めた1989年のことだ。当初からバイ・レトログラードなどの複雑機構を搭載した特別なモデルを発表していたが、独創的なウォッチメイキングが世界から俄然注目を浴びるようになったきっかけは、気鋭の独立時計師とのコラボレーションによって無類のコンプリケーションを創作する「オーパス」や「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン」の連作である。

イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 10

左右に2個ずつ配置されたトゥールビヨンにはそれぞれ2個セットの香箱から動力が別々に供給され、調速の結果は各トゥールビヨンの間にある左右一対のディファレンシャルギアへと伝わる。さらに、これらに噛む中央の大きな3番目のディファレンシャルギアで精度差異を平均化。その結果が時針と分針の動きに反映される。

 2009年から1個または2個のトゥールビヨン搭載モデル、さらに2軸、3軸でアクロバティックな回転運動を行う多軸トゥールビヨン搭載モデルなどを次々と発表し、驚異的な複雑機構とアバンギャルドなデザインが話題を独占してきた「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン」は、10周年に際して一段と進化した最終作を発表するに至った。1作ごとに違ったスタイルのトゥールビヨン搭載モデルを生み出す発想力や技術力には並外れたものがあるが、「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン10」の最大の特徴は、4つのトゥールビヨンと3つのディファレンシャルギアを介して高精度を確保するシリーズ初のメカニズムだ。

 そもそもトゥールビヨンは、重力が時計に及ぼす影響で生じる誤差を解消して安定した高精度を得るための機構である。もちろん1個のトゥールビヨンにも誤差補正能力があるわけだが、複数のトゥールビヨンを組み合わせるメリットは、理論的には、偏差を補正した精度の平均値からさらなる高精度が期待できるという点だ。このモデルの場合、左右に2個ずつ置かれたトゥールビヨンは、それぞれ反時計回りに36秒で1回転し、これらに組み合わされた各ディファレンシャルギアを通じて得られた精度を3番目のディファレンシャルギアに伝えてさらに平均化し、最高精度へと集約していく仕組みである。これほど複雑なプロセスを経た結果が中央に置かれた、秒表示のないシンプルな時刻表示に反映されるのだから、これに勝る精度追求の贅沢はないだろう。

 外観のデザインと同様、徹底してシンメトリーを追求したキャリバーHW4702の設計は、ダブルトゥールビヨンをふたつ合体したイメージに近い。シンメトリーはまた、動力を供給する2×2組の同軸高速回転バレルについても同様だ。さらに、サファイアクリスタル製ダイアルの下にトゥールビヨンとディファレンシャルギアを含む精巧なメカニズムの全貌が見渡せ、これらのパーツ自体がまたフェイスを個性的に演出する要素になっている。

ポケットウォッチ・クアドリ・トゥールビヨン・バイ・ハリー・ウィンストン

ポケットウォッチ・クアドリ・トゥールビヨン・バイ・ハリー・ウィンストン
「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 10」のムーブメントをベースに、ラウンドケースに収めた懐中時計型トゥールビヨン。奥行きや立体感をさらに強調する斬新な意匠が凝らされ、12時位置のエメラルドカット・ダイヤモンドや、チタンのブリッジを彩るブルーがブランドを象徴。手巻き(Cal.HW4703)。95石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWG( 直径57.2mm、厚さ18.2mm)。世界限定8個。1億586万4000円(税込み)。

 そして、腕時計用のキャリバーHW4702に新たなエステティックを施したHW4703を懐中時計に仕立てたのが「ポケットウォッチ・クアドリ・トゥールビヨン・バイ・ハリー・ウィンストン」だ。なぜ懐中時計なのか?それは、トゥールビヨンが2世紀以上も前に懐中時計用の複雑機構として発明されたものだからだ。そんな原点を想起させる示唆に富んだこのモデルは、「キング・オブ・ダイヤモンド」としての名声を築くハイジュエラーが、時計の分野でも高度な技術を完璧に手中に収めるハイコンプリケーションの名手であり、「キング・オブ・トゥールビヨン」と呼ぶにふさわしい存在であることを証明している。稀少価値絶大なそのハイコンプリケーションは、紛れもない機械仕掛けの芸術品なのである。

ポケットウォッチ・クアドリ・トゥールビヨン・バイ・ハリー・ウィンストン

極めてモダンな建築構造を思わせるケースバックからの眺め。「HW」のロゴを配したオープンワークのブリッジと地板にマイクロビーズ仕上げとサテン仕上げを与えることで、より立体感を際立たせ、エッジに施された手作業による面取りとともに極上の質感を生み出している。また、右下にはパワーリザーブ表示を備える。



Contact info: ハリー・ウィンストン クライアントインフォメーション Tel.0120-346-376
https://www.harrywinston.com/ja/timepieces
※価格は、2022年8月3日現在のものです。


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