ブライトリングとは? クロノグラフの歴史を産んだ時計メーカー

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2022.12.14

スイスの高級時計ブランド「ブライトリング」は、ロレックスやオメガよりは知名度が少ないものの、多くの熱狂的なファンが存在する。無骨ながら「計器」を彷彿とさせる機械的な繊細さと機能美は男心を掴む。

多くのパイロットたちのミッションを支えてきたブライトリングは、空とともにある時計といっても過言ではない。今回は、ブライトリングの歴史と数々の傑作について紹介しよう。

ブライトリング


ブライトリングとは

 ブライトリングとは、スイスに拠点を構える時計メーカーである。

 スイスと言えば腕時計の世界的な生産地として有名だが、ブライトリングは創業した1884年当時、いちはやくクロノグラフに着目し、時間を正確に測ることに定評のある時計ブランドとしてライバルである他社とは一線を画した存在となった。

 ブライトリングは「時計ではなく、(航空用)計器」「プロのための計器」という理念のもと、パイロットたちが使用するストップウォッチやコクピットウォッチを主力として手掛けている。

 時計を「腕に着ける計器」と位置付け、すべての製品はクロノメーター検定という基準をクリアしているなど、精密な時計作りに意を注ぎ続けてきた。

 そのため、戦前から航空業界とのつながりが強く、現代においてもパイロット向けの腕時計として、「エアロベース」や「エマージェンシー」をはじめとしたモデルが販売されており、その評価は高い。


ブライトリングの歴史とルーツ

 ブライトリングの歴史は創業当時の1884年にさかのぼる。当時24歳の青年であったレオン・ブライトリングは、スイスの山間部にある小さな村、サンティミエにクロノグラフやストップウォッチといった精密機器を製造する工房を設立した。

 創業当初から自社の技術を生かして製作した製品は多くの賞を受賞し、特にスピードを計測する機器は警察に正式採用されるなどの高い評価を得ると、ブライトリングの存在は公的にも大きく認知されていった。

レオン・ブライトリング

ブライトリングの創業者であるレオン・ブライトリング(1860-1914)。1884年の創業時から、クロノグラフ機能を搭載した時計の製作を行い、ブランドの方向性を定めた。

 1892年には、拠点を時計産業の中心地であるラ・ショー・ド・フォンに移転し、時計ブランドとしての基盤を固める。

 この頃、飛行機の開発や軍用機などの生産が活発化し、レオン・ブライトリングは最新技術である飛行機に興味を持つようになると、パイロット用懐中時計クロノグラフの制作に着手した。

 その後、1914年に54歳という若さでこの世を去ったレオン・ブライトリングだが、息子のガストン・ブライトリングが後継者となり、現在のクロノグラフ腕時計の原型モデルである30分積算計が備わったワンプッシュ・クロノグラフを開発するなどの偉業を成した。

ガストン・ブライトリング

レオンの息子、ガストン・ブライトリング(1885-1927)は、1914年よりブランドの後継者となり事業を継続。主軸であったクロノグラフの開発は変わらず続け、ブランドを大きく発展させた人物である。

世界大戦とブライトリング

 1915年にはブライトリングが、ワンプッシュ・ボタンが付いた世界初のクロノグラフ腕時計を発表。当時のヨーロッパは第一次世界大戦真っ只中で時計の需要や技術は急速に高まっていた。

クロノグラフ

1915年に開発された、世界初のクロノグラフ機能が搭載された腕時計。2時位置にあるプッシュボタンを押すと計測をスタートし、再び押すとストップ。そしてもう一度押すとリセットされる、ワンプッシュ式のものだ。

 クロノグラフとは、「ラテン語の"CHRONOS"=時間」と「"GRAPH"=記録する」を合わせた合成語で、要約するとストップウォッチのことである。

 第1次世界大戦は、飛行機が武器としてはじめて戦場に登場した戦いでもあり、主翼が2枚または3枚ある複葉戦闘機が空戦の主役だった時代だ。

 当時のパイロットは離陸後の飛行時間から燃料の残量を算出していたため、時間経過を確認することが可能なクロノグラフ腕時計は、戦闘機乗りたちにとってもはや必需品のツールとなった。

 その後、1939年にはイギリス空軍から大量発注を受けるなど航空業界から多大な支持を集め、第2次世界大戦でも空を駆ける男たちの腕にはブライトリングのクロノグラフ腕時計が巻かれていた。

 航空技術の発達に合わせてクロノグラフもさらなる進化を遂げていた。1942年、太平洋ではミッドウェー海戦が始まり、ヨーロッパでは連合軍によるドイツ本土空爆が活発化していた頃だ。

 陸軍・海軍が主体だった戦地の環境が、制空権の確保が勝敗を分ける航空戦力主体になっていく中、ブライトリングから速度や消費燃料などの計算ができる世界初の回転式計算目盛を備えた「クロノマット」が発表される。

 やがて戦いが終わると、航空会社にもブライトリングの製品が採用されて、軍需・民需双方から圧倒的な人気を受けた。こうしてブライトリングはクロノグラフとともにパイロットウオッチのスペシャリストとして確固たる地位を確立していく。


ブライトリングのパイロットウォッチ

 水中環境を想定したダイバーズウォッチと違い、パイロットウォッチにはこれといった明確な基準はない。しかし、どのような環境においても視認性の良さが確保されることがまず重要視される。

ナビタイマー

ブライトリングを代表するナビタイマー。1952年、ガストンの息子であるウィリー・ブライトリングが、パイロットが必要とするさまざまな航空航法計算を行える腕に装備する計器を開発したことで誕生した。国際オーナーパイロット協会(AOPA)の公式タイムピースに選ばれたことでも知られている。

 そこに外観的なデザイン要素が加わりどのような時計になるのかが決まるが、ブライトリングの腕時計は、パイロットウォッチとして極めて高い機能性とこだわり抜いた品質、そして緻密な計算から生まれた精巧な造形美を兼ね備えている。

耐久性と美しさを兼ね備えた外装

 ブライトリングのケースは、パイロットが大空で直面する過酷なミッションでも耐えられるように設計・制作されている。

 高度な防水性を備え、気温変化、強い衝撃などを考慮し、リュウズボタンやプッシュボタンなど、外部環境からの影響を最も受けやすい部品は別格の配慮が込められた設計だ。

 秒針には、ブライトリングクロノグラフの「B」の文字をかたどった指針や、強度と快適な装着感で定評のあるブレスレットなど、性能だけでなく美しさにもこだわっているのが見てわかる。

視認性の高い文字盤

 すっきりとしたシンプルな文字盤は視認性も抜群でパイロットウォッチとしての役割をしっかりと果たす。

パイロットウォッチであれば、高い視認性を確保していることが重要だ。ブライトリングのパイロットウォッチは機能ゆえのデザインであるため、表示に一切の無駄が無いのである。

 文字盤の素材となる真鍮プレートの加工には、伝統的なクラフトマンシップが欠かせない。

 高度に洗練されたデザインで、サブダイアルにはデリケートな段差からブライトリングの高い技術が見受けられる。

高硬度のサファイアクリスタル

 ブライトリングの時計の風防にはサファイアクリスタル製のものが採用されている。この素材はダイヤモンドに次ぐ硬度があり、傷がつきにくい。高い耐久性とあらゆる条件下で最高の視認性を実現する。

 また、サファイアクリスタル風防には両面無反射コーティング処理といった光沢処理が施されており、これには高度な技術と設備が必要だ。

 飛行時のコックピットは陽光を受けるため、視認性を確保するためにも光の反射処理はパイロットにとっては重要だろう。

ダイアル

ダイアルの視認性はもちろんだが、それを保護する風防も重要な部分だ。上空を飛行する際は強い日光が当たり、風防が光を反射してしまえば文字盤は見えづらくなってしまう。この反射を抑えるのが、両面に施された無反射コーティングだ。


ブライトリングが選ばれる理由

 ロレックス、オメガ、タグホイヤーといった定番のブランド時計を購入する人が多い中、高級時計に詳しい人は敢えてそこを外しブライトリングを選ぶという玄人もいる。

なぜブライトリングがここまで選ばれるのだろうか。

クロノグラフ

 ブライトリングといえばやはりクロノグラフだろう。ここまで紹介してきたように、ブライトリングの歴史はこの「クロノグラフの歴史」といっても過言ではない。これは時計好きなら誰もが抱くブライトリングに対する共通認識だろう。

 1884年、ブライトリングは創業当時、懐中時計型のクロノグラフとストップウォッチを中心に製造業を営んでいた。この頃からすでに、ブライトリングの性能は高く評価され、いくつもの賞を受賞していた。

 1915年、世界初となる専用プッシュボタンのあるクロノグラフ腕時計を発表し、1936年には英国空軍のサプライヤーとなった。「時計ではなく、計器」という理念に従い、高性能な数々のパイロットウォッチを生み出してきたのは、ブライトリングの大きな功績といえるだろう。

デザイン

 防水性能の高さ、視認性を追求した設計の文字盤。激しい動きや衝撃、気圧にも耐えるケースは大きくて厚みのあるフォルムが特徴だ。

 無骨ながらも優美なデザインは人気で、ブライトリングというブランドを象徴しているようだ。世間のトレンドに反して流行に媚びることなく、普遍的なデザインを持ち続けているブライトリングは、男性を中心に高い支持を受けている。

自社製のムーブメント

 パイロットに提供する時計を製作するブライトリングは、常に時計の機能面に高い探究心をもち、研究を重ねてきた。しかし、腕時計の心臓部にあたるムーブメントだけは他社での製造だった。

 そうした中で、自社ムーブメントの製造に成功したのは2009年のこと。ブライトリングが発表したのは、キャリバー01という346個もの部品から構成されるムーブメントだった。

 このムーブメントの主な特徴は、パワーリザーブが約70時間という点や、24時間いつでもカレンダーの早送りができるといった機能が挙げられる。

Cal.01

ブライトリングのクロノグラフ搭載モデルに多く採用されている自社製ムーブメント、キャリバー01。通常のムーブメントは24時時点から前後3〜4時間は故障を避けるために日付合わせができないが、このキャリバー01では24時間いつでも日付合わせが可能である。


ブライトリングの代表的なコレクション

 堅牢ながら極めて高い性能と機能美を併せ持ったブライトリングの腕時計だが、その中でも抑えておきたい代表的なコレクションをここで紹介しておこう。

「ナビタイマー」

 ブライトリングを代表するコレクションである「ナビタイマー」が生まれたのは、第2次世界大戦終結後の1952年、世界的に航空便が拡大していた時代だ。

 欧米諸国では、農薬散布をはじめとした用途で自家用の飛行機が普及し始めており、民間市場においての航空時計需要も高まっていた。

 航空技術も従来より発展し、それまで以上に操縦に適した腕時計が必要とされていたさなか、登場したのが航空用計算尺を搭載したクロノグラフであるナビタイマーが発表される。

 初代ナビタイマーは飛行機操縦者を中心として大ヒットし、不屈の名作となった。

ナビタイマー B01 クロノグラフ 43

ブライトリング「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43」
自動巻き。Cal.01。石数47。28800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(43mm、厚さ13.6mm)。3気圧防水。107万2500円(税込み)。

「コスモノート」

 1959年に、アポロ計画以前の宇宙探索プランであるマーキュリー計画を契機として、ブライトリングが宇宙飛行士用に手がけたモデルが「コスモノート」だ。

 昼夜の区別がしにくい宇宙空間では、正確な時間を把握するため、24時間方式で時間を知らせる航空時計の制作を依頼されたブライトリングは、この期待に応えるかたちとなってコスモノートを発表した。

ブライトリング「ナビタイマー B02 クロノグラフ 41 コスモノート」
手巻き(Cal.B02)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS×Ptケース(直径41.0mm、厚さ13.0mm)。3気圧防水。世界限定362本。139万1500円(税込み)。

「クロノマット」

 航空用クロノグラフの発展として1941年に発表された「クロノマット」は、ブライトリングの中でも歴史あるコレクションのひとつだ。

 当初、ムーブメントは機械式の手巻きから始まり、後に自動巻きムーブメントが追加された。1975年にはクォーツもラインナップに加わり、現行型の基礎となったのが1984年のモデルだ。

ブライトリング「スーパークロノマット B01 44」
自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径44mm、厚さ14.45mm)。200m防水。110万5500円(税込み)。

「スーパーオーシャン」

 パイロットの腕時計を製作してきたブライトリングだが、ダイバー仕様の腕時計も開発している。

 それが、1957年に登場した「スーパーオーシャン」だ。同機は200mの深水にも耐える防水性能とブライトリングの時計が持つ強度を兼ね備えている。

 2007年には、初代モデルに改良を加えた現行モデルである「スーパーオーシャン ヘリテージ」が登場。初代モデルを彷彿とさせるデザインが話題となった。

「スーパーオーシャン」コレクションにも機能に磨きがかかったラインナップが存在し、500mや1000m、最上級モデルでは2000mもの深さに対応する防水性能を備えたモデルも存在する。

スーパーオーシャン オートマチック 42

ブライトリング「スーパーオーシャン オートマチック 42」
自動巻き(Cal.17)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径42mm、厚さ12.5mm)。300m防水。57万2000円(税込み)。


ブライトリングの人気時計を紹介

 ブライトリングが発売している時計の中でも、特に人気のあるモデルを紹介しよう。

スーパーオーシャン オートマチック 42 ジャパン エディション

 2022年に発売された日本限定モデル。ブライトリングの中でも人気を誇り、「スローモーション」のデザインコードを踏襲しつつ、セラミックスインレイベゼルや鮮明なダイアルなど、現代的でスマートなデザインとなっている。

 針とインデックスにはスーパールミノバが塗布されており、暗い水中でも時刻がわかりやすい。耐衝撃の強さはもちろんのこと、砂・海水に対する耐性も高く、ベゼルは潜水時にも強い逆回転防止付き、防水性は300mとなっている。まさに、スーパーオーシャンの名にふさわしい。

 白で統一されたデザインで洗練されたフォルムは、ブライトリングの機能美が現代的にアレンジされている。

スーパーオーシャン オートマチック 42 ジャパン エディション

ブライトリング「スーパーオーシャン オートマチック 42 ジャパン エディション」
自動巻き(Cal.17)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径42mm、厚さ12.5mm)。300m防水。59万4000円(税込み)。

クロノマット オートマチック GMT 40

「クロノマット」は、「クロノグラフ」と数字を意味する「マテマティクス」を掛け合わせた言葉だ。1941年、回転計算尺をベゼルに搭載した世界初の腕時計として発表された。現在のクロノマットは、1984年当時のブライトリングの社長であるアーネスト・シュナイダーとイタリア空軍のパイロットチームが共同で開発したものとなっている。

 オートマチック GMT 40は、クロノマットの歴史を進め、進化した最新モデルだ。デュアルタイムゾーン表示機能、24時間メモリなどがついている。オニオン型のリュウズにより、調整も簡単だ。空だけに限定せず、海でも陸でも使える多目的なスポーツウォッチとして設計されており、繊細なダイアルカラーとオールステンレススティールのケース・ブレスレットにより、スタイリッシュなデザインに仕上がっている。

クロノマット オートマチック GMT 40

ブライトリング「クロノマット オートマチック GMT 40」
自動巻き(Cal.32)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.5mm)。300m防水。69万3000円(税込み)。

エンデュランス プロ

 エンデュランス プロは、アスリート向けの軽量モデルとして開発されている。44mmという大きめのサイズに対し、64.6gと非常に軽量だ。

 ブライトリングの独自素材である「ブライトライト」はチタンの3.3倍、ステンレススチールの5.8倍も軽い素材だ。その軽量さを維持した上で、熱・摩擦・傷に対しても高い耐性がある。

 ムーブメントには、従来のクォーツの10倍もの精度を誇るとされる、COSC公認のキャリバー82が搭載されている。スタイリッシュな文字盤にクロノグラフが搭載された革新的なデザインは、スポーツシーンに限らず、旅行やビジネスの場面でも有用だ。

エンデュランス プロ

ブライトリング「エンデュランス プロ」
クォーツ(Cal.82)。電池寿命約3-4年。ブライトライトケース(直径44mm、厚さ12.5mm)。100m防水。41万8000円(税込み)。


ブライトリングは時計好きや航空ファンにもオススメ

 ブライトリングはクロノグラフにこだわり大きく躍進した歴史の長いブランドだ。ブライトリングのパイロットウォッチは、ある時は空で戦うエースたちの任務を、ある時は航空便の安全な運行を支える。

 プロフェッショナルたちの命を預かるアイテムとして、精巧で高品質な製品を作り続けてきた。「時計ではなく、計器」という言葉を体現する普遍的なデザインは、ひと目でブライトリングだとわかるほど強い存在感を放っている。

 人類の長い歴史とともに歩んできたロマンあふれるブライリングは、まさに玄人の時計といえるだろう。


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