ロレックスの「認定中古ビジネス」【第3回/全4回】長期的に中古ロレックス市場の主導権は、ロレックスと正規品販売店へ移る!?

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2022.12.31

CPO保証の「魅力」は未知数

 こうした事情を考えれば、今後もしばらくは中古ロレックスの売買の多くは非CPOロレックスが依然として主役になるはずだ。ロレックスを一生モノとして購入したい人には、品質に万全の保証が付いたCPOロレックスは魅力的だし、オススメの新たな選択肢である。

 だが、中古ロレックス市場が盛り上がっているのは「投機での利益」を求めてロレックスに興味を持つ人々が増えているからだ。彼らは、何よりも購入価格の手頃さを求めるはず。彼らが注目して狙うのは、正規品販売店が提供する価格が高めなCPOロレックスではなく、これまで通り中古時計販売業者のところで購入できる非CPOロレックスだろう。


CPOロレックスが中古ロレックスの品質を改善する

 とはいえ、4年後から5年後という短期間でも、中古ロレックス市場でいくつかの大きな変化、改善が起きることが予想される。

 まず確実に起きるのが、非CPOの中古ロレックス、それもコレクター向けのヴィンテージロレックスを除いた、現行モデルに近い中古品の品質や信頼性の改善、向上だろう。

 なぜなら、正規のアフターサービスプログラムで整備され、ロレックス本社が2年の品質保証書を付けたCPOロレックスは間違いなく、今後、中古ロレックス市場における価値や品質、価格設定の「絶対基準」になる。つまり、CPOロレックスが中古ロレックスの「お手本」になるのだ。

©Yasuhito Shibuya
ロレックスはどの時計ブランドよりもアフターサービスに力を入れているウォッチメーカーだ。正規品販売店の多くにサービスカウンターが併設されている。写真は、ロレックス ブティック 六本木ヒルズ。

 その結果、これまで中古時計販売業者が独自基準で決めていた中古ロレックスの価値や価格が、CPOロレックスを基準に再定義されることになるだろう。非CPOロレックスであっても、その品質や使用履歴を店舗が保証したり証明したりしてほしいという顧客からのニーズは確実に高まるに違いない。

 自動車メーカーの認定中古車同様に、例えば「このロレックスはワンオーナーで下取りされたものだ」とか「どこがどのように修理された記録がある」などの付帯情報が、中古時計と共に流通することになるだろう。すなわち、モデルの価値や品質についてより客観的な評価が行われることになる。結果として、非CPOロレックスの品質は高まることになるはずだ。

 これは中古ロレックスの専門店などにとって、それなりの負担増となる。だが、売買される商品の品質向上や情報が充実することは、中古ロレックスを購入したい人にとってはうれしい話だし、若干だがグレーな中古ロレックス市場の少なからぬホワイト化、フェアトレード化になる。これは総合的に考えれば良いことだと筆者は考える。


中古ロレックス市場がさらに活性化する!?

 ところで、CPOロレックスと非CPOロレックスの関係はこの先、どのようなものになるだろうか? 一部には共存共栄関係が確立されて「どちらにとっても利益になる」という楽観的な予測もある。その根拠が、「世界の中古時計市場がさらに拡大・成長する」という市場予測だ。

 確かに、高級時計の中古市場はこれまで成長を続けてきた。そして、CPOロレックスというかたちでのロレックスの中古市場への本気の参入が、この拡大を続ける中古時計市場≒中古ロレックス市場の拡大と活性化につながるというのだ。「Chrono24」の創業者兼共同CEO、ティム・シュトラッケ氏はまさにそんな楽観論者のひとり。この件について氏は「ロレックスさん、パーティーへようこそ」という歓迎のコメントを寄せている。

 もし、その予測通りに共存共栄関係が確認されれば、ロレックスをお手本にして、ビッグブランドの中からも、新たに認定中古ビジネスに乗り出す高級時計ブランドが増えるかもしれない。


だが長期的には間違いなく……

 とはいえ、10年後、20年後の中古ロレックス市場を考えてみると、中古時計市場、中古ロレックス市場にとって、そして誰よりも中古時計販売業者にとって、このCPOロレックスは「黒船級」の大事件であり、筆者は「明治維新のような大変革が間違いなく起きる」と考えている。

 では、どんな大変化が起きるのか? おそらくそれは、一部の中古時計販売業者が恐れている事態、すなわち、中古ロレックス市場のリーダーシップが自分たちからロレックスと正規品販売店に移り、これまでのような「美味しい市場」ではなくなることだろう。筆者は、日本の特殊な中古ロレックス市場の過去の事情からこの事態、中古ロレックス流通の大変革が日本に、意外に早くやって来るのではないかと考えている。

 だが、原稿の文字数がここまでですでに4000字を大きく超えてしまった。本稿は前中後編の3編でまとめるつもりだったが「CPOロレックスの展開が日本で始まったら」というテーマの次回、最終編(第4回)に持ち越すことをご容赦いただきたい。


ロレックスの「認定中古ビジネス」【第2回/全4回】狙いは二次流通市場におけるロレックスの品質と価格の適正化と安定化

https://www.webchronos.net/features/89272/
時計市場は低迷している? 人気モデルの下落から見える「需要と供給」の現状を考察

https://www.webchronos.net/features/85392/
ロレックス「GMTマスター Ⅱ」新作はガチの左利き向け!? その理由を解説

https://www.webchronos.net/features/78710/