製法は謎!? ロレックス「オイスター パーペチュアル」のバルーン文字盤に迫る

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2023.04.12

2023年の新作では色物扱いされたロレックスのパーペチュアル。ターコイズブルーの文字盤に、カラフルなバルーンの組み合わせは確かに色物だ。しかし、これはロレックスにしかできない文字盤には違いない。目立ちプロダクトで技術力を見せる。ロレックスのうまさが際立つ新作だ。

オイスター パーペチュアル

広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2023年4月12日掲載記事


ひと際目立つカラフルな“バルーン”

 一時期、中古市場で暴騰したターコイズブルーの「オイスター パーペチュアル」。発色させにくい中間色を、あえてラインナップに加えたのは、他社には真似できないというロレックスのアピールだったに違いない。しかし同社はこのモデルをすぐにディスコンにし、今年はそこに、カラフルなバルーンを加えた。

オイスター パーペチュアル

鮮やかなターコイズブルー再び。オイスター パーペチュアル 31、オイスター パーペチュアル 36、オイスター パーペチュアル 41には、ターコイズブルーにバルーンを描いた文字盤が採用された。写真はオイスター パーペチュアル 41。自動巻き(Cal.3230)。28石、2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm)。100m防水。76万1200円(税込み)。

 ロレックスが高級時計市場でリードを保てた一因は、間違いなくツヤのあるラッカー文字盤にある。とりわけ、オニキスを思わせるブラックのラッカー文字盤は、ロレックスのプロフェッショナルモデルを、ありきたりなツールウォッチとは別物とした。

 同社は長らくラッカー文字盤のバリエーションを増やさなかったが、2020年は、一転してバリエーションを増やした。キャンディピンク、ターコイズブルー、イエロー、コーラルレッド、グリーンの5色。発色の難しい色ばかりを選んだのは、技術力を見せたいためか。少なくとも、これらの色は、PVDはもちろん、メッキでも鮮やかな発色を出すのは難しい。

 もっとも、試みとしては早すぎたのかもしれない。ロレックスは大多数の色を廃盤にした。ある関係者は「オメガがPVDとCVDでより多くの文字盤バリエーションを出したのが廃盤の理由」と述べたが、あるいはその通りかもしれない。

 ついにロレックスはカラフルなラッカー文字盤を止めたのか、と思っていたところ、なんと2023年は、ターコイズブルー文字盤に、カラフルなバルーンを描いたモデルをリリースした。ただ絵を描いたのかと思いきや、さにあらず。

オイスター パーペチュアル

「セレブレーションモチーフ」と称される新しい文字盤。キャンディピンク、ターコイズブルー、イエロー、コーラルレッド、グリーンの5色が使われている。採用するのは、オイスター パーペチュアル 31、オイスター パーペチュアル 36、オイスター パーペチュアル 41の3モデル。

 パーペチュアルに描かれたバルーンには、キャンディピンク、ターコイズブルー、イエロー、コーラルレッド、グリーンの5色が使われている。今までの転用だろうと思ってみたところ、なんとプリントにありがちな盛り上がりがない。バルーンはどれも完全にフラットな面を持っている。

 普通のペイントで、こういった仕上げを得るのはまず不可能だ。対してロレックスの担当者は「バルーンの彩色は転写によるもの」と説明した。

 転写とは、文字盤にロゴやインデックスを施すために使われる手法だ。ただし、鮮やかな発色を得るには、何度も転写を繰り返す必要がある。F.P.ジュルヌやグランドセイコーの印字が盛り上がっている理由だ。薄く印字を施すこともあるが、その場合は、どうしても発色が悪くなる。

 唯一の例外は、パテック フィリップの印字だ。具体的な製造工程を見たわけではないが、かつてのパテック フィリップは、薄くて鮮やかな印字を得るため、文字盤に印字を電着させていたと聞く。

オイスター パーペチュアル

 ではロレックスはどうなのか? ラッカーで仕上げた文字盤に電着で色を施すのは難しいだろう。かといって、電着以外で鮮やかな発色と薄さを両立できるとは思えない。

 ロレックスは新しい製法を開発したのかもしれないが、同社の常で、製法の詳細はわからない。ただ、この文字盤が、今のロレックスにしか作り得ないものであることは、容易に想像できる。

 正直、ターコイズブルーの文字盤に、カラフルなバルーンの組み合わせは確かに色物だ。しかし、そこに非凡な技術を盛り込んで見せたのは、さすがロレックスと言うほかない。2022年の鮮やかなラッカー文字盤に同じく、他社には真似できないだろうという、ロレックスのアピールなのかもしれない。


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