同時代の天才時計師 F.P.ジュルヌの全貌「マニュファクチュール F.P.ジュルヌ」

FEATURE本誌記事
2023.04.19

ジュネーブのアルクビューズ通りに面したモントル・ジュルヌSAには、本社、時計師による組み立て工房、そして地板や受け、歯車などを製作する製造部門がある。年産1000本以内にもかかわらず、内製率は95%。設計、研究開発から、部品の製造、時計の組み立てまでを行うというから、一大マニュファクチュールだ。久々に訪れた工房は、F.P.ジュルヌの時計同様、いっそうの進化を遂げていた。

マニュファクチュール F.P.ジュルヌ

本社1階の工房では、地板や受け、レバーや文字盤の枠などを製造する。マシニングセンターやNCフライス盤、ワイヤ放電加工機などを使うのは他社に同じ。しかし切削のスピードを遅くすることで、高精度を保っているとのこと。ファナック、ウィルミン、GFマシニングソリューションズなどの工作機械はいずれも最新だ。
奥山栄一、三田村優:写真 Photographs by Eiichi Okuyama (Astronomic Souveraine), Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]


最新の工作機械だけではない、高い加工精度をもたらすノウハウ

放電加工機

こちらは、2台の放電加工機。これも1000本以内という年産数を考えれば非常に贅沢だ。

 本社の1階で機能部品を製造するマニュファクチュール F.P.ジュルヌ。責任者のファビアンはこう語り出した。「私がF.P.ジュルヌで働いて15年になる。昔と比べてアトリエはすべて変わったよ。もっとも私は、ジュルヌに最新のものを提案するよう心掛けているけどね」。なるほど製造部門に並んだウィルミンやGFマシニングソリューションズ製のマシニングセンターは、大半がこの数年で導入されたものだ。だが、新しい機械だけで、精度が良くなるわけではない。

マニュファクチュール F.P.ジュルヌ

 F.P.ジュルヌの工房が、公差±5ミクロン以内という高い加工精度を実現できた理由はいくつかある。ひとつがスピードだ。工房では1日中工作機械を稼働させているが、切削のスピードを遅くし、ツールの交換にも時間を掛けているとのこと。年産1000本以内という生産本数を考えると、工房の規模はかなりのもの。それを無理に稼働させないことが、高い加工精度の秘訣だという。「切削速度を落としているので、ツールへの負荷も小さい。だから、基本的にはツールが折れるようなことはないよ」(ファビアン)。

ウィルミンのマシニングセンター401S2

ウィルミンのマシニングセンター401S2には、接触式センサーであるレニショーのOMP40が取り付けられていた。上下の穴の寸法を1μm以内の精度で測定できる。測定はパレットごと。採寸の自動化により、頻繁に部品を交換しても、高い加工精度を維持できるようになった。

 もうひとつが、細かい採寸である。それを象徴するのが、マシニングセンターに取り付けられたレニショー製のOMP40という計測用の探針(プローブ)だ。これは部品を載せたパレットごとに、部品の寸法を測定するというもの。加工の原点が厳密にチェックできるようになった結果、切削する部品を替えても、高い加工精度を保てるようになった。F.P.ジュルヌのような少量多品種を旨とするメーカーにはうってつけだ。「私たちの会社は、切削時の寸法管理が大変だし、ツールの数も大変多い。しかし、こういう機械のおかげで、素材や部品などは5分で替えられるようになった」(同前)。

自動ペルラージュマシン

注目すべきが、自動ペルラージュマシンだ。採用は2016年だが、この機械は20年製。右は18Kゴールド製の地板にペルラージュを加える工程。ツールの先端が地板に接触することで、模様を施していく。加工のたびにエアでゴミを飛ばし、傷が付かないようにしている。また、一定の回数ペルラージュを施すと、紙ヤスリでツールの先端を自動的に磨くようになっている。

 いっそうの進化を感じさせるのが、工房の隅に置かれた自動ペルラージュマシン(!)である。かつては別の部署で行われていた作業は、クラテックス製の機械を導入することで、2016年以降、製造部門に移管されたとのこと。ゴールドやアルミニウム製の地板を機械にセットすると、ツールが移動して、自動的にペルラージュを施していく。

アルミニウム製の地板と、ペルラージュを施したサンプル

アルミニウム製の地板と、ペルラージュを施したサンプル。軟らかいアルミニウム素材にペルラージュを施せるのは、自動機械ならではだ。

 地板などの加工精度が上がったことに加え、この機械の導入により、ペルラージュの仕上げは明らかに良くなった。とはいえ、単なる自動ではないのはF.P.ジュルヌだ。ペルラージュを施すツールの回転速度はやはり遅く、模様をひとつ施すたびに、エアが切削粉を飛ばしていく。加えて、仮にバリが出た場合は、機械が自動的に止まるようになっている。追求するのは、あくまでも、速度より質というわけだ。

 工房の奥には、歯車などの加工部門がある。15年には歯割りが可能な旋盤を導入することで、部品の仕上がりがいっそう良くなった。こういった改善は、仕上げ部門でも進んでいた。現在、F.P.ジュルヌの工房では、18Kゴールド製の地板や受けなどの面取りを、革製のディスクで行っている。厚みと堅さの異なる4枚のディスクを素材に当て、角を丸めるのは従来に同じ。しかし、ディスクと研磨材が良くなった結果、面取りの質が改善されたという。

18Kゴールド製の受けを磨くためのディスク

18Kゴールド製の受けを磨くためのディスク。木のように見えるが革製である。研磨材とディスクの質が良くなった結果、面取りのクォリティがさらに向上したとのこと。

歯車を製造するためのマシン

歯車を製造するためのマシン。トルノス製のフィーダーと旋盤がセットになっている。設備自体は他社にもあるが、工場の清潔さに注目。

 同じように見えて、さらにディテールを熟成させたF.P.ジュルヌの時計。最新の機械は、もちろん大きな理由である。しかし、いっそう重要なのは、クォリティという意識が隅々まで浸透していることだろう。ファビアンはこうも追加した。「重要なのは清潔さ。10ミクロンのエラーが出ないよう、常に工房内をクリーンにしているよ」。

現在、同社は時計メーカーとしてはおそらく唯一、アルミニウム製の地板と受けのムーブメントを製造。軟らかいアルミニウムを加工し、仕上げを施すのはかなり難しい。右はアルミニウム製の受けにジュネーブ仕上げを施す工程。左はその仕上がり。ツールの回転速度を遅くすることでゴールドに遜色ない仕上げを得た。



Contact info: F.P.ジュルヌ東京ブティック Tel.03-5468-0931


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