IWC/パーペチュアル・カレンダー Part.3

FEATUREアイコニックピースの肖像
2022.07.29

今でこそ当たり前になった永久カレンダーというメカニズム。その復興は1970年代に始まるが、85年のIWC「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー」がなければ、今のような形では広まっていなかったかもしれない。工芸品であった永久カレンダーを、使えるものに進化させる。クルト・クラウスが目指したユニークな設計思想は、初出から30年以上たった今なお、際立った価値を持ち続けている。

星武志、三田村優:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas), Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年5月号掲載記事]


PORTUGIESER PERPETUAL CALENDAR 42
82000系ムーブメントを搭載するブティックエディション

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42“ブティックエディション”

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42“ブティックエディション”
小型化により使い勝手を向上させた新しいパーペチュアル。これは鮮やかな文字盤を持つブティック限定版だ。編み込んだカーフのストラップもブティック限定。自動巻き(Cal.82650)。46石。2万8800
振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG( 直径42.4mm、厚さ13.8mm)。3気圧防水。394万9000円(税込み)。

 7日巻きの自動巻きを載せたポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーは、ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダーの弱点を克服した傑作だった。もっとも、長いパワーリザーブを実現するためムーブメントは大きくなり、それは結果として、大きなケースをもたらすこととなった。筆者はポルトギーゼらしい大ぶりなケースを好むが、使う人を選ぶのは否めない。

 対してIWCは、新しい自社製ムーブメントの82系を搭載した、小径のモデルを完成させた。それが「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー42」だ。基本設計は従来に同じだが、6時位置にムーンフェイズが移動。また年の代わりに閏年表示が加わった。年表示を省いたのは、収めるスペースを確保できなかったため。IWCならではの分かりやすい特徴はなくなったが、普段使いには十分だろう。

 搭載する82000系は、本誌でも称賛した次世代のベースムーブメントだ。セラミックス製の部品を使ったペラトン自動巻きはデスクワークでもよく巻き上がるうえ、フリースプラングテンプの採用で耐衝撃性も高い。約60時間のパワーリザーブはやや短いが、高い巻き上げ効率を考えれば、普段使いで困ることはなさそうだ。また、ムーブメントが小さくなった結果、ケースは「常識的」なサイズに収まった。サイズの関係でポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーを避けていた人も、このサイズなら使えるのではないか。

 1985年以降、時間をかけて熟成を重ねてきたIWCのパーペチュアル・カレンダー。世間には、工芸的な価値を強調した複雑時計は数多く見つかるが、実用性を追求したものはさほど多くない。その数少ない例外にして先駆者が、IWCの永久カレンダーなのである。複雑時計を使えるものにする、というクルト・クラウスの設計思想は、時を超えて、燦然と輝き続ける。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42“ブティックエディション”

(右)42mmモデルの特徴が、年表示に替えて採用された閏年表示だ。R&D部門の責任者であるステファン・イーネン曰く「(収める)スペースがないため、4桁の年表示を閏年表示に改めた」とのこと。年表示を持たないため、カレンダーの調整は相対的には楽になった。(左)3時位置には日付表示が備わる。なお本作が搭載する永久カレンダーモジュールは、ダ・ヴィンチの系譜にあるものの、直接的な設計は自社製クロノグラフのキャリバー89360に追加されたものに倣っている。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42“ブティックエディション”

ケースサイド。52000系を搭載した永久カレンダーに比べて、ケースは1mm程度しか薄くなっていない。しかし、写真が示す通り、ケースはかなり薄く見える。特徴的なのは、裏蓋の処理。一段タメを設けることで、本来厚い裏蓋を薄く見せている。

ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー 42“ブティックエディション”

(右)6時位置には月表示とムーンフェイズ表示が備わる。年々立体感を増すポルトギーゼらしく、月と星は立体的なレリーフになっている。立体的な針も、ポルトギーゼの魅力のひとつだ。(左)搭載する82000系は、52000系からペラトン自動巻きを、89000系から一部の駆動輪列を転用した新規設計の3針自動巻き。ヒゲゼンマイの変形防止ガードを持つほか、テンワの慣性モーメントは12mg・㎠もある。



Contact info: IWC Tel.0120-05-1868


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