タグ・ホイヤー/アクアレーサー Part.2

FEATUREアイコニックピースの肖像
2023.01.23

1970年代後半に、ホイヤーはダイバーズウォッチという全く新しいジャンルに活路を見出した。その挑戦は成功を収め、タグ・ホイヤーは一大メーカーへと脱皮を遂げることになる。同社のアヴァンギャルドな試みを反映した歴代ダイバーズウォッチとタグ・ホイヤー アクアレーサーを総ざらいする。

アクアレーサー width=

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]


ホイヤーダイバーからタグ・ホイヤー アクアレーサーへ
~多様性の収束とアイコニックデザインの確立~

1979年以降、ダイバーズウォッチの開発に傾倒するようになったホイヤー。80年代に入ると、その歩みは加速し、わずか10年で7種ものコレクションを擁するに至った。その要素を収斂させて生まれたのが、2004~05年のタグ・ホイヤー アクアレーサーである。

2000 アクアグラフ

2000 AQUAGRAPH
ダイビングウォッチの原点に回帰した野心作。社内スタッフに加えて、プロダイバーや海底探査のエキスパートなど40名を超すメンバーが開発に関与した。本作は、水中で操作可能な世界初の機械式クロノグラフである。自動巻き。SSケース(直径42mm)。500m防水。

 1980年代以降、ホイヤー(85年以降はタグ・ホイヤー)は、ダイバーズウォッチのコレクションを一気に拡張させた。83年に6大ダイビング機能を備えた「2000シリーズ」を追加した同社は、84年にはRef. 844(とその派生モデル)を「1000シリーズ」に改め、プレミアムな「3000シリーズ」も加えた。加えて89年にはクロノグラフの「スーパー2000」を、翌90年には女性を意識した「1500シリーズ」と、ロゴを強調した「4000シリーズ」を、そして92年にはもっともプレステージ性の高い「6000シリーズ」を追加することで、クロノグラフの専門メーカーは7種ものダイバーズウォッチコレクションを擁する、総合ウォッチメーカーへと脱皮を遂げたのである。

2000 アクアレーサー

2000 AQUARACER
アクアレーサーの名称が与えられた初のモデルは既存の2000 スポーツを置き換えたもの。写真の自動巻き以外にも、直径38.4mmのクォーツモデルが存在した。このデザインは、2014年以降リバイバルを果たすことになる。自動巻き。SSケース(直径41mm)。300m防水。

 そんな同社のダイバーズウォッチがさらに姿を変えたのは、2000年以降である。1999年にタグ・ホイヤーを買収したLVMHグループは、CEOに気鋭のジャン・クリストフ・ババンを就任させた。彼がまず取り組んだのは、ユニークな機構の開発と、それ以上に、増えすぎたラインナップの整理だった。2002年には、1500シリーズ、4000シリーズ、そして6000シリーズが生産中止となり、ダイバーズウォッチのコレクションは基本的に、2000シリーズに集約されたのである。

初代アクアレーサー

AQUARACER[1st Generation]
2000シリーズがアクアレーサーとなって初のコレクション。基本的なデザインは2000 クラシックを踏襲するが、スペックや細部は改良された。自動巻きの他にもクォーツとクロノグラフが存在する。2011年まで製造。自動巻き。SSケース(直径38.4mm)。300m防水。

 正統派のスタイルを持つRef. 844(およびその派生モデル)と後継機の1000シリーズに対して、モダンなスタイルを持つ2000シリーズは、そもそも拡張性の高いコレクションだった。ちなみになぜ2000という名称が与えられたのかは不明だが、おそらく、同社は、この年に発表されたクロノグラフムーブメントの2000系を打ち出したかったのだろう。タグ・ホイヤーの依頼を受けたレマニアが、デュボア・デプラに設計させたDD2000系モジュール(レマニア名LWO283)は、クォーツでも機械式ムーブメントでも動く、クロノグラフモジュールの傑作だった。クロノグラフメーカーとして名を馳せたホイヤーが、このモジュールに賭けていたことは想像に難くない。おそらくこれが、1000シリーズの前に、2000シリーズが発表された理由ではなかったか。

第2世代アクアレーサー

AQUARACER[2nd Generation]
ハイスペックに振り、デザインを一新したのが第2世代である。300mに加えて防水性能500mのモデルが追加された。他にもクロノグラフやラージデイトの自動巻きモデルなどが用意された。2012年まで製造。自動巻き。SSケース(直径43mm)。500m防水。

 さておき、2000シリーズはタグ・ホイヤーのダイバーズウォッチを、一貫して牽引するコレクションとなった。96年、第2世代に進化した2000シリーズは、98年には「クラシック」「スポーツ」「エクスクルーシブ」の3ラインを持つ第3世代となった。LVMHグループの傘下に収まった後、2000シリーズは第4世代の(正しくは2000 スポーツを置き換える)「2000 アクアレーサー」(04年)となり、翌05年には2000シリーズの名前が廃され、初代「アクアレーサー」となった。文字盤にAQUARACERの文字が記されるようになるのは、この05年モデルからである。ブランディングに長けるLVMHグループは、分かりやすい名称こそが、ブランド化の鍵と理解していたのである。

 ちなみに、アクアレーサーには先駆けとなるようなモデルが存在した。それが03年の「アクアグラフ」(正しくは2000 アクアグラフ)である。2000シリーズの20周年を祝ってリリースされた本作は、自動ヘリウムエスケープバルブを持つほか、誤操作を起こしにくい自動ロックシステム付きのベゼル、そして世界で初めて、水中でクロノグラフが操作可能な機械式クロノグラフだった。あくまで想像だが、タグ・ホイヤーはこの名前に触発されて、アクアレーサーという新しい名称を作ったのではないか。事実、LVMHグループはアクアグラフという商標を02年に、アクアレーサーのそれを2年後の04年に出願している。

第3世代アクアレーサー

AQUARACER[3rd Generation]
やや過剰だった第2世代を、クラシカルでシンプルに仕立て直したのが第3世代である。直径41mmとわずかに小さくなり、デザインもオーソドックスに変更された。以降のアクアレーサーのコンセプトを定めた世代と言える。自動巻き。SSケース(直径41mm)。500m防水。

 2005年のアクアレーサーは、第2世代の2000シリーズ クラシックを思わせるデザインと構成を持つものだった。突起を設けた多角形の回転ベゼルに、12時のみアラビア数字のインデックス、そして汎用性の高い薄いケース。もっとも、04年モデル以降、アクアレーサーの防水性能は200mから300mに向上し、ダイバーズウォッチとしての基礎体力は向上した。

 その6年後に発表された第2世代のアクアレーサーは、同コレクションのプレステージを高める試みだった。ケース素材はステンレススティール×ラバーと、ステンレススティール×ゴールド。加えて防水性能は500mに向上し、自動ヘリウムエスケープバルブも備わった。そう言って差し支えなければ、これはスーパープロフェッショナルと、ラグジュアリーさを前面に打ち出した、6000シリーズの後継機と言えるモデルだった。よりトレンドを意識したのが、13年の第3世代以降である。500m防水に、自動ヘリウムエスケープバルブは前作に同じだが、ケースが43mmから41mmに縮小され、併せてベゼルが細くなったため汎用性は大きく増した。もっとも、この時代まで、アクアレーサーにはまださまざまなデザインが混在しており、明快さにはいささか欠ける。

第4世代アクアレーサー

AQUARACER[4th Generation]
より実用性を求めるため、300mモデルにフォーカスした第4世代。SSに加えてセラミックベゼルも用意された。サイズは41mmと43mmの2種類。自動巻き(Cal.5)。25石または26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径41mm)。300m防水。

 多彩なデザインを収斂させ、質をさらに向上させたのが16年以降のアクアレーサーとなる。16年の第4世代、そして21年の第5世代に共通するのは、アクアレーサーらしいデザインと、良質な外装である。もちろん、Ref. 844からの伝統である、戦略的な価格も相変わらずだ。

 紆余曲折を経て、ついに明快なアイコンに成長を遂げたタグ・ホイヤー アクアレーサーコレクション。コレクションの外殻を完成させたタグ・ホイヤーは、2022年に伝説的なモデルを加えた。100m防水を誇る「タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル1000 スーパーダイバー」である。

アクアレーサー

AQUARACER[Current Series]
質感を改善した第5世代。SSに加えてTiが追加され、ベゼル上面もポリッシュのセラミックス製に。バックルも最大1.5cmの調整が可能。自動巻き(Cal.5)。25石または26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。Tiケース(直径43mm)。300m防水。40万7000円(税込み)。



Contact info: LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7054


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