ムーンフェイズの機構と進化、代表的モデル

FEATURE時計機構論
2019.08.01

ランゲ1 ムーンフェイズ

2017年発表の「ランゲ1・ムーンフェイズ」に組み込まれているムーンフェイズは、122.6年で1日分の誤差が累積する超高精度タイプだが、月のモチーフをふたつ載せた1枚のムーンディスクで表示する方式とは異なる。最上部に2個の月を回転アームで支える独立パーツのムーンディスク、その下に背景を成す天空ディスク、そして最下部にムーンディスクを駆動する歯車を配置した特殊構造だ。天空ディスクは24時間で1回転して、デイ/ナイト表示として機能する一方で、ムーンディスクのほうは、半回転で平均朔望月29日12時間44分3秒と設定した周期を示す仕組み。左は、星空(ナイト)と青空(デイ)を半々に描いた天空ディスク。
ランゲ1・ムーンフェイズ

A.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1・ムーンフェイズ」
新型の自社製ムーブメントに置き換え、デイ・ナイト表示を一体化したムーンフェイズを搭載する「ランゲ1・ムーンフェイズ」の2017年発表モデル。手巻き(Cal.121.3)。47石。2万1600振動/時。18KWG(直径38.5mm)。450万円(税別)。㉄A.ランゲ&ゾーネ☎03-4461-8080

 ここでは便宜上「122年タイプ」と勝手に呼ばせていただくが、122年(もしくは125年)といった高精度ムーンフェイズを搭載する現行品は、ざっと思い浮かぶだけでも、パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲ、A.ランゲ&ゾーネ、ジャガー・ルクルト、IWC、それにロレックス、カルティエ、ジャケ・ドロー、ショパールなどに存在する。

 同タイプで非常に興味深いアプローチを展開しているのがドイツのA.ランゲ&ゾーネ。『クロノス日本版』2017年3月号(第69号)にギズベルト・L・ブルーナー氏が寄稿した記事の一覧表にあるように、A.ランゲ&ゾーネは、2001年発表の「ランゲマティック・パーペチュアル」に始まり、2017年の「ランゲ1・ムーンフェイズ」の新バージョンまで、ほぼ毎年のように発表されるムーンフェイズ搭載モデルのほとんどが122.6年で1日の誤差という高精度の機構を持つ。さらに「1815ムーンフェイズ“エミール・ランゲへのオマージュ”」(1999年)や「1815ムーンフェイズ“F.A.ランゲへのオマージュ”」(2010年)、「リヒャルト・ランゲ・パーペチュアルカレンダー“テラ・ルーナ”」(2014年)の3つは、なんと122.6年どころか1058年に1日の超絶級の高精度だ。

 さらに興味をそそるのは、高精度ムーンフェイズのディスクの歯数がよくある135歯ではなく、モデルによって160歯や115歯、90歯というように、いつくか使い分けているにもかかわらず、122.6年で1日の誤差という同精度を実現している点である(詳しくはwebChronos 2017年6月23日公開「ムーンフェイズ再発見 - ムーンフェイズの精度を追求するA.ランゲ&ゾーネ【月面博覧会】」参照)。このことからも、A.ランゲ&ゾーネがムーンフェイズに対して非常に強いこだわりを持ち、独創的な開発を続けてきたことが分かる。

 次は高精度のさらに上をゆく超高精度ムーンフェイズや、伝統的なスタイルにとらわれない表示への取り組みについて紹介する。