「均時差」とは何か? 均時差表示付きのモデルを紹介し解説

FEATURE時計機構論
2019.11.25

ブレゲ「No.1160」

 均時差表示付きの歴史的に最も有名な時計は、アブラアン-ルイ・ブレゲがフランス王妃マリー・アントワネットのために製作したとされる超複雑時計「No.160」(1783〜1827年製作)だ。この時計には、年間の均時差の変化をプログラミングした特異なカムと、その形状をレバーがなぞって指針を動かす複雑な仕組みが内蔵されていて、これが永久カレンダー機構と連動しながら当日の均時差が何分になるかを示す。ただし、針が指す目盛りの数字を使って、メインの時分針が示す平均太陽時と均時差から真太陽時を自分で計算しなくてはならない。

ブレゲ マリー・アントワネット

ブレゲ「No.1160」
「マリー・アントワネット」と通称される超複雑時計「No.160」を現代に復刻した「No.1160」(参考品)にも、永久カレンダーと連動する均時差表示機能が搭載されている。8時位置にソラマメのような形をした均時差カムがあり、10時位置を支点とする長い針によってプラス/マイナスの差を示す。図版の見方:均時差カムの原理は地球の公転軌道。ここでは「均時差=平均太陽時−真太陽時」、単位は「分」とする。2月12日の真太陽時+14分は、平均太陽時より太陽の南中が14分後になり、12時14分に子午線を通過することを意味する。つまり太陽が遅れるから、計算式による均時差は−14分。逆に11月3日の−16分は、平均太陽時より南中が16分早く11時44分に子午線を通過することを意味し、均時差としては+16分となるわけだ。

「マリー・アントワネット」と呼ばれてきたこの懐中時計の現代的なレプリカの「No.1160」(2008年発表)にもまったく同様の均時差表示機構が備わっているが、近年の腕時計にもごくわずかながらいくつかの搭載モデルがある。以下に取り上げたモデルは、いずれも永久カレンダーと連動する均時差カムとレバーの仕組みを搭載している点で、基本的にブレゲと同様だ。

 針によって均時差の差分を示すオーデマ ピゲの「ジュール・オーデマ イクエーション オブ タイム」は、太陽のモチーフを付した大きなセンター針とベゼルもしくはフランジに記された数字でこれを読み取る。永久カレンダーや日の出と日の入りを示すサンライズ/サンセット表示、高精度ムーンフェイズなども備わるコンプリケーションだ。

ブランパン「ヴィルレ ランニング イクエーション」

 これをさらに洗練させたのが、ブランパンが2004年に発表した「ヴィルレ ランニング イクエーション」だ。このモデルには、センターに2本の分針があり、ひとつは平均太陽時を、太陽のモチーフを付したもう1本の針のほうは、年間の均時差の変動を反映しながら真太陽時における分を示すという、腕時計では初となる画期的な均時差表示機構が備わる。このような連続作動の均時差表示を英語で「ランニング・イクエーション」と呼ぶわけだが、ユーザーは均時差を頭で計算せずに針の位置から真太陽時を直接読み取れるところがまさに画期的なのだ。しかもブランパンは、従来の針と目盛りによる均時差表示も併せて搭載するという念の入れようである。

ヴィルレ ランニング・イクエーション

ブランパン「ヴィルレ ランニング・イクエーション」
永久カレンダーに加え、真太陽時の独立した分針を加え、その時刻を常時連続して示す“ランニング イクエーション”機構を初めて搭載して2004年に発表された同モデルの現行バージョン。写真では平均太陽時10時11分に対し、真太陽時10時9分を示す。また、1時位置に均時差のプラス/マイナス表示も搭載。6時の窓にソラマメ型の均時差カムが見える。自動巻き(Cal.3863)。39石。パワーリザーブ約72時間。Pt950(直径42mm、厚さ11.5mm)。3気圧防水。限定88本。1875万円(税別)。㉄ブランパン ブティック銀座☎03-6254-7233
マリーン エクアシオン マルシャント 5887

ブレゲ「マリーン エクアシオン マルシャント 5887」
永久カレンダー連動均時差表示やトゥールビヨンなど、ブレゲ伝統の複雑機構を搭載して2017年に発表。フランス語の品名「エクアシオン マルシャント」は、ランニング イクエーションの意味。アブラアン-ルイ・ブレゲのマリー・アントワネット No.160と同様の均時差カムを用い、左のブランパンのように独立したもう1本の分針で真太陽時を常時示す。自動巻き(Cal.581DPE)。57石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Pt950(直径43.9mm、厚さ11.75mm)。10気圧防水。2494万円(税別)。㉄ブレゲ ブティック銀座☎03-6254-7211

 同じくセンターに2本の分針を置くランニング・イクエーションのタイプとしては、2017年に老舗ブランドから超大作が相次いで発表された。ひとつはヴァシュロン・コンスタンタンの「レ・キャビノティエ・セレスティア・アストロノミカル・グランド・コンプリケーション 3600」である。その名が語るように伝統的な天文学と時計学を取り入れ、23もの複雑機構を搭載した驚異のモデルだ。

ブレゲ「マリーン エクアシオン マルシャント 5887」

 そしてもうひとつは、ブレゲが発表した「マリーン エクアシオン マルシャント 5887」。フランス語の「エクアシオン マルシャント」とはランニング・イクエーションの意味だ。永久カレンダー連動式の均時差表示とトゥールビヨンは、これらの元祖たる初代ブレゲの伝統が現代的なアレンジによって見事に生かされている。

「マリーン エクアシオン マルシャント 5887/ブレゲと「均時差」かくも永き蜜月」にも詳細な説明があるのでぜひ参照されたい。
https://www.webchronos.net/features/14272/

パネライ「ラストロノモ ルミノール 1950 トゥールビヨン ムーンフェイズ イクエーションオブタイム GMT-50mm」

パネライは2010年以来、均時差表示付きのモデルを発表しているが、特徴的なのは、プラス/マイナスを6時位置にある線形カーソルで表示し、その移動によって均時差の現在値を示す方式を採っている点。この水平リニアインジケーターは、2018年のこの天文複雑時計にも採用されている。また、日の出/日の入り表示と、裏蓋側に非常に精巧なムーンフェイズも備わる。

ラストロノモ ルミノール 1950 トゥールビヨン ムーンフェイズ イクエーションオブタイム GMT-50mm

パネライ「ラストロノモ ルミノール 1950 トゥールビヨン ムーンフェイズ イクエーションオブタイム GMT-50mm」
手巻き(Cal.P.2005/GLS)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約96時間。Ti(直径50mm)。10気圧防水。受注生産。予価2600万円(税別)。㉄オフィチーネ パネライ☎0120-18-7110