グランドセイコー、超高精度の新型ムーブメントを搭載した新型モデルを発表

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2020.03.05

2020年3月、ブランド誕生60周年を迎えたグランドセイコーは、まったく新しい自動巻きムーブメントであるCal.9SA5を搭載した新作グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80Hours」を発表した。現時点で、これはもっとも優れた量産型自動巻きムーブメントのひとつ、と言ってよいだろう。

ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80Hours

グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80Hours」

 このムーブメントは、既存の9S系とはまったく異なる自動巻きムーブメントである。地板の拡大によるムーブメントの薄型化と、ダブルバレルの採用によるロングパワーリザーブ化、そしてセイコーフリースプラングなどの採用により、理論上はさらなる高精度化を果たした。

薄型化と高精度化を図った新型自動巻き

 既存の9S自動巻きは、堅牢で高精度な自動巻きだが、決して薄いムーブメントではなかった。対してセイコーインスツルの技術陣は、地板の直径を拡大し、自動巻き機構と輪列を同じレイヤーに置くことで、ムーブメントの薄型化を果たした。果たしてヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80Hoursのケース厚は11.7mmに留まる。なお自動巻き機構は、現行の9S系に同じく標準的なリバーサーだが、これを並列に置くことで厚みを減らしている。

 リバーサーの詳細は不明だが、設計に携わったセイコーインスツルの藤枝 久氏は「リバーサーは小型化した」と説明する。小さなリバーサーは慣性が小さいため巻き上げ効率に優れる反面、長期の使用で摩耗しやすい。しかし、セイコーは9S自動巻きを通じてリバーサーの設計には十分なノウハウを持っており、さらなる小型化に踏み切れたのだろう。

Cal.9SA5

9SA5の動力源となるのはツインバレル。コンパクトな主ゼンマイを並列に置くことで、省スペース化と長いパワーリザーブの両立に成功した。なお、主ゼンマイのトルクは既存の9Sキャリバーにほぼ同じとのこと。

 約80時間という長いパワーリザーブを可能にしたのは、並列に置かれたダブルバレルと、新しいデュアルインパルス脱進機である。香箱をふたつに増やすことで、既存のハイビート36000のパワーリザーブ約55時間は、約80時間まで延びた。なお、主ゼンマイの素材は明らかにされていないが、既存の9Sに同じくSPRON530だろう。

軽量化された新型脱進機

 藤枝氏は「ダブルバレルだけではなく、新しいデュアルインパルス脱進機もロングパワーリザーブに寄与した」と述べる。これはデテント式とスイスレバー式を合体させたような脱進機だが、アンクルの拘束角は既存のスイスレバーに同じとのこと。ただし軽いという特徴があり、それがロングパワーリザーブに寄与したと語る。なお、セイコーインスツルの開発チームは、デテントやコーアクシャル脱進機は脱進機が重いため、高振動には向かないと説明する。軽量化したデュアルインパルス脱進機は、その知見を反映したものと言えるだろう。なお、脱進機はセイコーの“お家芸”であるMEMSで成形されている。軽量化のため肉抜きしたのは、既存の9S系に同じだ。

デュアルインパルス脱進機

長いパワーリザーブを可能にしたもうひとつの要因が、新しいデュアルインパルス脱進機。拘束角は既存のスイスレバーに同じだが、軽量化されている。また、緩急装置もショックに強く、等時性の高いセイコーフリースプラングに変更されている。慣性モーメントは既存の9S系に同じ、9mg・mm2。ヒゲゼンマイも、平ヒゲではなく、独自の外端曲線を持つ巻き上げヒゲである。

 なお、セイコーは9S系の振動数を上げるに際して、ガンギ車の歯数を増やすのではなく、輪列に中間車をひとつ加えて、ガンギ車の回転数を上げるというアプローチを取っている。セイコーインスツルの技術陣は、トルクのロスは増えるがテンプの挙動は安定する、と説明する。これは9SA5も同様で、輪列に中間車を加えることで、高振動ムーブメントに付きものの、テンプの不安定な挙動を廃している。