世界経済の減速によって、時計市場に暗雲が垂れ込めはじめている。そんなムードを拭い去るかのように、今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG)ではさまざまな新作時計がお披露目された。一方、ここ2~3年で多かった超高額品の発表は鳴りを潜め、代わって通好みの、クラシカルなモデルへと回帰するトレンドが目立った。今回は、そんなW&WGで発表された傑作時計がお題。1位はその潮流を反映するカルティエ「タンク ア ギシェ」だ。
暗雲を吹き払うW&WG 2025
10位 シャネル/J12 BLEU
23point / 3persons

自動巻き。高耐性マットブルーセラミック×SSケース。数量限定。178万2000円(税込み)。(問)シャネル カスタマー ケア センター Tel.0120-525-519
黒でも白でもなく、ブルーを初めて選択したシャネル。しかも黒に近い青、青に近い黒という絶妙なニュアンスカラーにワザあり。搭載ムーブメントも優秀だ。(菅原)
9位 ジャガー・ルクルト/レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド
30point / 2persons

手巻き。18KPGケース。642万4000円(税込み)。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833
昨年から色気系ゴールドブレスレットが、気になっている。今年ならコレか。(篠田)
8位 ジャガー・ルクルト/レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク
36point / 2persons

手巻き。SSケース。330万円(税込み)。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833
レベルソに世界時計を合わせた、ありそうでなかった時計。機構を加えたにもかかわらずケースは薄く、装着感は快適。今のジャガー・ルクルトらしく、ケースや文字盤の仕上げも良好だ。正直これは欲しい。(広田)
7位 ゼニス/G.F.J.
41point / 5persons

手巻き。Ptケース。695万2000円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
予想もしていなかった復刻。エル・プリメロだけじゃない、天文台の精度コンクールで最多の賞に輝いたキャリバー135もぜひ見てほしいという熱意を感じる。(菅原)
6位 ショパール/L.U.C クアトロ‐マーク Ⅳ
43point / 4persons

手巻き。Ptケース。722万7000円(税込み)。(問)ショパール ジャパンプレス Tel.03-5524-8922
約9日間のロングパワーリザーブを実現した「L.U.C クアトロ」25周年記念モデルは直径39mmの小ぶりなケースが良い。ライトブルーのダイアルとグレーストラップの組み合わせも素敵だ。(名畑)
5位 ロレックス/オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー
48point / 4persons

自動巻き。Ptケース。予価942万7000円(今夏発売予定)。(問)日本ロレックス Tel.0120-929-570
独自設計のダイナパルス エスケープメントを採用したロレックス初のハイビートムーブメントCal.7135は、ロレックスの次世代基幹機。さらに、名作「オイスタークォーツ」譲りのブレスレット一体型ケースデザインが採用されるなど、見た目にも新時代を感じられる。話題に事欠かない1本。(安藤)
4位 パルミジャーニ・フルリエ/トリック パーペチュアルカレンダー
57point / 5persons

手巻き。Ptケース。1511万4000円(税込み)。(問)パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com
格別な気品が漂うクワイエットラグジュアリー。ダイアルを賑やかに飾るパーペチュアルカレンダーとは異なるミニマムデザインのダイアル、モーニングブルーの彩りが絶品。(菅原)
3位 A.ランゲ&ゾーネ/1815
62point / 5persons

手巻き。18KPGケース。385万円(税込み)。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
時計好きは見逃せない。38. 5mmから34mmへの小径化と6.4mmの薄さは、名作「サクソニア・フラッハ」に迫る。再設計された手巻きムーブメントは、パワーリザーブも約72時間に向上。(菅原)
2位 グランドセイコー/エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. SLGB003
68point / 4persons

スプリングドライブ自動巻き。ブライトチタンケース。151万8000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー)Tel.0120-302-617
軽くて傷に強いブライトチタン製の37mmケースに、年差±20秒という超高精度スプリングドライブU.F.A.を搭載。取り扱いやすさも精度も、これ以上望むものはない。(髙木)
主ゼンマイで動く時計として、史上空前の精度を実現したモデル。もっとも、見るべきは時計としてのまとまりの良さ。適度なサイズと、軽いブライトチタン製の外装など、実用時計としての基本を決して外していない。(広田)
1位 カルティエ/タンク ア ギシェ
73point / 5persons

手巻き。Ptケース。予価970万2000円(9月発売予定)。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00
「窓」を意味する「ギシェ」という名の通り、ふたつの窓で時と分を表示する機械式デジタル。この新作はその窓を、ちょっとひねった位置に置いているのがおしゃれ。(名畑)
コレクター心をわしづかみにするカルティエ プリヴェの9作目となる本作は、カルティエの歴史の中でも特に人気の高い“鉄仮面スタイル”が魅力。中でもプラチナモデルはデザインがさらにひと捻りされており、単なる復刻モデルではない。将来的に伝説的モデルになることは間違いなし。(安藤)
選考委員による選定モデルの詳細
菅原 茂(71歳) 時計ジャーナリスト
「控えめの良さを再認識」
高度な複雑機構とは対照的なシンプルウォッチが多いように思う。見た目はシンプル、実用性にも優れ、一方でさりげなく技術を凝らす、そんな「控えめ」志向は歓迎すべきトレンドに違いない。
- パルミジャーニ・フルリエ/トリック パーペチュアルカレンダー
- ショパール/L.U.C クアトロ‐マーク Ⅳ
- チューダー/ペラゴス ウルトラ
- ジャガー・ルクルト/レベルソ・トリビュート・デュオ・スモールセコンド
- パテック フィリップ/8日巻きカラトラバ Ref.5328
- ゼニス/G.F.J.
- ロレックス/オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー
- IWC/インヂュニア・オートマティック42
- A.ランゲ&ゾーネ/1815
- シャネル/J12 BLEU
篠田哲生(50) ウォッチディレクター
「スイスの取材とは次に買う時計を探す旅」
スイスに時計取材に行きはじめて20年を超えるが、その目的は首尾一貫して「次に買うべき時計」を探すこと。カッコ良く言うとユーザー目線。端的に言うと公私混同。とはいえ、買う気で見なければ何事も本気になれない。だから今回も、その気で選びました。ただし9位と10位は、欲しいけど買えない時計ゆえ“例外”ですので悪しからず。
- カルティエ/タンク ア ギシェ
- ジャガー・ルクルト/レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド
- グランドセイコー/エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. Ref.SLGB003
- IWC/インヂュニア・オートマティック 35 Ref.IW324903
- A.ランゲ&ゾーネ/1815
- パルミジャーニ・フルリエ/トリック パーペチュアルカレンダー
- ゼニス/G.F.J.
- ロレックス/オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー 36
- ヴァシュロン・コンスタンタン/レ・キャビノティエ・ソラリア・ウルトラ グランドコンプリケーション─ラ・プルミエール ─
- パテック フィリップ/コンプリケーテッド・デスククロック Ref.27000M
安藤夏樹(49歳) 編集者
「プラチナ、小径、シンプル機能」
金価格の暴騰が理由なのか、はたまた技術向上の結果か、今年はプラチナケースの良作が目についた。ケースサイズは40㎜を切るものが主流となり、本格的に小径化の波が来ている。シンプル機能が多いのは景気後退局面だからということもあるだろうが、一生ものの1本を買うには最適な局面かもしれない。
- カルティエ/タンク ア ギシェ
- ロレックス/オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー
- グランドセイコー/エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. Ref.SLGB003
- A.ランゲ&ゾーネ/1815
- ジャガー・ルクルト/レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド
- シャネル/J12 BLEU
- ブルガリ/オクト フィニッシモ ウルトラ トゥールビヨン
- ショパール/L.U.C クアトロ‐マーク Ⅳ
- ゼニス/G.F.J.
- パルミジャーニ・フルリエ/トリック パーペチュアルカレンダー
髙木教雄(62歳) ライター
「個人的な好みの名品が大豊作」
ダイアルにさまざまな中間色が増え、ハードストーンダイアルもいくつも登場するなど、外装面で見どころが多かった。クラシック回帰はより顕著に進み、ケースも小径化が図られている印象。こうした傾向は大歓迎である。心から欲しいと思える新作に例年以上に出会えたので、10作に絞るのに苦労した。ああ円安と金相場の高騰が恨めしい。
- A.ランゲ&ゾーネ/1815
- グランドセイコー/エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. Ref.SLGB003
- ジャガー・ルクルト/レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク
- パルミジャーニ・フルリエ/トリック パーペチュアルカレンダー
- カルティエ/タンク ア ギシェ
- アーノルド&サン/コンスタントフォース トゥールビヨン 11
- ゼニス/G.F.J.
- パテック フィリップ/カラトラバ Ref.6196P
- チューダー/ブラックベイ 58
- H.モーザー/エンデバー スモールセコンド コンセプト ポップ
名畑政治(65歳) 時計ライター
「小径化とデイトなしのトレンド大歓迎」
今もなお、時計のトレンドは小径化とデイトなしということで、これに即した新作がやはり多かった印象。加えて復刻版的モデルが多いのも、やはりトレンドだから、正直、私が好きなモデルがたくさん出てきたなという印象。例によって、すべて同列、順位なし。
- ノモス グラスヒュッテ/クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー
- H.モーザー/エンデバー・センターセコンド コンセプト パープルエナメル
- シャネル/J12 BLEU
- ブルガリ/オクト フィニッシモ ウルトラ トゥールビヨン
- アンジェラス/クロノグラフ テレメーター
- ショパール/L.U.C クアトロ‐マーク Ⅳ
- クロノスイス/パルス ワン
- カルティエ/タンク ア ギシェ
- ゼニス/G.F.J.
- パルミジャーニ・フルリエ/トリック パーペチュアルカレンダー
広田雅将(51歳)『クロノス日本版』編集長兼アートソルジャー
「今回は、あえて手堅い時計に注目しました」
華やかな時計も多く見られた2025年のW&WG。もっとも時計を取り巻く市況が、総じて地味な印象を与えたのは否めない。というわけで、今回は買いたくなる時計をセレクト。どの時計も、内外装の抜けのなさは際立っている。
- ジャガー・ルクルト/レベルソ・トリビュート・ジオグラフィーク
- グランドセイコー/エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. Ref.SLGB003
- ロレックス/オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー
- ルイ モネ/1816
- A.ランゲ&ゾーネ/1815
- カルティエ/タンク ア ギシェ
- ショパール/L.U.C クアトロ‐マーク Ⅳ
- タグ・ホイヤー/タグ・ホイヤー フォーミュラ1 ソーラーグラフ
- ヴァシュロン・コンスタンタン/パトリモニー・オートマティック
- エルメス/アルソー タンシュ ス ポンデュ
ランキングの集計ルール
●選考委員は、各号のテーマに沿った腕時計を10本選び、順位をつける。
●選考委員ひとりあたりの所持ポイントを110点とし、これを1位20点、2位18点…… 10位2点として選考モデルに振り分ける。
●選考された時計が順位無しの場合は、所持ポイントを10等分して、各モデルに11点を与える(選考本数が10本に満たない場合でも、1モデルあたり11点とする)。
●獲得点数が同点となった場合は、選考者数の多いモデル、その中で選考順位の高いモデルの順で優位とする。
●最低有効得票数を2票とする。