【76点】モーリス・ラクロア/ポントス クロノグラフ

FEATUREスペックテスト
2015.12.03

容姿に想いをかきたてられて

計雑誌の編集者として仕事をしていても、その責務を忘れてしまいそうになることが時々ある。金庫の中には撮影待ちの時計がずらりと鎮座していて、これからテストを行い、それらについて書かなくてはならない。その現実を眼前にしているにもかかわらず、特定の別の1本が頭から離れない。そのメーカーは特に華々しくマニュファクチュールを謳っているわけでもなく、締め切りが迫っている今、そもそも余分なことに心を奪われている猶予はないのだ。しかし、そんなことはどうでもいい。ともかく、その時計の現物を目にしなくてはならぬ。実際に手にしてチェックし、使い心地を確かめ、長所を知りぬかなくては。何はともあれ、とりあえず腕に着けてみたい。

 ひと目惚れして、そんな思いにかられたのが、装い新たになったポントス クロノグラフだった。心を奪われた理由というのは、他のほぼすべてのラグジュアリーアイテムと同様に、そのデザインにある。スポーティーで、かつ、気品が漂う。独自性がありながら、突飛ではない。レトロ感はあっても、いかにもな懐古調にあらず。文字盤の適度に引き締まったカラーと配置は、クロノグラフ愛好家以外でも引き付けられる。立体感のある黒い積算計は、艶やかに白く塗られた文字盤の地色によく合い、整っている。こうなると、実際にクロノグラフの機能を利用するかどうかなど、大した問題ではないのだ。
 しかし実用するとなると、タイムキーパーとして使用できるだけではなく、タキメーターの目盛りを活用すれば、平均速度の測定も可能だ。青の目盛り上の、リュウズの位置するあたりが時速250㎞。そこから始まり、ぐるりと回って赤い目盛りの時速50㎞で締めくくられている。クロノグラフでは通常60㎞で終わっていることが多いが、このモデルではエンド位置を文字盤の12時位置ではなく、ぐっと右方向へずらして2時と3時の間に持ってきているのだ。目盛りの青い色は、クロノグラフ針と揃えてある。