【92点】グラスヒュッテ・オリジナル/セネタ・クロノメーター

FEATUREスペックテスト
2009.11.29

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伝統的なマリン・クロノメーターのスタイルを踏襲する文字盤では、パワーリザーブ表示が12時位置に、スモールセコンドが6時位置に配されている。“ポワレ型”の青焼き針とポリッシュ仕上げの袴座、そしてグラスヒュッテ・オリジナル独自のパノラマデイト表示が、外観を完成させている

時刻合わせはとても簡単

「キャリバー58‐01は、歴史的なポケット・クロノメーターとデッキウォッチの技法に則って設計されました。直径35mmという大型手巻きキャリバーは、リスト・クロノメーターやパイロットウォッチ用に開発されたのです。ムーブメントの設計時には、3/4プレートや構成部品の仕上げ作業、また表示エレメントの配置など、グラスヒュッテの伝統を重視しました」
このように、セネタ・クロノメーターの伝統的な意匠やムーブメントの仕上げは完璧と言っても過言ではない。ただ、重厚なダブルフォールディングバックルだけは、調和の取れた全体像を少々損なっている感がある。ソリッドゴールドでできたバックルは高級感があり、その上、ストラップの長さを調整することもできるのだが、残念ながら取り扱いが非常に面倒である。サイドにあるボタンで短い方のバックルを閉め、その後で長い方のバックルを閉めようとすると、短い方が開いてしまうのだ。そのため、時計を着ける際はいつでも、バックルの扱いに時間がかかってしまう。シンプルなフォールディングバックルの方がよい解決策ではなかっただろうか。
正確さを追求したセネタ・クロノメーターで重視されているのは、高い精度だけではない。キャリバー58‐01は、時刻合わせにおいても新たな道を切り開くべく設計されている。独自の秒針ゼロストップ機構は、まさに新機軸と呼ぶにふさわしい。

時刻合わせを行うためにリュウズを第1ポジションに引き出すと(リュウズにはひとつのポジションしかない)、時刻を表示するエレメントが停止し、秒針がゼロの位置にジャンプして戻る。秒針がゼロで止まっている間、分針は〝見えざる手〟によって、ひとつ前あるいはひとつ先のミニッツインデックスに移動する。ここで時刻を合わせるためにリュウズを回すと、分針を分刻みで動かすことができる。つまり、秒針がゼロに位置しているときに、分針が2本のミニッツインデックスの中間地点で止まる恐れがないように設計されているのだ。時報に合わせて素早く簡単に修正したい場合には、特に便利な機構である。つまり、リュウズを引き出し、時報がひとつ先の分まで進むのを待ち、リュウズを再び押し込む。これだけで、セネタ・クロノメーターは正しい時刻で再び時を刻み始める。これに比べると、通常の時計では、時刻合わせにもっと手間がかかる。まず、秒針がゼロに到着するまで待たなければならない。そして、秒針がゼロを通過する瞬間に素早くリュウズを引き出し、分針を正確にひとつ先のミニッツインデックスに合わせ、時報がゼロになったと同時にリュウズを押し込まなければならないのだ。
このメカニズムは、一体どのように機能するのだろうか。リュウズを引き出した状態での秒針ゼロストップ機構を示した図をもとに、考えてみよう。通常の三針時計の場合、時刻を合わせるときにリュウズを回すと、伝え車を介して二番カナが回転する。二番カナは常に、日ノ裏車を経由してツツ車とかみ合った状態になっている。時針と分針の動きが連動しているのはそのためだ。つまり、分針が45分を指していれば、時針もふたつのアワーマーカーの間で4分の3進んだ場所にあることになる。ただし、この理論は秒針と分針の動きには当てはまらない。二番車と二番カナがスリップして回るため、秒針への連結が解除されるからだ。故に、秒針がゼロを指していたとしても、分針がミニッツインデックスの中間地点を指していることもありうる。

グラスヒュッテ・オリジナルのエンジニアは、この問題を解決する策を考案した。秒針がゼロの位置にある場合は、分針が必ずインデックスを指す方法だ。従来のように、二番カナがスリップする構造とは異なり、セネタ・クロノメーターではロックリングに2個の爪がかみ合うことで、二番真に対して二番車が回転する仕組みになっている。2個の爪は、絶えず動力を受けながら、ロックリングに刻まれた60個の歯と正しくかみ合うように配置されている。二番車の機構(9)は、三番車の機構(8)にある三番カナによって駆動される。三番車の機構は二重構造になっており、スプリングあるいはディスクスプリングを用いたフリクションクラッチによって、片方の三番車が二番車の機構と連結し、もう1枚の三番車には輪列からの動力を伝える役割がある。駆動用の三番車はカナを介し、同じく二重構造になっている四番車の機構(7)に動力を伝える。四番車は、一方が輪列からの動力を伝えるためにガンギ車と連結しており、もう一方は二番車へと続く三番車の機構に連結している。これら2枚の四番車は、フリクションクラッチによって接続している。四番車の機構の中で分表示と連関している部品には、秒を表示する役割があり(秒針軸)、秒針をゼロに戻すハートカムは、ここに取り付けられている。リュウズが押し込まれた状態では、おしどり(2)によってリセットカム(3)とゼロリセットレバー(4)の歯がかみ合い、四番車のハートカムから解除される。

リュウズを引き出すと、おしどりの歯がリセットカムを回転させ、リセットカムとゼロリセットレバーの歯が解除されることによってゼロリセットレバーがハートカムの方向へ押され、秒針が取り付けられている四番真がゼロのポジションに動いて、ここで固定される。ゼロリセットレバーは同時に、ハートカムが作動領域に達する直前にブレーキレバー(5)を解除する。解除されたブレーキレバーはさらに、テンプとムーブメントを止めるためのブレーキスプリング(6)を解除する。二番車の下部機構は、秒針ゼロストップ機構によって三番車の機構に固定される。
ここで、時刻合わせを行うためにリュウズを回すと、二番カナが正確にかみ合いながら二番車の方へと動き、分を任意に合わせることができる。ハートカムには、弾力のあるゼロリセットレバーによって、一定以上のスプリング力がかからないようになっているが、四番車の機構を損傷することなく、秒針が確実にゼロに戻るようにスプリング力を調整する必要がある。リセットカムとゼロリセットレバーには特別な形の歯が切られており、ゼロリセットレバーに溜められたスプリング力によって発生するトルクは、この歯があるためにおしどりには伝達されないようになっている。その結果、巻き真(1)とリュウズには力がかからず、時刻合わせの際は問題なく回すことができる。リュウズを押し込み、それによって巻き真が停止位置になると、おしどりがリセットカムを動かす。リセットカムとゼロリセットレバーの歯がかみ合うと、ゼロリセットレバーはもとの位置に戻る。すると、ゼロリセットレバーは四番車のハートカムを解除し、同時にブレーキレバーもゼロリセットレバーによって停止位置に移動する。こうして、テンプを押さえていたブレーキスプリングが外れてテンプが解除され、ムーブメントは再び動き出す。三番車の機構と四番車の機構が二重構造になっていることから、秒針と分針は寸分のずれなく始動する。